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【詳報】インディカー第16戦ポートランド:2ストップ作戦を成功させ琢磨が今季初勝利

2018年09月03日 13:31  AUTOSPORT web

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佐藤琢磨3度目のインディカー勝利は初のロードコース
ポートランド・インターナショナル・レースウェイで開催されたインディカー・シリーズ第16戦。2日に行われた決勝レースは、20番手からスタートした佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)が2017年のインディ500以来となる今シーズン初勝利を挙げた。

 佐藤琢磨が今シーズン初勝利を記録した。2007年以来の開催となるポートランドでのレース、彼は20番手という後方グリッドからのスタートだったが、燃費作戦を活用し、レース終盤にはスピードも十分なものを保って優勝へと逃げ切った。

 昨年のインディ500以来となるキャリア3勝目。レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングへの復帰初年度の勝利、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングが本格的な2カー体制に戻した最初のシーズンの優勝には大きな価値がある。

 チームメイトのグラハム・レイホールより先に勝ったという点も重要なポイントだ。また、今シーズンはすでにアンドレッティ・オートスポート、チップ・ガナッシ・レーシング、シュミット・ピーターソン・モータースポーツ、デイル・コイン・レーシングが勝利を挙げていただけに、唯一未勝利だったホンダ・チームのレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングも勝ち星を記録できたことは大きな意味を持つ。

「みんなと同じことをやっていては上位までは進出できない」と琢磨はチームのストラテジー・ミーティングで2ストップ作戦を提案したという。最初は反対したチームだったが、琢磨が情熱によって説得し、それが実った。


 第16戦の決勝は波乱の幕開けとなる。スタート直後のターン2先で多重クラッシュ発生。

 マルコ・アンドレッティ(アンドレッティ・ハータ・オートスポート)が裏返しになってストップ。フルコースコーションが出された。これを琢磨は利用し、少しだけ減った燃料を満タンにするピットストップを行った。後方のポジションを走っていたからこそ可能な作戦だ。

 これが大きなアドバンテージになったのは間違いない。琢磨はピットしていない上位陣より1回目のピットストップを遅らせることができ、2回目のピットタイミングを前にトップに躍り出た。

 そして、ピットに向かう周回数が近づいたところでルーキーのサンティーノ・フェルッチ(デイル・コイン・レーシング)がストップ。コーションが出ると読んだ大半のチームがここでピットに向かった。琢磨も当然その中のひとりで、トップからピットインし、ここでピットしなかった唯一のマシン、マックス・チルトン(カーリン)の後ろの2番手でレースのリスタートを迎えることになった。

 チルトン以外はもうピットインせずにゴールまで走り切れる、あるいは走り切らなければチャンスはない状況。琢磨はリスタートで2番手を保ち、105周のレースの84周を終えたところでチルトンがピットに向かうとトップに復活。


 彼の後ろにはライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)とセバスチャン・ブルデー(デイル・コイン・レーシング)がつけ、チャンスを狙っていた。ただ、誰もが多かれ少なかれ燃費セーブを行わねばならない状況で、ゴール前の数周にバトルがヒートアップすることが期待された。

 スタートから燃費セーブを強く意識していた琢磨は、すぐ後ろを走るハンター-レイが自分より6周早く1回目のピットストップを行ったことをチームから知らされていたため、燃費の状況は自分の方が明らかに有利とわかっていた。最後のピットストップもハンター-レイは琢磨より4周早くすませている。

 リスタートの時点で燃費の目標を達成していた琢磨は、プッシュ・トゥ・パスをストレートで5秒ほど使い、ハンター-レイの接近を許さなかった。

ベテランらしい安定した走りを見せ琢磨
「ドラフティングの効く距離に入れないようにしたんです」と琢磨はレース後に話した。

「それだけの距離があればドラフティングによって燃費をよりセーブすることも不可能になるから」と話す通り、チルトンがいなくなった時点で今日のレースは琢磨が完全に支配下においていた。

「燃費もだけれど、タイヤもセーブして走ってました。最後にライアン(・ハンター-レイ)が来るのはわかってたから。彼は速いドライバーで、今日のマシンも非常に良かった。だからパスの可能性を与えないようコースのポイント、ポイントで彼に近づかせないよう走ってました」と琢磨はレースを振り返った。

 昨日の予選で20番手に沈んだ琢磨は、「暑くなったコンディションでレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングのマシンはハンドリングが厳しい。暑い時のレッド・タイヤで速さを確保できていない。ショックアブソーバーのセッティングによるものと思う」と話していた。しかし、今日のレースでの琢磨はレッドタイヤで速いペースを維持できていた。

「予選で走らせたマシンは、レース用マシンのようだった。予選用のようなキレはなかったんだけれど、実に安定していて、フィーリングも良かった。だから、そのセッティングを大きく変えずにレースに臨んだ。その上でウイングを寝かせ、ストレートのスピードを速くした。燃費作戦を戦いやすくするために」と琢磨。

 コーナーでの扱いが難しくなるが、そこはドライバーが腕でカバー。ストレートでの抵抗を少なくすることで燃費セーブを目指し、それが大成功した。

 琢磨も予想していた通り、残り3周でハンター-レイがチャージを開始した。封印していたプッシュ・トゥ・パスを使い、琢磨との間隔を縮めた。対する琢磨はミスのないドライビングを心がけながらもスペースをキープ。1秒あった差を0.5秒まで縮められたが、見事にゴールまで逆転を許さず逃げ切った。


「勝てて本当に嬉しい。ボビー・レイホールとマイク・ラニガンは僕にずっと戻って来るようラブコールを送ってくれていた人たち。彼らのチームに戻り、グラハムとの2カー体制で戦い、こうして勝つことができた。ボビーはビクトリーレーンにいて、最高の笑顔で僕を迎えてくれた」と琢磨は笑った。

 日本人ドライバーとして初めてのインディカー優勝を琢磨が飾ったのは2013年のロング・ビーチだった。アメリア最大のストリート・レースだ。琢磨のキャリア2勝目はスーパースピードウェイで記録された。それは世界三大レースのひとつ、2017年のインディアナポリス500マイルレース。

 そして今回、3勝目は常設ロードコースで記録された。残すはショートオーバルだけだ。

「今年のアイオワで初勝利まであと一歩まで行った。ショートオーバルでの優勝は来シーズンに向けての大きなモチベーションにする」とも琢磨は語った。

■チャンピオン争いはディクソンが有利に
 ハンター-レイに続いてゴールしたのはブルデー。ベテラン3人、全員がホンダドライバーという表彰台となった。すでにゲートウェイで今シーズンのマニュファクチャラー・タイトル獲得を決定しているホンダは、勝ち星を9から10に伸ばした。

 ドライバー部門のチャンピオン争いはスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)がポイントリードを26ポイントから29ポイントに広げた。予選が11番手と悪かったディクソン。1ラップ目の多重クラッシュに巻き込まれた時には、彼のタイトルのチャンスは消えたかに見えたが、マシンへのダメージは小さく、周回遅れにも陥らずにレースに復帰。

 最後尾近くから5位まで挽回してゴールしたところはいかにもディクソン、そしてチップ・ガナッシ・レーシングらしかった。展開も運も大きく味方してのことだったが、何があっても絶対に諦めずに戦う意識の高さがあっての上位フィニッシュであった。


 先週のゲートウェイで優勝し、今週はポールスタートと一気に大逆転タイトルへ勢いづいた感のあったウィル・パワー(チーム・ペンスキー)は、スタート前にギヤボックス・トラブルが発生したらしく、レース序盤にポジションを下げ、その後にドライビングでミスを冒して自滅。ディクソンとの差は78点と大きく広がった。

 チームメイトのジョセフ・ニューガーデンも今回のレースを終えたところでパワーと511点で並んだ。彼のタイトル防衛の可能性も同じく、限りなく小さくなった。

 ロッシも今回は運に見放されていた。ディクソンはアクシデントに巻き込まれ、パワーが失速、難なくトップに躍り出たが、レース展開が味方せず、中団グループに埋もれた。そんな状況でも彼は全力で戦って順位を少しずつ上げて行ったが、8位止まり。ディクソンとの差は26点から29点に広がった。最終戦はダブルポイントのため、まだロッシには逆転王座の可能性がある。