2018年、ホンダF1はトロロッソと組んで新しいスタートを切った。新プロジェクトの成功のカギを握る期待の新人ピエール・ガスリーのグランプリウイークエンドに密着し、ガスリーとトロロッソ・ホンダの戦いの舞台裏を伝える。
———————————
トロロッソ・ホンダのフランツ・トスト代表とは生年月日が1ヶ月しか違わない同世代ということもあって、昔から何となく親近感を感じて来た。向こうもそう思ってくれてるのかどうかはわからないが、時々たわいもない世間話をするほどには親しい。一緒にサーキットでランニングしたことも何度かあった。
最近はますます忙しくて、ランニングの時間もあまり取れないようだが、モンツァだけはできる限り毎年走っているという。同じオーストリア出身のヨッヘン・リントにあこがれてこの世界に入ってきたトストさんにとって、リント終焉の地モンツァはやはり特別な場所なのだろう。
そしてトロロッソの代表になってからは、モンツァはさらに忘れられないサーキットになった。2008年の大雨のイタリアGPで、セバスチャン・ベッテルがチームに歴史的な初優勝をプレゼントしたからだ。
一方で現行パワーユニット導入後の2014年以降は、予選で一度もトップ10内に入れず、レースでも1ポイントも取れずと、すっかり鬼門のレースになっている。
それが今季のイタリアGPで風向きが変わった。苦戦が予想された予選で、ガスリーがQ3に進出したのだ。ロングランペースも決して悪くない。決勝レース直前のトストさんは上機嫌で、ガスリーをベタ褒めだった。
「レース中は全体を見渡す能力があるし、ルーキーとは思えないほどミスが少ない。スピンやクラッシュを滅多にしないのは、抜群のマシンコントロール能力があるからだ。そして何より、それらの能力にさらに磨きをかけるための努力を厭わない」
■決勝後、さっさと帰ってしまったチーム代表
しかしレースはまたも結果を出すことはできなかった。セーフティカー明けの4周目、1コーナーでフェルナンド・アロンソに幅寄せされ、縁石に乗り上げ、フロアに深刻なダメージを負ってしまったのだ。
バランスは完全に狂い、期待したような速さは発揮できない。さらにピットインの際にタイヤ交換に手間取ったことでライバルたちに次々に先行され、15位完走が精一杯だった。
レース後のガスリーは、「あんなメチャクチャな幅寄せをするなんて、信じられない」と、アロンソに対して憤懣やるかたない風だった。確かにその通りだろう。
ではトスト代表はどう思っていたか。実はレース後、チームの公式リリース用のコメントすら残さずに、スタッフを置いてさっさと一人で帰ってしまったのである。普段は温厚なトストさんだが、実はかなりの瞬間湯沸かし器である。しかし彼の怒りはアロンソではなく、むしろガスリーに向けられたのではなかったか。
なまじガスリーを高く評価するだけに、「アロンソごときの攻撃などさっさとかわして、無傷で切り抜けてほしかった」と期待していたのではなかったかと想像する。あっという間に姿を消してしまったので、残念ながら本人に確かめることはできなかったけれど。