2018年09月02日 12:02 リアルサウンド
3人組ダンスボーカルユニット・w-inds.のメンバーであり、作詞・作曲・プロデュースからレコーディングにも関わるクリエイターとして活躍中の橘慶太。彼がコンポーザー/プロデューサー/トラックメイカーらと「楽曲制作」について語り合う対談連載「composer’s session」の第2回ゲストは、KICK THE CAN CREWのメンバーであり、ヒップホップソロアーティストとしても活動するKREVA。後編となる本記事では、それぞれのプライベートな制作環境の話題から橘慶太が考える“オタク最強説”までざっくばらんな音楽談義が繰り広げられた。(リアルサウンド編集部)
(関連:w-inds. 橘慶太×KREVA対談【前編】 トラックメイカー視点で語り合う、楽曲制作のテクニック)
■家派?スタジオ派? 2人の制作環境の違い
慶太:曲はどのくらいのペースで作っていますか?
KREVA:時期によって違うけど、入れる時はずっとプライベートスタジオにいるようにしてる。とりあえず何も考えずにスタジオに行くようにしていて、行けば絶対作れると思ってるから。家に機材はある?
慶太:僕は家に全部。家の一部屋をスタジオにしているタイプですね。
KREVA:俺は家に何も置かないタイプ。
慶太:ダメですか? 家。
KREVA:ダメじゃないよ、やれるよ。でもやっちゃうんだよね。
慶太:なるほど。ずっとやっちゃうのが……。
KREVA:やっちゃうからダメ。
慶太:逆に家では何を?
KREVA:お酒が大好きだから1人でも飲むね。あと最近愕然としたんだけど、俺、よくYouTubeを見るんだけど、履歴が見れるじゃん。あれ見たら「○○ in the studio」っていう映像が15個ぐらい並んでた(笑)。
慶太:家でハウツーを見てるKREVAさん(笑)。僕もしょっちゅう家で見てるんですけど、それこそご飯食べながらとか(笑)。
KREVA:いい時代だよね(笑)。
慶太:でも、なおさら家に機材があった方が良くないですか? ハウツー見てその場で試したくなりません?
KREVA:なるよ。でも試さない。見る時は見る! 家に機材を置いちゃうと、音楽を聞いたり、見たりすることが趣味じゃなくなっちゃう気がするんだよな、多分。制作に直結しちゃうのが嫌というか。だからあんまりいいスピーカーも家には置かないようにしていて。でも、どうしてもやらなきゃいけない、間に合わない時はノートPC開いて、Pro Toolsで作業したりはする。家で作った曲もあるにはあるんだけど、本当に遊び。スケッチみたいな感じかな。
慶太:やっぱりちゃんとしたスタジオがどーんとあると住み分けができていいですよね。
KREVA:間違いないね。
慶太:スタジオはどれくらい使ってるんですか?
KREVA:キックの時からずっと使ってるんだけど、改造改造改造でどんどん良くなってる。社長がインテリア好きで、スタジオの壁に小麦か何かの袋を再利用した麻のシートみたいなのを全面に貼ったの。そしたら急に音の吸いが良くなった。
慶太:麻ってすごいいいんですよね。僕も麻にこだわってるんですよ。麻は音が反射し過ぎないんです。吸収して抜けるのと反射する成分がちょうどよくて。
KREVA:なんかすごい話になってるけど(笑)、でも本当に音が良くなった。スタジオだとやって見ないとわからないというのがあるしね。
慶太:そうなんですよね。試してみて悪くなる時ももちろんありますし。
KREVA:『劇的ビフォーアフター』で入った瞬間にちょっと顔色曇るタイプの親子みたいな(笑)。スタジオ何個か欲しいなと思ったりもするんだけど、今のところ鳴りもいいし、ずっと使ってるしここでいいかなと。
慶太:セッションはしないんですか? 例えば海外のコライトスタジオに入ったり。
KREVA:しないね。だけど最近バンドとライブをやってて。そのバンドメンバーと最近レコーディングをする機会が増えてきて。それは楽しいね。
慶太:生音で録って。
KREVA:そう、録って編集させてもらったりとか。
慶太:いいですね。
KREVA:すごく勉強になってる。あとこの間、KICK THE CAN CREWの曲で蔦谷好位置くんと仕事をすることになって。こうちゃんはもともとMPCで打ち込みをしていた人だからそういう理解もあって、キューベースなんだけど仕事が鬼早い。
慶太:僕も1回スタジオに行ってみたら早かったですね。
KREVA:早いよね。「せっかちなんだよ」って言ってたけど、決めるのがすごく早くて刺激になったな。こういうやりかたもあるなと思って。
慶太:同年代になるんですか?
KREVA:そうだね、全くの同い年。俺がキックでバーって売れた時にこうちゃんもワーナーにいて。CANNABISってバンドをやってたんだけど売れなくて、「上がってんの、下がってんのじゃねえよ、ちぇっ」って思ってたんだって(笑)。でも今は仲良く楽しく、それこそ一緒にいつも聞いてる曲でSoundCloudじゃんけんとかやったりしてる(笑)。
■誰かがいいと言ってるものは買う時の自信にもなる
慶太:楽曲制作で大切にしていることはありますか?
KREVA:周りの反応を見てこれはちょっと押していきたいってなったらまたやり直してみたりすること、あとは思いつくままっていうのと、「あっ!」と思った機材があったらなるべくちゃんと見に行って買うのは使命だと思ってやってる。だから、プラグイン警察は頼んだ(笑)。
慶太:僕、プラグインはほぼチェックしてますね。
KREVA:でしょ。我々みたいに音楽やれてる人たちが買って、ちょっとあのプラグインよかったよとか、よくなかったよって伝えていかないと。ハードなんて7万も8万もするのに、少年が勇気を出して買ってダメだったら辛い。だとしたらやっぱり俺らみたいなのが買って、発信していくことが大事かなと思ってて。
慶太:それはめちゃくちゃ大切ですね。
KREVA:だからなるべく慎重に楽器屋で……いや、全部買えるんだよ(笑)。だけどこれはちょっと俺は買わないとか、選別はちゃんとやってる。側(デザイン)が愛せるかとかも含めて。
慶太:側も気にされるんですね。
KREVA:すごい大事。
慶太:ちなみにマイクのお気に入りはあるんですか?
KREVA:マイクはBLUEのKiwiをなぜかずっと使ってます。
慶太:ありますよね、そういう相性って。
KREVA:あると思う。
慶太:テイラー・スウィフトも10万円くらいのマイクらしいですからね。
KREVA:やっぱりそうなんだよね。テイラーがあれでいいって言ってるから買ってみようのファーストチョイス。誰かがいいって言ってるものって買う時の自信にもなるし、迷いがない。だから頼むよ、プラグイン警察。
慶太:任せてください!(笑)。僕、なんならエンジニアにプラグインを教えて回ってるので。
KREVA:ガジェット系は俺に任せて!
慶太:ここに大きな取り締まり組織が生まれましたね(笑)。
KREVA:所轄。
慶太:いやー嬉しいな。
■“オタク最強説”のキーワードは「検索を超えろ」
KREVA:そういえば、DJはしないの?
慶太:僕全然やらないんですよね。すごい変な話なんですけど、どっちかというとクラブが苦手なんです。だけどクラブトラックが好きっていうので一時期悩んだことがあって。
KREVA:これでいいのかと。
慶太:クラブにはいられないけど、こういう曲を作って本当に説得力があるのかって。すごい悩んだ時期がありました。
KREVA:でも実際にその曲で自分で踊るわけだからさ。全然リアルダンスミュージック。リアルサウンドだよ(笑)。
慶太:リアルサウンド、作れてますかね(笑)。
KREVA:うん、全然関係ないと思う。
慶太:そういうことをいろいろ考えてる時期に、4、5年前ぐらいから「オタク最強説」が自分の中で出てきたんです。昔はアグレッシブに行動力がある人が現場に行って音を聞いて、トレンドを押さえて、みたいなことが最先端の鍵だったと思うんですけど、今はオタクが最先端をそれよりも早くググれるじゃないですか。
KREVA:間違いない。
慶太:そうなってくると、逆転してきてるんじゃないかっていう。YouTuberがどんどん上がってきてるのとかも含めて。僕もどっちかというとオタク気質なんですけど。
KREVA:プラグインオタク(笑)。
慶太:(笑)。だからこれでいいんだっていう風に途中で思えたんですよね。
KREVA:ただ、ぬるいオタクには言いたいんだけど、突き詰めないとダメだよね。「全部僕プラグイン持ってますよ」って言えるくらいじゃなきゃやっぱダメだと思う。
慶太:確かに。中途半端はダメですよね。
KREVA:本当にダメ。検索しても出てこないレベルのところまでいかないと。キーワードは「検索を超えろ」。
慶太:それは本当に間違いなく言えることだと思います。
KREVA:俺はある時期から自分が探したい情報を「MPC3000」で検索して、俺の情報がまず出てくるようになった時に超えたなと思ったね。検索超え完了。
慶太:検索を超えろ、これは名言ですね。
KREVA:そうなってくると自分で突き詰めるしかないから。
慶太:トライアンドエラーは本当に大事。検索結果とか雑誌に載ってるルールばかりに捉われないのも僕は結構大切なことだと思います。それこそ90年代にひずみがいい音って言われたのも、もともとダメな音だったものがすごくいい音とされたわけで。今だと位相が狂っちゃダメって言われてますけど、もう位相なんて関係ないぐらいのミックスをしてることもあるし。時代によって新たに自分がいい音と思えば、それがトレンドになることってありますよね。
KREVA:間違いない。だからMP3のコピーのコピーを誰かが昔溜め込んだUSBから録った音がいいってなる可能性も十分あるし、最高のオーディオで聞いていいと思えるようなものを突き詰めるのももちろんアリだし。
慶太:自分がいいと思うかどうかが一番大切なんだなっていうのは、最近ミックスしててもそうですし、曲を作ってても思いますよね。
KREVA:そういう時にコンピュータの中の世界って本当に無限だよね。それに対する一つの自分への納得というか、そういう意味でアナログとかハードとか外の機材があるんだと思う。俺たちでいうと、レコーディングにおける発売みたいな締切、この時期でこの作業は終わりっていうものがあるというか。
慶太:僕の性格上、それが本当に大切なんですよね。なんでもやり直したくなっちゃうタイプなので……。最近はPro Toolsもいったんコミットしようかなって。そうするともう戻れないじゃないですか。
KREVA:わかるかな、これみんな。ふつうの状態だといつまでも音をいじれるわけ。5だったのを4に変えて、こっちを4に変えたからこっちを3にしてとか。でもコミットはそれを1回写真でいうところのプリントしちゃうみたいな感じだよね。
慶太:いじれなくするっていう。
KREVA:a.k.a 諦め。
慶太:(笑)。最近はそういう風に考えるようにしてます。やっぱり時代的にスピード感も大切じゃないですか。そこに追いつけるようになるためにも、どんどんプリントしてやっていくっていうのも大事ですよね。
KREVA:もちろん直したい時にすぐに直せたり戻れる良さもあるんだけど。やっぱり部分的にでもしっかり、ある程度色濃く残していかないとダメなのかなとは思う。
■2人が関心を寄せるビンテージリズムマシンの良さ
慶太:音楽制作に関するKREVAさんの今後の夢はありますか?
KREVA:今、リンドラム(80年代、サンプリング黎明期に多用されたリズムマシン)がスタジオにあるんだけど、いわゆるビンテージリズムマシンを増やしていきたいかな。カルヴィン・ハリスが『Funk Wav Bounces Vol. 1』でビンテージマシンをものすごく使ってたんだけど、例えばYAMAHA DX7(80年代に一斉を風靡したシンセサイザー)の音をエミュレートしたプラグインって今では山のようにあるし、便利だからそれを使えばいいわけで。でも、サウンドをチョイスする時に、本物を持っていて本物の音を知っている人と、リアルタイムで体感していない人だとチョイスが違うと思う。それぞれ面白いとは思うんだけど、説得力を出したい時はやっぱり本物なんじゃないかって思ってるんだよね。
慶太:リンあるんですか?!
KREVA:あるある。
慶太:僕、実はKREVAさんのスタジオが家から近いことは知ってるんです(笑)。
KREVA:(笑)。来てよ。
慶太:僕、実はKREVAさんのスタジオにムジークのスピーカーがあるって知ってますよ。
KREVA:いいこと知ってるね(笑)。
慶太:いろいろ知ってるんですよ(笑)。
KREVA:鳴らしてみたいでしょ。ずっと俺もDAWでやってきたけど、最近になって特に古い機械をちょっと一個取り入れるとサウンドが今っぽくなるなと思ってるんだよね。
慶太:めちゃくちゃいいですよね。それこそ僕もずっとデジタルで作っていたけど、アナログをみんなが使い始めたタイミングで、何がいいんだろうと思っていろいろ聞き比べてたんです。細かいこと言うと、音の出る階層が違うというか。デジタルでいろいろな音を一緒に出して奥行きが狭い中に、アナログの音が一個入ることによって……。
KREVA:遠くにいる感じが出るよね。
慶太:そうなんですよ。奥行きが出るし、その立体感がどうしてもデジタルだけじゃ出ないなと思っていて……欲しいんですよね……。
KREVA:だから、だいぶビンデージドラムは集まってきたけど、もうちょっと集めてみようかなと思ってる。「あれ持ってます?」って言われたら「あるよ」って言えるくらいには。
慶太:近所でよかった!(笑)。ビンテージドラムが揃うのは半端ないですね。それこそカルヴィン・ハリスが出した時、僕は相当ショックだったので。
KREVA:「あいつ、いいな」って言ってね。
慶太:どうやってもこのサウンドは家ではできないなって。
KREVA:これからは借りにきてくれれば。チャリで背負って帰って。チャリ限定ね。
慶太:積めそうなチャリ買います(笑)。
KREVA:うちのスタジオで何か挑戦してみる?
慶太:アナログとデジタルの融合はまだやったことがないので、チャレンジさせていただきたいです!
KREVA:MPCは2台あるよ。1台のMPC4000はRHYMESTERのMummy-Dに貸してたんだけど、4年ぐらいしてアルバム2枚くらい出てから返ってきた(笑)。
慶太:むしろよく返ってきましたね(笑)。
KREVA:なぜかオーディオテクニカのオーディオタップと一緒に(笑)。よかったら借りに来てください。
慶太:ありがとうございます! ぜひ行かせていただきます!