8月24~26日に、鈴鹿サーキットを舞台に争われたインターコンチネンタルGTチャレンジ第3戦・第47回サマーエンデュランス 鈴鹿10時間耐久レース。このレースでは、スーパーGT第5戦富士でクラッシュを喫し、厳しいスケジュールのなか新車を用意したModulo Drago CORSEが急遽新車を用意し参戦。燃料系のトラブルに見舞われながらも、21位でフィニッシュした。
今季からホンダNSX GT3を使用し、スーパーGT GT300クラスに参戦した道上龍率いるModulo Drago CORSE。既報のとおり、8月4日に行われていたスーパーGT第5戦富士の公式練習中にヒットされるかたちでリヤエンドが大破。チーム代表の道上は当初から参戦を予定していた鈴鹿10時間に向け、急遽新車のシャシーナンバー016を投じることを決断し、道上龍/大津弘樹/小暮卓史というドライバーラインアップで参戦することになった。
8月23日の特別スポーツ走行1から新車とともに走行を開始することになるが、Modulo Drago CORSEの34号車NSX GT3は、強いオーバーステアに悩まされることになる。リヤタイヤの剛性感が感じられず、ありとあらゆるセットアップを試すも、なかなか解消できなかった。
「今回、ピレリタイヤのグリップに悩まされましたね。スーパーGTでもリヤグリップを確保しなければならないですが、スーパーGTでは専用のタイヤがある。今回はNSXにとって剛性感がなかった感じです。ヨレるというか」というのは道上だ。
「リヤはしっかりさせたかったので、セットアップでいろいろやりましたが、全然スーパーGTのセットが通用しない感じでした。あり得ないくらいのキャンバーをつけたりしましたが……」
この状況下では、いかに3人の豪華ドライバーたちをもってしても「いつスピンしてもおかしくない(道上)」という状態になってしまう。道上はこう続けた。
「コーナーの立ち上がりは電子デバイスが入るのでなんとか抑えられますが、ターンインのときのリヤはどうしても電子制御が効かない。ドライビングですごく苦労しました。2分5秒や6秒というラップタイムの世界で、こんなにしんどいのかと(苦笑)」
■予選ではスピン。「天ぷらの揚げる前みたいに……」
ブランパンGTシリーズ・アジア参戦チームをはじめとした上位陣に対し、ラップタイムとしては苦しい戦いを強いられたModulo Drago CORSEだったが、3人のドライバーたちが予選Q1では安定したラップを刻み、Q2シュートアウトに進出する。なかでもQ1では、ふたりめにアタックした大津が2分04秒108と、3台のホンダNSX GT3勢のなかでも最速のタイムをマーク。「すごく自信になりました」と大津も喜んだ。
Q2のシュートアウトを担ったのは、3人のなかで唯一のプラチナドライバーである小暮。しかし、2分03秒台をマークしたアタック周、スプーンでトラックリミット違反を犯したことに気付いた小暮は、翌周再度アタックをかけるも、「オーバースピードでした」とデグナーでスピンを喫してしまった。
「小暮からは無線で『すいません。スピンしちゃいました』って連絡が来たんで、『ああ、そうか』と思ってモニターを見たら、砂がザバーって。天ぷらの揚げる前みたいに真っ白になって出てきましたね(苦笑)」と一瞬道上もヒヤリ。ただ、マシンにダメージが無かったのは幸いだった。小暮も「富士からの流れで、絶対に壊しちゃいけないと思っていたので……」と苦笑いを浮かべた。
ただ道上は、小暮のスピンを「その映像を観た瞬間に、そうなるだろうと思った」とかばった。
「僕たちはずっとリヤがつらいと思っていた。そのなかで予選は攻めるから、ああなるのは仕方ない。監督だけしていたらそう思わなかったかもしれませんが、僕も乗っていたから分かるんです。予選もプラクティスから考えたら、シュートアウトに残れるのかな……と思っていたくらいですから」
■レースではさまざまな経験を得る
レースでは最終的に、21位という結果に終わった。途中燃料系のトラブルがあり、ショートスティントで繋ぐ必要があったこと、そしてオーバーステアに見舞われていたことから、この結果は致し方ないところだ。
ただそれでも、Modulo Drago CORSEにとっては収穫もあった。特に大津は、スーパーGTを含めて2回目となるスタートを担当した。ちなみに今回はヨーロッパスタイルのグリーンシグナルが点いた瞬間から追い抜きができるスタート形式だ。
「気持ちとしては自分が当たっていくような気持ちでいって、混戦はうまく抜けることができました」という大津だったが、序盤混戦のなかで他車とヒット。ペナルティをとられてしまう。
「日本のドライバーだったら引くかラインを残すんですが、中途半端に抜きにいったのが良くなかったのか、まさかのペナルティでした。相手を知らないわけで、それもやっぱり世界戦を戦う難しさなのかな、と思いましたね」と貴重な経験を積むことができた様子。
「いちばん難しかったのはタイヤの使い方で、ここまでマネージメントしなければいけないのかと。スーパーGTのタイヤでも長時間走りますが、グリップは高いし、それを見越して作っている。でもピレリは、本気で走ったら30分でなくなってしまう。スタートのときは混戦で使ってしまうので、15周くらいでなくなってしまう感じでした」
また小暮も、「楽しかったのは楽しかったんですけどね。疲れました(笑)」と初めてのGT3でのレースを振り返った。
「上位とのペースの差は仕方ないです。NSXにあのタイヤが合っていませんでした。チームは頑張ってくれましたけど……。NSXは素性がいいのに、もったいないですよね。でも一度装着して走ったことで、いい方向にいくんじゃないでしょうか」
■「NSXのポテンシャルも上げなければ」
小暮も大津も、そして道上も、「来年も出たいです」と初めての鈴鹿10時間を経験したことで、ふたたび情熱を燃やしはじめたようだ。
「また出場してみたいですね。このタイヤを攻略して上位を狙ってみたいです」と大津は言う。
「メカニックの皆さんも大変な思いをされてきたので、レースが終わって握手したときには、僕が言うのもなんですが感動しましたね。ウルッときました」とスーパーGT第5戦富士からの“復活劇”にチームの一員として感じるものがあったようだ。
そして道上も、「10時間シェイクダウンみたいな感じでしたね(笑)」という。
「富士でああいう事故があって3週間。まずクルマがなければこのレースに出られなかったですし、JASモータースポーツガすぐに日本に送ってくれたので、そこにまず感謝です。それに新車はトラブルが出やすいのに、しっかりメンテナンスしてくれたチームにも感謝しています」とタイトなスケジュールのなかで、レースに間に合わせたチームスタッフへの感謝を語った。
また道上は、「海外の連中はこのタイヤを知り尽くしているし、今回の上位チームは、こういう長時間の耐久レースに慣れていると感じましたね。昼も夜もスピードは関係ない。あれだけバトルできるのは目もいいんだろうし」と今回のレースを分析してくれた。
「WTCCのときもそうでしたが、それぞれそのカテゴリーの強者がいますね。彼らがスーパーGTに来てすぐ通用するかといえばそれはないと思うし、それぞれのカテゴリーでの得意があると思うんです」
「鈴鹿がこうしてGT3の世界戦をやってくれましたが、今回僕たちはギャフンと言わされてしまった。NSXのクルマそのもののポテンシャルも上げなければいけないと思います。僕たちはスーパーGTでは富士は得意ですが、それだけじゃない、どんなタイヤを履いても、どこを走っても強いクルマを作らなきゃいけないと思っています。海外勢は、そこに幅がありますね」
今季からチームとして活動を開始したModulo Drago CORSE。数々の困難を乗りこえて迎えたチーム初の世界戦は、チームにとっても、GT3活動を本格化させるホンダにとっても、その価値があるレースとなったのかもしれない。レース後、3人のドライバーが疲れた表情を浮かべながらも、どこか嬉しそうにレースを振り返っていたのが印象的だった。