2018年09月06日 10:42 弁護士ドットコム
労働者派遣法改正から10月で3年を迎えるのを前に、研究者や法律実務家などでつくる「非正規労働者の権利実現全国会議」は8月31日、東京・霞が関の厚生労働省記者クラブで記者会見を開き、派遣労働者を対象に実施したアンケートの調査結果や、寄せられたネットでの相談事例を報告した。3年で「直接雇用」という改正後のルールにより、派遣労働者が直接雇用されるのではなく、「派遣切り」にあっている実態が浮き彫りになった。
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このルールは、2015年の法改正で施行された「直接雇用申込みみなし制度」。派遣労働者は個人単位の期間制限3年をこえて同一の所属部署で働いてはいけないことになった。ただし、3年をこえる場合は派遣先に直接雇用を求めることができる。この法改正によって、派遣労働者の直接雇用が期待された。
ところが、実際には3年の手前で次々と派遣切りがおこなわれているという。また、2017年9月から実施しているアンケート(2018年8月24日時点で回答数237)によると、雇用形態は「有期」が85.4%を占め、「無期」はわずか8.7%で、派遣切りにあってしまうと、厳しい状況に置かれてしまう。
小野順子弁護士は「今回の法改正で、これまでよりも派遣社員の身分が不安定になった。雇用の安定につながっていない」と批判した。
ネットで寄せられた相談(計120件、約60人の弁護士が対応)の多くは、「もうすぐ3年になる。雇用が切られてしまうのではないか」というものだったという。「3年の期間制限を過ぎても、希望すれば同一組織に在籍できますか」「期限が来れば自動的に解雇となるのでしょうか」などと不安を抱える相談者が多い。
ある30代の女性(営業事務・4ー6年勤務)は「抵触日前の更新で雇い止めとなり辛いです」と声を寄せた。このような声は多数にのぼる。「2018年3月末で同社内で大量の派遣切りがありました。私だけでなく20数名同時でした」(40代・男性)などだ。
「約4年半ずっと更新し続けてきましたが、派遣法により6月いっぱいで契約終了となってしまいました。長年勤めて切られ、急に生活も環境も変わることになった心のケアはどう対処してくれるのでしょうか」という切実な相談も多い。
中には、「派遣先が3年目を迎える派遣社員を、一斉にぐるっと部署異動させ抵触日をリセットしようとしています。こんな方法がまかり通るのでしょうか」という怒りの声も寄せられた。派遣労働者を直接雇用せずに、人を変えて派遣を使い続けるという企業も少なくないのだという。
直接雇用できない理由として、ある相談者は会社から「予算がないから」と言われたそうだ。小野弁護士は「企業が派遣会社に紹介料や手数料を取られてしまうためだ」と話した。
ある相談者は「今年3年の区切りを迎える派遣社員がたくさんいます。初めは派遣先も直雇用を前向きに考えていただけていましたが、派遣会社が要求する紹介料の額の高さに考えを変えてしまったようです。派遣先・派遣元の契約書の裏書に、直雇用の場合は年収の○%を支払うというものがあるそうなのですが、これは適法なのでしょうか?ほとんどの派遣会社がやっているようです。これでは直雇用が進まないと思うのですが」と疑問を投げかけている。
同会議・事務局長の村田浩治弁護士は「法改正は、派遣労働者の保護のためにおこなわれたはずだが、実際には派遣労働者の直接雇用化は進んでいない。今年は法改正から3年が経過する年。かならず法律の見直しをしなければならない」と強く訴えた。
アンケートに寄せられた派遣労働者の声からは、改正法に対する強い不満がうかがえる。
「酷い法律」(40代・女性)
「私たちの意見もきかずに作った法でなんで失業しなくちゃいけない」(40代・女性)
「法律を作った方々の浅はかさにゲンナリします」(40代・女性)
「誰のための法改正なのか、悪法としか思えません」(40代・女性)
「企業側に有利な解釈をして派遣切りが横行しています」(50代・女性)
派遣労働者のネット相談は無料、寄せられた相談には弁護士が回答する。村田弁護士は「ネット相談(http://hiseiki.jp/)で気軽に声を寄せていただきたい」と話した。
(弁護士ドットコムニュース)