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ビヨンセ、なぜ“女性の憧れ”として輝き続ける? 青山テルマ、BENIら選ぶベストソングと共に紐解く

2018年09月04日 13:52  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ビヨンセとジェイ・Zの夫婦による音楽ユニット・The Carters。今年6月に初アルバム『EVERYTHING IS LOVE』をサプライズ配信し、8月22日には同作の国内盤もリリースされた。


 夫であるジェイ・Zの不貞を告白した衝撃作『Lemonade』から2年、今年4月に開催された『コーチェラ・フェスティバル』で圧巻のパフォーマンスでカムバックを告げたビヨンセ。今もなお、彼女は女性シンガー/エンターテイナーとして時代を牽引するアイコンであり続けている。


 『EVERYTHING IS LOVE』国内盤の発売と、本日9月4日のビヨンセの誕生日を記念し、加藤ミリヤ、青山テルマ、BENIら、ビヨンセを愛する著名人から好きな楽曲を選曲したとコメントをあわせたプレイリストをSpotifyにて公開。音楽ライター・imdkm氏による彼女の近年の活動を解説するコラムと同プレイリストにて、ビヨンセの軌跡を辿りたい。(編集部)


参考:著名人コメント&プレイリストはこちら


■ビヨンセが一人の女性、そして夫婦として発信してきたメッセージ


 2018年4月に開催されたコーチェラ・フェスティバルでビヨンセが見せたパフォーマンスは、世界中の話題をまたたく間にかっさらった。2年前の傑作『Lemonade』のリリース後、双子の出産を経てカムバックを飾ったこのステージは、時代のアイコンとしてのビヨンセの姿を改めて人々に示す堂々たるものだった。大所帯のブラスバンドとダンサーたちを従え、自らのヒットナンバーを連発するパワフルさと華やかさ。豪華ゲストを贅沢にフィーチャーし、噂されていたDestiny’s Childの復活も遂げた。この内容だけでも圧倒されるほかないパフォーマンスだ。


 一方で、ビヨンセがいまやエンターテイナー以上の存在であることを示したのも、このパフォーマンスだった。「黒人」かつ「女性」という二重のマイノリティ性を背負いながらシンガーとして成功を収めた彼女の姿は、近年隆盛をきわめるブラックパワーとフェミニズムを同時に体現するアイコンにもなっている。曲を通じて政治的なメッセージを伝えるだけではなく、ブラックパワーのシンボルをあしらった衣装を身にまとった一挙一動には、その自負がにじみ出ていた。


 そもそも、キャリアを通じてビヨンセは女性たちの共感を呼び覚まし、彼女たちの生き方を鼓舞する存在であり続けた。彼女が生み出したヒット曲の数々を挙げればきりがないが、その表現が「私(ビヨンセ)」と「あなた(リスナー)」のあいだの共感を超え、思想的なアジテーションにまで達したのは、2011年の「Run the World (Girls)」だろう。〈この世界を動かしてるのは誰? 女の子たちだよ!〉と高らかに叫ぶこの曲で、ビヨンセは強い女性のロールモデルから、オピニオンリーダー/アジテーターに変身した。


 一転、冒頭で触れた『Lemonade』は、夫であるジェイ・Zの不貞をきっかけとして、自身に巻き起こった動揺とそこからの回復を描く、きわめてパーソナルな作品だった。とはいえ、作品中で繰り返される、世の女性へ向けた力強いメッセージは、2010年代のビヨンセのモードを変わらず引き継いでいた。むしろ、そのラディカルさは一歩先へ進んだと言えるかもしれない。〈中指を立てて高く掲げよう/彼の目の前で手を振ってみせて、『ボーイ、これでお別れ』って言ってやるの/私はあなたのことなんか考えてもいないって〉と決別の言葉を並べる「Sorry」は痛快そのもの。しかしながら、揺れ動く気持ちの中でパートナーへの愛を再確認し、共に新たな愛を築き直そうと歩みはじめた後で、〈さあレディたち、隊列(フォーメーション)を組むときだ〉と改めてアクションを促す「Formation」も、別種の力強さをまとっている。


 対するジェイ・Zは、『Lemonade』での不貞の告発を受けて、2017年リリースのソロ作『4:44』で家族への愛とパートナーへの贖罪を思わせる、こちらもまたパーソナルな表現を展開した。夫婦の関係をめぐるゴシップ的な話題でメディアの注目を集めつつも、内省を通じたアメリカ社会へのコメンタリーでもある『4:44』は、批評的にも売上としても成功を収めた。


 そして、2018年6月、ジェイ・Zとのツアー中にサプライズリリースされたのが、ジェイ・Zとビヨンセが自分たちのファミリーネームを冠した、The Carters『EVERYTHING IS LOVE』だ。告発(『Lemonade』)、贖罪(『4:44』)を経たカーター夫妻はこのアルバムで、和解と再出発を誓う。


 困難を乗り越えて、これまで以上に強い愛で結ばれる夫婦の姿を情熱的に歌った冒頭の「SUMMER」は、その宣言と言うべき一曲。甘美な描写のコーラスに続くアウトロはとりわけ印象的だ――〈愛は普遍だ/愛は、互いへの赦しと思いやりというかたちをとって、自らの姿を現す〉。自分たちの歩みを振り返りながら、いまこの瞬間の幸福を歌い上げるラストの「LOVEHAPPY」も同様。まさに、「すべては愛だ」というタイトルどおりの、夫婦の、そして家族の愛を描く作品といえる。


 しかし、『EVERYTHING IS LOVE』を、カーター夫妻の大団円と片付けてしまうのはもったいない。濃密な愛を語る一方で、危機を経て再び結ばれたカーター夫妻による、「戦線拡大」を匂わせるフシがあるからだ。エンターテイナーとしてこれ以上ない成功を収めている彼らの次の戦いはどこに及ぶのか。それは、ルーブル美術館で撮影された「APESHIT」のMVに見て取れる。


APES**T – THE CARTERS
 それはまるで、ポップカルチャーを制覇したカーター夫妻が、ヨーロッパを中心に白人たちによって築かれてきた、ファインアートの領域へ殴り込みをかけているかのようだ。なにしろ、世界でもっとも古い美術館に数えられるルーブルは、その最大の象徴なのだから。もちろん、自らの富を誇示するヒップホップマナーのボースティングの延長線上にこのビデオがあることは間違いない。しかし、マイノリティとしての黒人、あるいは女性の境遇を描き出してきたカーター夫妻のこれまでを考えると、よりいっそうの深読みをしたくなる。


 たとえマイノリティであっても、経済的な成功を手に入れるなり、闘いへの意志を忘却してしまう人々も数多い。それに対してカーター夫妻は、成功を手にしてなお、人々を鼓舞し、新しい闘いに自ら身を投じているのではないかと思う。その場面でカーター夫妻は、夫婦として、あるいは家族としての結束――すなわち「愛」こそがすべてだと言ってはばからない。『EVERYTHING IS LOVE』は、ひとつの物語のけじめをつけると同時に、次のアクションへと踏み出す一作なのだ。(imdkm)


 青山テルマ、加藤ミリヤ、當山みれい、BENI、LiLy、ビヨンセを愛する5名のアーティスト/クリエイターが好きな楽曲を選曲。それぞれのメッセージと共にプレイリスト『We Love Beyonce』が公開された。


■青山テルマ
・XO
・Halo
・Baby Boy


 ビヨンセのボーカルはどんな楽曲、どんなトラックでも彼女らしく輝く素晴らしいボーカリスト。


 それだけではなく、ステージの魅せ方は本当に毎回圧倒されるくらい迫力と努力の塊です。
何年経っても目が離せないアーティストの一人ですね。


■加藤ミリヤ
・If I Were A Boy
・Me,myself and I
・Broken-hearted girl


 その陰に哀しみや苦しみがあったとて、それを撥ね退ける強さがある。


 完璧なパフォーマンスの裏にはたゆまぬ努力がある。


 彼女は私たちが欲しいものをすべて持っている。


 それなのにまだまだ満足していない気がする。


 だから私はいつまでも彼女から目が離せない。


■當山みれい
・If I Were A Boy
・Pretty Hurts
・LOVEHAPPY


 Beyonceは私にとって社会を生き抜く女性達の代弁者です。


 恋愛の固定観念の男女差について歌う「If I Were A Boy」、「Pretty Hurts」には毎回聴く度本当の美しさとは何なのか考えさせられます。


 どんな裏切りや傷も愛が解決してくれる。「LOVEHAPPY」はまさにアルバム名”EVERYTHING IS LOVE”を象徴する曲だと感じて選びました。この二人にしか歌えない曲。


■BENI
・Déjà Vu
・Drunk In love
・Love On Top


 何年経っても「Déjà Vu」を無性に聴きたくなる瞬間が多々あります。揺れるベースラインとBeyの歌い回しが最高です。髪振り回して踊りたくなる! 


 「Drunk In love」は、JAY-Zのバースもいいですが、ビヨンセのフローがクールすぎてヨダレもの……。LADY⇄THUGをナチュラルに行き来できるキャラは彼女しかいないと思う(笑)。逞しくもあり上品でセクシー。


 「Love On Top」 は、カラオケの十八番です。最後は圧巻の転調祭(笑)。その場を100%ハッピーにして、盛り上げられる大好きな曲! VMAでこの曲歌って、歌終わりにマイクを投げ落として妊娠姿を初披露する場面、未だに覚えてる名シーン❤︎


■LiLy(作家)
・Drunk in LOVE
・Hold Up
・APESHIT(The Carters)


 「Drunk In LOVE」は、恋をするビヨンセの天下無敵の色っぽさに、頭がクラクラしてしまう。映像の中の夜の海で踊るビヨンセからはもちろん、歌声からも香り立つ。こんな美しい女王に発情されるJay-Zに、ため息が出るほど憧れてしまう。


 「Hold Up」がパワーソングなら、もうその単語も多用はできない。音楽史のレベルをビヨンセは、自身の人生を使ってブチあげている。ビヨンセが体現したのは、「男の浮気とフェミニズム」。彼女が掲げているのは「戦う黒人女性としての覚悟」。今生きている人類の中で最強の女だと思っている。


 品格は血に宿る。ビヨンセをみるたびに痛感する。「APESHIT」で資本主義のリアルを歌えど、下品の対極。芯から香る、高貴な美しさ。The Carters。現代最強のパワーカップル。二人にしか作り出すことができない音楽世界を、もっともっと味わいたい。