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藤澤ノリマサ、“ポップオペラ”による名曲カバーで新境地へ 親しみやすいキャラクターにも注目

2018年09月05日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 今年デビュー10周年を迎えたポップオペラの貴公子=藤澤ノリマサが、9月5日に自身初のカヴァー・アルバム『ポップオペラ名曲アルバム』をリリースした。同作では、藤澤自身が幼い頃から慣れ親しんだ歌謡曲をポップオペラのスタイルでカバー。藤澤ノリマサのルーツがフィーチャーされたことによって、より親しみやすい作品になっている。


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 声楽家の父親と、歌謡教室の講師を務める母親の間に生まれた藤澤ノリマサ。“ポップオペラ”とは、1曲の中にポップスとオペラの両方の歌唱法を融合させた彼独自のジャンルで、クラシックと歌謡曲という音楽的にハイブリッドな環境で育った藤澤だからこそ生み出すことができたものだと言える。2008年に有名なオペラ曲を引用したシングル「ダッタン人の踊り」でメジャーデビューして以降、これまでにバッハやドボルザーク、ベートーベンなどの有名なクラシック歌曲をポップオペラの手法で歌い、平原綾香とのデュエットによる、映画『オーシャンズ』日本版主題歌「Sailing my life」や、アニメ『新テニスの王子様』オープニングテーマ「未来の僕らへ」などをリリースしてきた。前作『MESSAGE』は、ビルボードジャパン クラシック部門において2週連続で1位を獲得するなど、クラシック音楽の新たな魅力を幅広い世代に向けて発信している。


 最新作『ポップオペラ名曲アルバム』では、これまでのクラシックベースからポップスベースに視点を変え、1970年代~1980年代の歌謡曲をポップオペラで表現した。松田聖子「瑠璃色の地球」、尾崎豊「I LOVE YOU」、中島みゆき「糸」などの名曲を、J-POPの作曲家/編曲家/プロデューサーとして名高い武部聡志のピアノアレンジをバックに情感たっぷりの歌声で聴かせ、楽曲に込めたエモーションをオペラの歌唱法によって巧みに表現。ポップオペラの可能性を広げるのと同時に、自らの音楽道も追い求めた作品になったと言える。藤澤ノリマサの名前を知っていて興味は持っていたけれど、“オペラ”という言葉に敷居の高さを感じていた方に是非聴いてほしい、ポップオペラの入門編として打って付けの作品だ。


 クラシックだけでなく歌謡曲にも縁深い、藤澤のルーツに触れられることも、このアルバムの大きな魅力だ。例えば高橋真梨子の「for you…」は、小学校3年生の時に地元・札幌のカラオケ大会で歌って優勝した思い出の曲だという。「for you…」の〈あなたが欲しい〉という歌詞を、意味も分からず歌っている小3当時の藤澤少年の姿を想像すると何とも微笑ましく、さらにカラオケ大会優勝という経歴も意表を突く。大橋純子の「シルエット・ロマンス」は、母親が好きでよく一緒に聴いたとのことで、愛情溢れる家庭環境で育ったことも想像にかたくない。そうした収録曲のエピソードからは、“オペラ”や“貴公子”と言った言葉とはどこかギャップのある、人間味に溢れるキャラクターが浮かび上がってくるだろう。


 藤澤ノリマサという人物は、“ポップオペラの貴公子”という形容詞から想像される手の届かない存在ではなく、失礼ながら、つい“ノリマサくん”と呼びたくなるほどの親近感や可愛げがあるところも、非常に大きな魅力だ。先日お邪魔した藤澤ノリマサのファンクラブイベントでは、『ポップオペラ名曲アルバム』初回盤収録のオリジナル新曲「AVANTI -La vita è bella-」で響かせた真骨頂の歌声はもちろん、ファンのパワーにタジタジになりながら、「三年目の浮気」や「銀座の恋の物語」を楽しそうにデュエットしている姿や、進行役からことあるごとに強めに突っ込まれていたトークコーナーでの姿なども楽しむことができた。さらにサイン色紙に押す落款(署名はんこ)のサイズを間違えて作ってしまったと言う失敗エピソードや、ファンへのプレゼントのプーさんのぬいぐるみにまつわる「UFOキャッチャーで取れちゃったから」という説明も、どこか天然な雰囲気だ。彼の素顔の魅力は、世代や性別を限定しない。それはファンクラブイベントに集まったファン層が、20代OLからマダム層、ご夫婦連れや親子連れと幅広かったことからもうかがえた。


 オペラの発声法によるパワフルな歌声と、心の機微を描き出す繊細な表現力。それを支えているのは、愛情豊かな家庭と歌謡曲によって育まれた、どこか可愛げがあって柔和でフェミニストな雰囲気を持った、藤澤ノリマサという人物の素顔だ。“オペラ”と付くからと言って、決してクラシックしか聴かないわけではないし、パンだってお米だって食べる。歌謡曲をポップオペラでカバーしたアルバム『ポップオペラ名曲アルバム』は、例えるならば、みんなが大好きなハンバーグやオムライスが並ぶ、藤澤ノリマサという人間味溢れる名物シェフが営む人気の洋食屋さんのようなものなのかもしれない。まずはアルバム『ポップオペラ名曲アルバム』を聴き、ポップオペラと歌謡曲との音楽的な魅力に触れるもよし、SNSなどを通して彼の人となりに触れるもよし。その圧倒的な歌声と親近感溢れる人柄とのギャップに一度触れれば、きっと藤澤から目が離せなくなるに違いない。(榑林史章)