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綾瀬はるかと佐藤健の物語はどう築かれていく? 『義母と娘のブルース』第1章から第2章へ

2018年09月04日 08:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 竹野内豊のいない『義母と娘のブルース』(TBS系)第2章は、第1章とはまた違った暖かさに溢れていた。第1章の終わりに白に染まった世界は、白に包まれた妻・亜希子(綾瀬はるか)を眺めていた夫・良一(竹野内豊)のみに白の衣装を纏わせ、一度黒に染まってしまった。だが、まるで“陽だまりのような人”良一そのもののような温かい太陽の光に見守られ、義母と娘は、小さな奇跡を探しながら、互いのことを敬い、思い合いながら生きてきたのだろう。


参考:綾瀬はるか×上白石萌歌の土下座が美しい 『義母と娘のブルース』に見る親子の姿


 上白石萌歌演じる9年後のみゆきを取り巻く世界はガラリと変わった。ロボットのようにカチカチと動く元バリバリのキャリアウーマンの義母・亜希子は、水道の蛇口を閉め忘れたかのように噴き出して止まらない涙によって人間性を取り戻し、柔らかな表情を浮かべている。デブキャラだった同級生の大樹(大智)は9年間のうちにどこかに肉を置いてきて、井之脇海演じる好青年に代わった。小学生の頃、奇跡探しを手伝っていた彼は、陰ながらみゆきのために何度も“奇跡”を作りだす。


 一方、大樹と違って天然の産物ではあるが、第1章において奇跡を巻き起こしていた、佐藤健演じる章はというと、亜希子と共に、パン屋で奮闘している。第5話において、霊柩車のドライバーだった章は、珍しく何の奇跡も起こさなかった。だが、今思えば1つの奇跡は起きていたのである。宮本家においてではなく、その奇跡は、章自身に降りかかっていたのだ。第6話において、良一を乗せた霊柩車を運搬していた章は、火葬場で泣いている亜希子とみゆきを見て言う。


「あの子、もう親孝行できないんだよなあ。俺、家帰ります」


 この事がきっかけで章は、あてどない自分探しの旅をやめ、実家のパン屋に戻り、家業を継ごうと判断したのだろう。第2話で亜希子が会社を退職し専業主婦になることを決意した時、良一が「奇跡ですね、たった1日で33年間が変わってしまう」と言っていたように、たった1日、まだ見も知らぬ、事情も知らない親子の姿を見たことで、章の人生は大きく転換したのである。


 そして9年後、面識のないうちに人生を変えた母子、特に亜希子が、章の生き方を大きく変えようとしている。「ここも俺の輝ける場所じゃなかった、だからやめる」という自分探しの若者によくありそうな台詞に対して、亜希子は「“だからやめる”が最大の要因」と一喝する。


 だが、そんな章の気さくさと優しさに、亜希子もまた救われることになる。みゆきが亜希子を思うがゆえに抱いていた劣等感に対して、章は自分が父親に対して感じている思いを重ね、「血が繋がってない」から起きたのではなく血が繋がっていても起こりうることなのだと安心させるのである。


 こうしてみると、第1章と第2章は、“奇跡”のタイプが違う。4つ葉のクローバー、数字の繋がりなど、第1章の奇跡は、些細な偶然によるものが多かった。だが、第2章における奇跡は、大樹も章も亜希子もみゆきも、誰かの人生を垣間見ることで起こる、あるいは人と人が出会うことで起こる “奇跡”が多い。


 その奇跡は、受け取りようだ。「もう1人の宮本みゆき」をみゆきは最初羨むが、大樹の「俺はこっちのみゆきちゃんがいいけど」というストレートな言葉と、亜希子との和解により、彼女は翌日心の中で「はじめまして、私も宮本みゆきです」と微笑みかける。


 亜希子もみゆきも、そして章も、全く別のタイプの愛すべき人々が不器用ながら、回り道しながらも必死で生きる物語は、誰かにとっての奇跡になり得る。それが第2章なのだろう。


 そして、自転車の存在を忘れてはならない。それだけで第1章と第2章のスピード感、距離感が変わってくる。このドラマは、家の中、職場の中の話だけでなく、路地でのやりとりが魅力だ。第1章で自転車にうまく乗れなかったから乗っていなかったのはみゆきだけでなく、ロボット歩きの亜希子もまた、良一と共に歩いて日々を過ごしていた。ゆっくり歩いているからこそ見つけられる、子供の背丈だからこそ見つけられる奇跡も多かったのかもしれない。


 一方、第2章は亜希子もみゆきも自転車に乗っている。路地のシーンにおいて起こる様々な親子、あるいは男女の葛藤の傍には自転車がある。「うまく自転車乗れないブルース」から「ああ今日は遅刻だブルース」へ。


 初回冒頭、ドラマは空から近づいていくように、自転車に乗るために奮闘しているみゆきを映す。それは次第に近づき、自動販売機の当たりに喜ぶ良一と初対面でいきなりアドバイスをし始める亜希子とみゆきの出会いを描く。そして、1章目の終盤、良一の死後、自転車の練習に励む亜希子とみゆきを映していたカメラは、空の上のパパに呼びかけるみゆきの視点を追うように、初回とは逆に地面から空を映す。「良一さん、見てますか~」と柔らかい表情で叫ぶ亜希子とともに。そして空は彼女たち2人を見つめ返す。


 第2章の始まりはもう、豆粒みたいにちっぽけなみゆきではない。赤い自転車とカメラは併走する。


 空の上にいる死者たち、写真と会話する役割は、良一から亜希子へと変わった。第7話で「どうしましょう~! 良一さん」と叫ぶ亜希子も、第6話で自転車に乗りながら何気なく空を見つめるみゆきの心の中にも、良一がいる。


 温かい太陽の光に見守られながら、彼女たちが疾走する人生の物語は、どう築かれていくのか。(藤原奈緒)