2018年09月03日 10:12 弁護士ドットコム
誰でも簡単に出品できる「フリマアプリ」。気軽に売買ができるとあってすっかり定着してきましたが、一方でトラブルもつきもののようです。
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都内在住の会社員、佐藤さん(20代女性)もフリマアプリを愛用している一人ですが、先日購入した商品と違うものが届き、困惑したと言います。
「フリマアプリでは、よく単行本や文庫本など本を購入します。ネット通販よりも安く売られていることがあるんです。それで先日、以前から気になっていたある小説を購入したところ、間違って購入していない筋トレ本が届いたんです」
佐藤さんが出品者の出品リストを確認したところ、注文した小説だけでなく、手元に届いた筋トレ本も販売しており、どちらも「SOLD OUT」のマークがついていました。どうやら、出品者が送付先を間違ってしまったようでした。
「私は『購入した小説は別の人から買います。取引をキャンセルして終わりましょう』と提案しました。すると、相手は『間違って送った本2冊を着払いでもいいので返送していただけませんか』と言ってきました」
佐藤さんはトレーニング本自体は「全く欲しくもない商品だった」と言いますが、返送するのは面倒臭いと感じているようで、「自分で間違って送ってきたのに、ちょっと図々しいなと思ってしまいました…」と話しています。
間違って送られてきた商品を返送しないと、返送しない側が「物を盗んだ」ということになってしまうのでしょうか。このような場合、どう対処するのが良いのでしょうか。半田 望弁護士に聞きました。
ーーフリマアプリの売買契約はいつ成立するのでしょうか。
フリマアプリを使用した売買も、対面での売買と同様に、売主の「○○を××円で売りたい」という「申し込み」に、買主が「承諾」することで売買契約が成立します。インターネットオークションの場合には「落札」時点で、フリマアプリの場合には「購入完了手続」の時点で売買契約が成立することになります。
売買契約が成立すると、売主は目的物を買主に引き渡す義務を、買主は代金を売主に支払う義務を負います。
ーー送られてきた商品が商品と違った場合にはどうなるでしょうか。
売主が売買の目的物と違うものを引き渡していますので、売買契約上の義務はまだ果たされていません。そのため、買主は改めて正しい商品を引き渡すよう売主に請求することができます。また、代金前払いとの約束がなければ、正しい商品が引き渡されるまで代金の支払いを拒むことができます。
また、売主の「債務不履行」がありますので、後述する保管費用や返送にかかった費用など損害があれば売主に対して賠償を求めることもできますし、相当の期間を定めて履行を催告し、履行されない場合には契約を解除することもできます。
ーー誤って送られてきた物の扱いについてはどうでしょうか。
誤って送られてきた物については売買契約が成立していませんので、買主は所有権を取得できません。そのため、所有者である売主に返却する必要があります。また、返却までは「善良なる管理者の注意義務」をもって保管する必要があり、万一破損や紛失した場合には売主に対して損害賠償義務を負う可能性もあります。
なお、買主は誤って送られてきたものについて「留置権」を主張して、本来の目的物が送付される、または先払いした代金が返金されるまで、誤って送付された物の返還を拒むこともできる、と考える余地もあります。もっとも、仮に留置権が成立するとしても、買主は善管注意義務を負いますし、勝手に留置しているものを処分したり換金することはできません。
誤って送られてきた他人の物を保管することは刑法上の犯罪には該当しませんが、正当な理由なく返却を求められても応じない場合には、民法上の損害賠償責任を負う可能性があります。また、保管しているものを「横領」した場合には横領罪になります。
ーーでは、佐藤さんはトレーニング本を売主に返却する必要があるということですね。
はい。「間違って送ってきたのに図々しい」と思う気持ちもあるでしょうが、売買の目的物ではない以上、トレーニング本はあくまでも「売主の所有物」であり、持ち主に返却しなければなりません。
また、万一、保管中に紛失したり汚損した場合には善管注意義務違反に問われて賠償請求を受ける可能性があります。他人の所有物を保管する場合には相応の責任が生じますので、早めに返送してしまうことが最善でしょう。
なお、佐藤さんはすでに小説本の支払いをすませているとのことですが、運営元によっては規約でトラブルの際にキャンセルが認められている場合があります。今回のケースで運営元にそのような規約があれば、規約に基づき取引をキャンセルして返金を求めることもできます。もちろん、相手側には改めて小説を送るよう請求することも可能です。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
半田 望(はんだ・のぞむ)弁護士
佐賀県小城市出身。交通事故や消費者被害などの民事事件のほか、刑事弁護にも取り組む。日本弁護士連合会・接見交通権確立実行委員会の委員をつとめ、接見交通の問題に力を入れている。
事務所名:半田法律事務所
事務所URL:http://www.handa-law.jp/