2018年のF1第14戦イタリアGPは、ブリスターが勝敗を分けた。ブリスターとは、タイヤ内部の温度が高温になり、ゴムに含まれる低揮発性の油分が気泡となって、タイヤ表面に近い部分でできた気泡が破裂し、表面に穴が空いた状態に見舞われることだ。
F1ではしばしば見られる症状であることから、ブリスターという言葉はほとんどの方が耳にしたことがあるはずだが、イタリアGPでは、私たちが認識している状況とは違う形で現れたため、さまざまな疑問が残った。そこで、今回はそれらの疑問を検証してみたい。
▼疑問1:日曜日のモンツァはそれほど暑くなかったのに、なぜブリスターは起きたのか?
ブリスターといえば、路面温度が高い時によく見かける症状だ。今年は7月のオーストリアGPで多くのドライバーがブリスターに悩まされたが、そのときの路面温度は43℃を超えていた。
しかし、モンツァのレーススタート時の路面温度は29℃。決して高くなかった。ブリスターは異常発熱なので、確かに路面温度が高い時にも発生しやすいが、路面温度が低いと、タイヤのグリップ力が落ちて、タイヤを滑らせてしまう。このとき、タイヤのゴムが大きく動き、異常発熱を起こすのである。
▼疑問2:なぜ、スーパーソフトタイヤではなく、ソフトタイヤに起きたのか?
2018年のイタリアGPで、ブリスターに悩まされたキミ・ライコネンが履いていたタイヤは、ソフトだった。ところがソフトよりも軟らかいスーパーソフトを履いていたとき、ブリスターは起きていなかった。
一般的に軟らかいコンパウンドよりも硬いコンパウンドのほうがブリスターが起きにくいと言われているのに、どうしてライコネンはソフトでブリスターができたのか。高いコンパウンドのほうがブリスターが起きにくいというのは、どちらもタイヤがグリップしている場合の話。タイヤを滑らせると変形量が大きくなり、内部が発熱しやすくなるため、硬いコンパウンドでもブリスターが起きやすくなるのだ。
▼疑問3:なぜ、メルセデスではなく、フェラーリにブリスターが起きたのか?
前述のように、今年の開幕戦オーストリアGPでもブリスターは多く発生したが、そのときブリスターに悩まされたトップチームはメルセデスだった。フェラーリは2台ともブリスターを発生させることなく、ふたりそろって表彰台を獲得していた。
ところが、モンツァでは両者の立場が逆転した。何があったのか? じつはクルマそのものにブリスターができるかできにくいのかという差はない。ブリスターはあくまでも異常発熱したかどうかだ。
オーストリアGPでもルイス・ハミルトンがブリスターに悩まされた状況は、セーフティカー導入の際にピットストップできなかったため、セーフティカーラン解除後にピットインしてライバルたちを猛然と追い上げたからだった。
イタリアGPではスタート直後のスピンで1周目ピットインしなければならなかったセバスチャン・ベッテルが、ソフトでペースアップを図って、ブリスターを発生させた。ライコネンも同様にハミルトンにオーバーカットされないように、ピットアウト後から飛ばしたために、メルセデスよりもタイヤを酷使していた可能性は十分考えられる。