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原作と異なる描写に批判の声も 『この世界の片隅に』最終回は現代パートが鍵に?

2018年09月10日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

 広島の町に新型爆弾が投下され、爆心地から山一つ、距離にして20km強離れた呉の町ではどこからか飛んできた戸が木に引っかかっているだけで、広島に何が起きているのか誰も知らない。江波に住む家族がどうなっているのか、気が気でないすず(松本穂香)は、髪をばっさりと切り落とし、強くなることを心に誓うのだ。


 9月9日に放送されたTBS系列日曜劇場『この世界の片隅に』は第8話を迎え、佳境へと突入した。8月15日の玉音放送を正座して聴いたところで、その状況をうまく飲み込むことができない人々。そして、戦争に負けたことを何となく理解するものの、はたしてそのあと自分たちにどのような暮らしが待っているのか、漠然とした不安が襲いかかってくる一連の描写は、もしかすると当時の人々のリアルな心情に近いものなのかもしれない。


 そんな中で、玉音放送を聴いたすずが激高する場面は、この物語のひとつのピークであることは言うまでもない。物語の主題たる“戦争”が終わることで、登場人物たちの暮らしに大きな変化が訪れていくきっかけとなるからだ。しかしながら、その直後に描かれるはずの、ある重要な描写がこのドラマ版ではまるっとカットされていたのである。


 それは、畑からすずが見下ろす景色の中に太極旗がひとつはためいているカット。幼い晴美やすずの兄・要一、そしてすずの右手を奪っていった“戦争”というものが決して一方通行の暴力ではなかったということ、日本は被害者であると同時に加害者でもあったということを知ったすずが、その場で泣き崩れ「知らんまま死にたかった」とつぶやく場面が、原作コミックとアニメ映画版の両方には描かれていた。


 それをカットしたことによって、戦争の被害者としての立場のまま、終戦を迎えた悔しさとやり場のない悲しさですずが泣き伏せているという場面へと変わってしまっていたのである。それは戦争ドラマとしての描き方の良し悪しや歴史解釈の問題であったり、単純に原作やアニメ映画版との比較とも異なり、もっと根本的に、この『この世界の片隅に』という物語自体が本来持っていた大きなメッセージから遠ざかってしまっているような気がしてならない。


 それでもひとつの可能性として、このドラマ版ではオリジナルの現代パートがある。物語に占める部分が圧倒的に少なく、その必要性など賛否両論あるまま最終回へと突入することになるわけだが、この現代パートが迎える結末次第では、原作とはまた違う、現代へと直接投げかける非常に大きなメッセージが描写されることになるのではないだろうか。(久保田和馬)