それは、少し唐突な質問だった。
「今日のキミ(・ライコネン)とのバトルはすごかったですね。もし来年、キミがF1を去ったら寂しいですか?」
F1第14戦イタリアGPのレースの余韻がまだ残る中で行われたトップ3による記者会見で、ある記者がそんな質問を優勝したメルセデスのルイス・ハミルトンにぶつけた。
まだフェラーリは2019年のドライバーラインアップを発表していない。多くの記者が、「仮定の話には答えられない」とハミルトンが一笑に付すと思っていた。実際、このときもハミルトンは「みんなはよく誰かがいなくなったら寂しく感じるかと尋ねるけど、そういう質問に答えるのは、皆さんが思っているより簡単じゃない」と答えた。
しかし、ハミルトンは、その後でこう続けた。
「でも、もしそうなったら当然、僕だけじゃなく、F1界全体が寂しさを感じると思う」
その瞬間、記者会見場の空気が張り詰めていくのを感じた。さらにハミルトンはライコネンとの思い出を語り始めた。
「僕がF1にデビューする前、プレイステーションでF1のゲームをするときは、いつもマクラーレンでキミのマシンだったということは、前にも話したことがあると思う。僕は彼のことをイメージして遊んでいたよ」
その後、ハミルトンは2007年のシーズン前にマクラーレンのマシンをテストしたときのことを述懐した。
「マクラーレンで初めてF1マシンをドライブしたときのことは、いまでも昨日のときのことのように鮮明に覚えている。マシンはキミが乗っていたもので、セットアップも彼が使っていたものだった。それはすごい経験だった。なぜなら、彼が当時使っていたセットアップに、とても満足できたんだからね。それは僕が彼のドライビングスタイルが似ているということを意味していたんだからね」
そして、最後にこう語った。
「彼がこれまで成し遂げて来たことは、言葉では言い尽くせない。それなのに、彼はいつも冷静で、アイスマンのまま。彼のような素晴らしいフィンランド人とレースができたことは本当に名誉なことだ」
ライコネンはその隣で、ハミルトンの答えを黙って聞いていた。
すると、別の記者がライコネンに「表彰台であなたは『また次ね、たぶんだけど』って言っていましたが、どういう意味ですか?」と質問した。するとライコネンは、引退を示唆するようなコメントを語った。
「人生にはいろんな選択肢がある。それは自分が何をやりたいのかによって、常に変わる。もうすぐ、それは明らかになるよ」
その後、フェラーリが取締役会でどのような結論を出したのかはわからない。しかし、イタリアGPが終了した直後の記者会見場は、まるでライコネンが2018年シーズン限りで引退するかのような雰囲気に包まれていた。