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ついに“8月6日”が訪れる ドラマ『この世界の片隅に』があぶり出す尾野真千子らの鬼気迫る表情

2018年09月03日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 1週の放送休止を経て9月2日に放送されたTBS系列日曜劇場『この世界の片隅に』の第7話は、この物語に触れる上で最も覚悟のいる回だったといえよう。先々週に放送された第6話のラスト、呉駅からほど近い防空壕に避難したすず(松本穂香)と晴美(稲垣来泉)は、不発弾の爆発に巻き込まれてしまう。目を覚ましたすずを待っていたのは、娘である晴美を亡くした径子(尾野真千子)のやつれた姿と、そして右手を無くした自分の姿であった。


参考:『この世界の片隅に』すずの妹役・久保田紗友の透明感【写真】


 そんなすずに「人殺し……。返して。晴美を返して」と取り乱す径子。これまで気丈で誰よりも強い女性であった径子が、娘を突然失ってしまったことでやり場のない悲しみに暮れ、すっかり変わり果ててしまう。アニメ映画版では多く描写されていなかった径子の心情が描写されたことで、改めて尾野真千子という女優の力量をまざまざと見せつけられた。


 しかしながら、この第7話はそれだけではなかった。径子に頼まれすずを支えるために幸子(伊藤沙莉)と志野(土村芳)が連れ出しにくるシーン。そして呉の町に訪れた空襲で、家の中に焼夷弾が落下して燃えているのを消しにかかるすずの表情。空襲の中を鷺を追って飛び出したすずを見つけた周作が、身を呈して彼女を守る姿。戦争の時代を生きた人の暮らしを淡々とつづるこの物語でも、絶対に避けては通れない具体的な「戦争」の描写によって、各々の登場人物の鬼気迫る表情や、“普通じゃない”戦争の中で“普通でありつづけようとする”姿があぶり出されていく。


 そして、アニメ映画版では「それから9日後」と濁されていた日付が、はっきりと「8月6日」と表示される。すずと径子がお互いをわかり合う、心温まる雰囲気を漂わせたシーンで突如周囲を包み込む閃光と、少し間を開けてやってくる爆風。外に出た彼らが目撃する、広島の方角に立ち上るキノコ雲。新型爆弾が広島の市内に落ちたという噂しか入ってこない中で、どこからか飛んできた戸が木に引っかかっている不穏な描写。


 これだけの密度をもったシーンの数々が、連続ドラマのいちエピソードに詰め込まれているというのは、正直なところあまりにもヘビーだ。しかも次週には、8月15日のシーンまでたどり着くとなれば、キャスト陣の、とりわけ松本穂香の鬼気迫る演技に心が締め付けられることになるだろう。またしても覚悟を持って、次の日曜日を迎えなくてはならない。(久保田和馬)