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岡口裁判官の分限裁判、9割の弁護士が「懲戒処分に該当しない」 326人緊急アンケート

2018年09月10日 13:02  弁護士ドットコム

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Twitterの投稿によって訴訟当事者の感情を傷つけたとして、東京高裁の岡口基一裁判官の懲戒が申し立てられ、分限裁判の審問が9月11日に開かれる(「分限裁判」とは、裁判官の免官や懲戒について裁判所が判断する裁判)。


【関連記事:岡口裁判官の分限裁判・緊急弁護士アンケート 101人のコメント全文(上)】


岡口裁判官がインターネット上に公開している申立書(https://okaguchik.hatenablog.com/entry/2018/08/04/130736)によると、今年5月、岡口裁判官はTwitter上で、犬の遺棄を巡る東京高裁判決や判決について報じた記事のURLとともに、「え?あなた?この犬を捨てたんでしょ 3ヶ月も放置しておきながら・・」などと書き込み、当事者の感情を傷つけたとされる。


岡口裁判官は、「表現行為の一部だけを切り取って,その部分のみを非違行為とすることは絶対に許されない」などと反論。また、Twitterのサービス利用自体をやめるように求められたことに対しては、「表現の自由の侵害に当たることは明らか」としている。


今回、弁護士ドットコムに登録する弁護士に、岡口裁判官に対する懲戒申し立ての妥当性などを聞き、326人の弁護士から回答が寄せられた。結果は以下の通り。


●「申し立ては妥当でない」が87%、「懲戒に該当しない」が91%

Q1 岡口裁判官への懲戒申し立ては妥当と考えますか。


申し立ては妥当→27人(8.28%)


申し立ては妥当でない→284人(87.12%)


わからない・どちらとも言えない→15人(4.60%)


Q2 岡口裁判官の行為は懲戒処分に該当と考えますか。


懲戒処分に該当する→22人(6.75%)


懲戒処分に該当しない→297人(91.10%)


わからない・どちらとも言えない→7人(2.15%)


申し立ての妥当性については9割弱が、「妥当でない」との見解を示した。懲戒処分に該当するかについては、9割以上が否定的な見解を示し、申し立ての妥当性の否定と比較し、4ポイント程度増えた。


また、自由回答でコメントを求めたところ、101件のコメントが寄せられた。様々な視点から多くの意見が寄せられたが、「岡口裁判官のツイート内容」「裁判官の情報発信」「裁判所のあり方」の3つに絞って、主な意見を紹介する。


●ツイートをめぐる意見「一般市民の感覚からしたら当然のことを表現しているだけ」「不適切であったとの批判は免れない」

まずは、岡口裁判官のツイート内容についてのコメントを紹介したい。


申立書によると、今回の懲戒処分の対象となった書き込みは1件だった。懲戒不相当とした櫻井光政弁護士は「『感情を害した』『気分を害した』などという非理性的な非難を理由に、憲法上の身分保障がなされている裁判官に対して安易な懲戒がなされることはあってはならない」とした。同じく懲戒不相当とした川村明伸弁護士も「一般市民の感覚からしたら当然のことを表現しているだけと思う。問題とするのは言葉狩りのレベル」とする(「言葉狩り」とは、特定の言葉の利用を、背景などを考慮せずに過度に禁止したり、責めたりすること)。


また、「裁判の場での裁判官の発言によって当事者が感情を傷つけられることがあっても懲戒請求されたという話を聞いたことがないことからしても、(今回の対応は)違和感を感じる」(懲戒不相当、匿名)という声もあった。


一方、申立理由となった書き込みに問題があるという声も。「懲戒相当か不明」とした金谷達男弁護士は「現職の裁判官である岡口判事がSNSで自身が所属する同じ東京高裁の実際の事件に言及することは、司法に対する国民の信頼の観点からやはり問題があると思う」と指摘。懲戒相当とした和田丈夫弁護士は、「自らの職務行為を貶めかねないふざけた言動は慎むべきであろうし、模範人としての行状と品位を求められて然るべき」としている。


懲戒不相当としたある弁護士も「懲戒処分には該当しないものと思われるが、裁判官という身分を明らかにして行う表現は、単なる一私人として行う表現に比べ、配慮が必要となるはずであり、この観点から岡口裁判官の表現は、不適切であったとの批判は免れないものと思われる」として、書き込み自体に問題がないとは言い切れないとの見方だ。


●申し立て対象以外の情報発信「自分が当該被疑者の弁護人であったらクレームを入れる」

懲戒相当とした弁護士からは、申し立て理由となっていない他の発信を問題視する声が多かった。「性的事件についての被疑者に対する揶揄はひどく、被疑者の実名の載っている記事を引用しながら当人を揶揄するコメントを付けたツイートが散見された。自分が当該被疑者の弁護人であったらクレームを入れるであろうと毎回思っていた」(懲戒相当、匿名)「政治的発言を理由に処分すると、政治活動の自由との関係が出てきてややこしいので、今回は他の理由が表に出ているものと考えられる」と推測する声もあった。


また、「(以前の)刑事事件に関する同様のコメントについて、注意を受けたばかりであり、わずか半年の間に2回繰り返したことになるから、軽度の懲戒処分はやむを得ない」(懲戒相当、匿名)という指摘もあった。


ただ、懲戒不相当とした濵門俊也弁護士は、岡口裁判官が過去に厳重注意処分を受けていることを指摘した上で、「(過去の経緯もふまえて)岡口裁判官を処分するのであれば、本件懲戒申立書の『申立ての理由』に記載されている事実以外の理由・事情について処分することとなり、実質的に余罪をもって処分することとなる」として許容されないとの考えを示した。


●裁判官の情報発信「外に発信していくことが国民の信頼を得ることにもなる」「表現の自由が侵害されているとは思えない」

次に、裁判官の情報発信(SNS利用や表現の自由との関係など)についてのコメントを紹介したい。


この観点についても、擁護する声が目立った。懲戒不相当とした福本昌教弁護士からは、「裁判官といえども当然ながら表現の自由を有するところ、本申立ては、裁判官個人の表現の自由を萎縮させるものであり、その表現の内容にも鑑みると申立自体妥当ではない」と指摘。同じく懲戒不相当とした脇島正弁護士は「裁判官がおよそ常識的な通常人であることを世間に示すためにも、裁判所の建物の中にこもるのではなく、外に発信していくことが国民の信頼を得ることにもなると思う」としている。


他の裁判官への影響を指摘する声も。山辺哲識弁護士は、「本懲戒が認められれば裁判官はSNSの利用を控える方向に動き、万が一裁判所による裁判官に対する差別や圧力があっても、裁判官個人による発信に支障が生じるおそれがある」との見解。「(申し立ての根拠となった)裁判所法49条『品位を辱める行状』は基準が曖昧で、私生活上の行為について安易に該当することを認めると、裁判官の私生活上の表現まで不当に制約することになりかねない」(懲戒不相当、匿名)として、表現の自由に抵触するとの見解があった。


海渡雄一弁護士(懲戒不相当)は、「自らの市民的自由が保障されている環境でなければ、裁判官が市民の人権を保障する判決を書くことも困難。裁判官が、臆することなく、憲法と良心だけに従って真に独立して裁判を行えることと、自らの信ずることを自由に発言できることとは、実は表裏の関係にある」として、裁判官の自由な情報発信を認めるべきとの考えを示した。


ただ、「ツイッターの全面使用禁止までは行き過ぎだと思うが、投稿それ自体は懲戒の対象になっても違和感はないし、表現の自由が侵害されているとは思えない」(懲戒相当性不明、匿名)として、表現の自由に抵触しないとの見方もあった。


●裁判所のあり方「重々しい空気が伝わってくる」「分限裁判自体、裁判官の独立性を確保するために、公開とするべき」

最後は、裁判所のあり方(裁判官の統制、分限裁判など)についてのコメントだ。


懲戒不相当とした弁護士からは、裁判所の姿勢を疑問視する声も少なくなかった。小林玲生起弁護士は「『出る杭は打ってやろう』『裁判官はおとなしく上(最高裁、事務局)の判断に従っていればいいんだ』という裁判所の重々しい空気が伝わってくるような事件」。


同じく懲戒不相当とした南川麻由子弁護士は「雇用主である裁判所が、従業員たる裁判官の言論を統制するために分限裁判制度を濫用することはあってはならない」と指摘。白木麗弥弁護士(懲戒不相当)も「実質的に思想について介入していると思わざるを得ない。分限裁判をこのような目的で使えば裁判官のさらなる思想統制につながるのではと懸念している」としている。


「司法の役割からしても、裁判所は、少数者の人権の最後の砦として、人権意識に敏感であるべきで、裁判官の統制を強めるのではなく、裁判官の意見表明がもっとオープンにできる環境作りに努力して欲しい」(懲戒不相当、匿名)と、変化に期待する声もあった。


また、分限裁判のあり方やマスコミで話が広がったことを疑問視する声も。「分限裁判自体、裁判官の独立性を確保するために、公開とするべき。まして、裁判所自体が今回の件についてマスコミにリークすること自体合理性がなく、むしろ守秘義務に違反しており、そのような裁判所の行為自体が分限裁判の対象になるのではないか」(懲戒不相当、匿名)との指摘もあった。


裁判所に理解を示す声もあった。「(岡口裁判官は)政治的なトピックや性的な話題に関するSNSへの投稿が非常に多い。政治がらみの裁判で公正中立な判断ができるのかという点に一般国民が疑問を抱いたり、裁判所の威信が失われることを人事当局は一番憂慮しているものと思う」(懲戒相当、匿名)との意見が出た。


弁護士のコメント全文はこちらの記事に掲載→https://www.bengo4.com/other/n_8507/


(弁護士ドットコムニュース)