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松重豊、『検察側の罪人』の骨幹部分を支える役割に 光る名演は長い“演劇人生”が活きている?

2018年09月05日 10:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 木村拓哉と二宮和也という2大スターの豪華共演と、彼らの白熱した演技バトルが話題の『検察側の罪人』だが、ここであの人の名演が光っている。そう、松重豊である。いつにもましての渋みと凄み、そして何より美しく軽快な佇まいで、この骨太作品の骨幹部分を支えているのだ。


 松重といえば“名バイプレイヤー”として、多くの方が認知していることと思われる。それを事実上証明する作品でもある『バイプレイヤーズ ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~』(テレビ東京系)への参加や、ミニシアター系映画からメジャー作品までを横断する柔軟なスタイル。さらにはテレビCMで魅せる豊かな表情など、数ある作品の中に彼の姿をみとめただけで、ぐっと期待感と安心感が湧いてくる。


 そんな松重が本作『検察側の罪人』で演じるのは、闇社会のブローカー・諏訪部利成。堅気の人間ではないが、木村演じる最上検事に特別な関心を寄せていて、彼のために暗躍する。松重自身の強面なキャラ立ちが活かされたキャラクターだ。冒頭に記したように木村と二宮の対峙が大きな見どころの作品ではあるが、彼らそれぞれと松重の掛け合いもまた、瞬きを許さないほどの緊張感を強いてくる。


【写真】『孤独のグルメ』でほのぼのとした表情をする松重豊


 今年の活動でいえば、大きな反響を呼んだドラマ『アンナチュラル』(TBS系)での神倉所長役や、『素敵なダイナマイトスキャンダル』の諸橋係長役、あるいは映画『のみとり侍』の牧野備前守忠精役などのようなコミカル寄りでキャッチーなキャラクターも広く浸透している松重だが、ついに完結となった『アウトレイジ 最終章』(2017)での刑事・繁田のような高圧的なキレっぷりもたまらない。どちらが好きか観客の間では意見が分かれそうだが、本作の諏訪部という人物は、ちょうど中間あたりに位置するだろうか。


 終始ただならぬオーラを放つ掴みどころのない男である諏訪部は、ギョロリと光る目つきは鋭いが、物腰は柔らかく、ユーモアも忘れない。松重の高身長を活かした飄々とした佇まいから繰り出される流麗なセリフ回しには、そこで語られる言葉の恐ろしさを感じながらも聞き入ってしまう。やはり、長い役者人生の成せる業であろうか。しかし、それ以上に、長い“演劇人生”が活きているのではと感じる。


 キャリアの初期に、故・蜷川幸雄が主催していた劇団「蜷川スタジオ」に所属していた経験を持つ松重は、『トランス』をはじめとする鴻上尚史演出作品などへの出演を多く重ねてきた。もはやテレビで見かけない日はないほどの活躍を見せている現在でも、倉持裕や鄭義信、さらには藤田貴大といった気鋭の演出家の作品など、舞台作品へもコンスタントに参加している。ほかの共演者より頭一つぶん以上大きな身体は舞台に映え、独特の声色で奏でられるセリフの数々は、劇場で体感するにかぎるだろう。


 さらに松重といえば、本人の初主演ドラマとして2012年より放送開始され、現在Season7までシリーズ化されている『孤独のグルメ』(テレビ東京系)も好評だ。聞き心地の良い柔らかな声音でのモノローグと、次から次へと逸品を幸せそうに頬張る姿。もちろん“演じている”はずではあるが、実在する名店の中に自然と溶け込む彼の人間味は、テレビ画面越しに滲んでくるようでもある。この一連のシリーズを追っていく過程で彼のファンになったという方も多いのではないだろうか。フィクション性の高い作品のときとはまた違った松重の姿を楽しめるのだ。


 その存在感と多彩な演技で魅せる“名バイプレイヤー”の松重豊。出演最新作の『検察側の罪人』で、この円熟した渋みと凄みを体感しに、ぜひとも劇場に足を運んでいただきたいものである。


(折田侑駿)