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ゲーム実況者わくわくバンドが考える、“ゲーム実況”と“バンド活動”の共通点

2018年08月31日 18:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ゲーム実況者わくわくバンドが、8月29日に2ndシングル『シグナル』をリリースする。


参考:ゲーム実況者わくわくバンド、中野サンプラザに響いた“音楽×ゲーム”の新機軸エンターテインメント


 ゲーム実況者わくわくバンドは、湯毛(vo/gt)、ヒラノ課長(gt)、フジ(ba)、フルコン(dr)、せらみかる(key)による5人組ロックバンド。メンバーは、YouTubeやニコニコ動画などの動画投稿サイト内のコンテンツ「ゲーム実況」でも活躍している。


 同作の表題曲「シグナル」は、PS4ゲーム『NARUTO TO BORUTO シノビストライカー』のイメージソングを担当し、8月からは『ゲーム実況者わくわくバンド 9thコンサート ~わくわく道中2018~』がスタートするなど、「ゲーム実況」ファンはもちろん、音楽リスナーを巻き込みながら活動の規模を拡大している。


 メジャーデビューからバンドとして順風満帆な活動を展開するゲーム実況者わくわくバンド。彼らのホームグラウンドと言える初の“ゲーム主題歌”に込めた思い、ゲーム実況とバンド活動の共通点についてなど、異なる分野を横断する彼らならではのバンド観を湯毛、フジ、せらみかるの3名にたっぷり語ってもらった。(編集部)


■“戦いの厳しさ”と“チームワーク”がテーマ


ーー完全生産限定わくわくボックス収録の「感状線」を含めて、バリエーション豊かで聴き応えのある3曲がそろいました。なかでも、みなさんの活動の経緯から考えて、PS4用ゲーム『NARUTO TO BORUTO シノビストライカー』のイメージソングとなった「シグナル」は大きな一曲だと思いますが、制作はどんなところからスタートしたのでしょうか。


湯毛:お話をいただいたのが2月くらいで、そこからせら(みかる)くんが曲を作り始めたんですよね。動き出しが早かったぶん、CDになるまでが長かったなと。


せらみかる:曲を作る前に、イベント等で開発中のゲームを触らせてもらっていたので、イメージしやすかったです。


フジ:デモでたくさん曲を作ったよね。CMで使うサビの部分だけ、本当にたくさん作っていて。


せらみかる:そうそう。これまでやったことがないパターンで作っていったんですけど、結果的に、最初に思い浮かんだものが選ばれて。その1曲でよかったのかも(笑)。


フジ:最初のインスピレーションに間違いはなかった、ってことだ(笑)。


ーー実際にゲームをプレイしてみて、どんな印象を受けましたか?


せらみかる:メンバーみんなでプレイした時に、やっぱり勝ち負けがしっかり出るゲームだなって。湯毛くんが、めちゃくちゃ勝ちにこだわる戦い方をするんですよ。


湯毛:“寒い”プレイになっても、勝つのが大事(笑)。


フジ:それに、チームで協力しないと勝てないんですよね。だから、湯毛くんはゲームの中でも、やっぱり声が大きくなる(笑)。


湯毛:指示せなあかんから。


フジ:だからすごい盛り上がるんですよ。


せらみかる:そういう容赦ない戦いが展開されると思ったので、曲としては厳しさと、激しさと、疾走感みたいなものは出したいなと。歌詞にもチームワークの大切さというテーマを盛り込んでいます。


ーー今回の3曲は、作詞に湯毛さんがクレジットされています。「シグナル」はハードな音に呼応するように、リスナーの背中を押すような強い言葉が並びましたが、どんなところから書き始めたのでしょう?


湯毛:やっぱりサビから考えましたね。僕はバトルもののアニメソングとか、ゲームの歌とか、そういうものを聴いて育っているので、その引き出しを開けて。あとは、リズムで自分が歌いやすいように、なおかつ疾走感を殺さないように、と考えました。


ーー<I’m A Striker>という、ゲームにがっちり合ったフレーズもあります。


湯毛:そうですね。ゲームにどれだけ合わせるか、というのは難しいところだと思ったんですけど、結果的に、最後のサビの一行に「ストライカー」という言葉が入ったことで、トレイラー動画がめっちゃ締まって。神がかり的にビシッと決まっていたので、あれは感動しました。


ーー勢いのあるロックサウンドで、1音目から盛り上がりますね。冒頭からベースも効いていますが、音作りや演奏についてはいかがですか?


フジ:最初からテンションが一気に突き抜ける曲なので、演奏としてはけっこう無我夢中になってますね。最初のテイクでほぼ大枠はできていて、レコーディングもそんなに時間がかかりませんでした。あとは、言っていただいたように“背中を押す”というイメージで。僕らも、この曲に背中を押してもらっていますね。


せらみかる:サビから膨らませて作り始めた結果、出だしから勢いがあるサウンドにできたので、そこがうまくいったと思っています。


ーーライブに勢いをつける一曲目にもピッタリだと思いました。


湯毛:そうですね。まだ実際にはライブではやっていませんが、今後はどこかであるだろうな、という感じはします。


せらみかる:やっぱり「スタート!」って感じがするもんね。


ーー曲が仕上がったところで、ヒラノ課長さん、フルコンさんはどんなリアクションでしたか?


せらみかる:レコーディングの段階で、自然にみんな「いい曲だね」って話してましたね。


湯毛:たぶん、ヒラノくんは家で酒を飲みながら完成音源を聴いて、また泣いていたと思います(笑)。


■「等身大な部分は、僕らの大事なところ」(湯毛)


ーーカップリングの「てのひらジャーニー」は一転、爽やかでピュアなイメージで、90年代のポップスを思わせる楽曲です。メンバーの皆さんの温かい人柄も出ていて、これもひとつ、わくわくバンドらしい曲なのかな、と思いました。この曲は、どんなふうにできたんですか?


湯毛:「シグナル」と「感状線」が先にできて、どちらもサウンド的にはヘビーな雰囲気だったので、もう一曲こういうテイストのものが入ったら、全体のバランス的にちょっとしんどいだろうなと。なので、せらくんに「爽やかな曲を」とリクエストしました。


せらみかる:イメージとしては爽やかかつシンプルでノれる曲、という感覚だったんですけど、演奏面に関してはあまりシンプルにできませんでした(笑)。なので、仕上げるのにはちょっと苦戦しましたが、結果的に満足のいく仕上がりになったと思います。


湯毛:3曲にしっかり幅が出ましたね。


ーー歌詞には「シグナル」と通じるところもあり、ただこちらは<前を向いて 後ろも少し気にしたら 背中おしてあげるよ>と、優しく語りかけるようなイメージです。


湯毛:そうですね。普段、こういう歌詞はあまり書かないんですけど。


せらみかる:曲に合わせてくれたんです。


湯毛:「感状線」に毒があるので、中和といったらあれですけど、真逆のテンションで応援歌みたいにしようと。


ーーただ、嘘臭さのようなものはなく、本音感は出ていると思います。


湯毛:やっぱり節々に自分らしさは出ているんでしょうね。例えば、<止まない雨が 止まないこともある>とか、完全にすべてを肯定するわけじゃなかったり、ちょっとひねくれているところもあって。本音感=等身大みたいなところは、僕らの大事なところかなと。背伸びをしないというか。


フジ:そんな完璧人間じゃないからね。


ーーある意味ではわくわくバンドにとって珍しいタイプの曲ですが、ファンのお気に入りになるような気もして。


フジ:わかる気がします。歌詞を最初に聴いたとき、曲にバッチリあっていて、「もうこれしかないんじゃないか」と思いましたし。


湯毛:ヒラノくんも、多分最初はピンと来てなかったと思うんです。けど、スタジオで練習したときに、Aメロの歌詞とメロディのハマり方とフレーズで「これしかないわ」って言ってましたから。


ーーこの曲も、持ち帰って泣いていますね。


フジ:一番泣けるかもしれない(笑)。僕は打ち込みのデモの段階から、もう泣いてましたね。よくある展開かと思ったら、サビがエモいんですよ。


ーーそして、もっともヘビーな「感状線」ですが、こちらは先にできていたということで。


フジ:一番先にできたね。


せらみかる:「シグナル」より前にできて、温めていたんです。曲だけあったんですけど、今回、湯毛くんが歌詞を乗っけてくれて。


湯毛:ノリとしては下に下に沈んでいく感じなので、ちょっと尖り目で書いてみようかと。受け取ってくれる側の判断に任せられそうな歌詞をいっぱい書きました。ここで真意は言わないでおきます(笑)。


フジ:猛毒ですね(笑)。


湯毛:朗読したらきついメッセージでも、音楽なら伝えられるかなと。


ーーただ強いだけでなく、叙情的で、感情を揺さぶるメロディと音になっていると思いました。


湯毛:そうですね。メロディとしてすごい動いてるのってBメロぐらいで。Aメロやサビは音がキープされていて、そこに一心不乱に歌詞が乗っていく、というのがエモい感じで。


フジ:僕はけっこうダークな音楽が好きで聴いてきたので、演奏していて楽しいですね。


湯毛:フジが一番、この曲を好きだと思うんですよ。


フジ:うん、だってせらくんが1年ぐらい前にこの曲を出してきたとき、真っ先に「やりたい!」って言ったから。


湯毛:ひとつ後悔があるとしたら、イントロリフのメロディの方を僕が弾いていて、不協和音のようなバッキングをヒラノくんが弾いているんですけど、逆の方がよかったなと。ライブで自分の首を絞めそうで(笑)。


せらみかる:ヒラノ課長が、自分から「こっちがいい」って選んだからね。


ーーこの3曲が並んだときに、夏らしい1枚だな、という感覚もありました。走り出すような勢いのある「シグナル」に、爽やかに熱い「てのひらジャーニー」、晩夏のような哀愁もある「感状線」と。


せらみかる:確かに。特に「シグナル」のMVはすごい炎天下で撮ったので、僕らもこの曲を聴いたら、心身ともに熱くなる感じがありますね。


湯毛:7月のなかでも、特に暑い日で。


ーー衣装をいくつも替えて、かなりのカット数ですよね。


せらみかる:そうなんですよ。半袖の部分で日焼けの跡が残るくらい、1日で焼けちゃいました。


湯毛:8月中旬現在も、ずっと残ってるもんね。そう考えたら、季節感としては夏よりの一枚かもしれないです。


フジ:ソロテイクを撮っているとき、同じシチュエーションで3パターン着替えるんですよ。汗がものすごいから、車の中に一度入って、クーラーを全部自分の方に向けて、クールダウンする時間もありました。


せらみかる:「撮影時間がちょっと押している」というときに、「フジさんの“乾き待ち”です!」って(笑)。


■“ゲーム実況”と“音楽活動”のバランス


ーーそんな苦労もあったニューシングルですが、この振り幅のある3曲をリスナーにどう届けたいですか?


せらみかる:歌詞についても曲についても、ジャンルの幅が本当に広いと思うので、全部聴いたら満足度の高いものになっていると思います。聴いて元気になってもらえたらうれしいですね。


湯毛:前回の「デンシンタマシイ」から、また一つ前に進んだところは見せられたかな、と思うんです。ただ、かなり骨太になったので、この先はちょいちょい、気楽なテーマの曲も作っていきたいなと(笑)。


せらみかる:こんなバンド名なのに、今のところシングルではふざけてないからね(笑)。


フジ:確かにずっしりしたなっていうのはありますね。僕としてはこの調子で、湯毛くんにはグロウルとかガテラルボイスを練習してほしいです。


湯毛:できたら使っちゃうからあかん!


せらみかる:お客さんがウォール・オブ・デスとか始めちゃう!


湯毛:ドクロのサイリウムを振ってもらって。


ーー実況するゲームも変わっちゃいそうですね(笑)。ライブの話も出てきたところで聞きたいのですが、持ち曲の数も演奏技術も含め、音楽だけで十分ステージが成立するバンドになってきたと思います。音楽とゲーム実況のバランスについては、どう考えていますか?


フジ:どっちも同じくらい大事ですね。


湯毛:真ん中にゲームコーナーがある、というワンマンの流れはこれからも変えないと思うんですけど、ライブの熱が、ゲーム実況のまったり感で落ちすぎないように、というのは考えなきゃなと思います。最近は、ライブへの戻り方も少しずつ変わっていて。初のホールワンマンライブになった中野サンプラザホールでは、“わくわくホーンズ”(管楽器チーム)の呼び込みで、最強の戻り方ができたのがよかったですね。


ーーサックスの高橋弥歩さんが、湯毛さんの好きなプロレスラーと同姓同名ということで、「たかはしぃ~……ひろ~む~!」と、リングアナ風の呼び込みをされたのが最高でした。


湯毛:あれはイレギュラーすぎたんですけど(笑)、結果的にお客さんが温かく迎えてくれて。そういう仕掛けは、今後も作っていきたいですね。


せらみかる:「ヘイボーイヘイガール」でコール&レスポンスをしたり、音楽面でも、“ザ・バンド”という盛り上げ方や演出をどんどん入れていきたいですね。そこが成長すると、自ずとゲーム実況もうまくいく気がします。


フジ:うん、いい作用が生まれそう。


湯毛:1本のライブとしてもっとまとまってきたら、それがまた個性になるだろうし。これまでのように脱線もしつつ、そこでだらけないようにするというか。


ーー脱線を楽しみにしているファンもいますからね。何が飛び出すかわからない、というか。


フジ:それってゲーム実況にも通じるんですよね。道筋の決まったきれいなプレイより、脱線した話やプレイを楽しむ人が多くて。


湯毛:決まったものを面白く見せるのって、めっちゃむずいから。それってコントとか、漫才でしょ?


フジ:ハードルが高い。


せらみかる:でも、コントや漫才も一回、やっておこうか?


ーーできそうなメンバーだから怖い(笑)。


湯毛:実際、そういうこともやってみたいな、という話はしているんですよ。


せらみかる:ディナーショーやってみない? とかね。握手しながら、席を回ってね(笑)。


フジ:どちらにしても、音楽ライブとゲーム実況はもっと密接になっていくような気がしますね。わくバンを見にきてくれる人は、どっちも好きだと思うんですよ。ゲーム実況が好きな人が僕らの曲も好きになってくれたり、逆に曲から知ってゲーム実況に興味を持ってくれたり、という密な関係ができたらうれしいですね。


湯毛:音楽は、趣味はどうあれ聴いたらわかる部分が大きいと思うんですけど、ゲーム実況は知らない人にとったら本当にわからない。だから、知らない人が見てもちゃんと面白いものにしたい、とすごく思うんですよね。MCもそうで、5人がしゃべったときのバランスとか、展開を整えるのも大事かなと。基本的には自由でも、あまり散らからないようにしないと。でも、その散らかっているのが面白いという人もいるので、バランスは難しいですね。


ーー散らかることも織り込んだ上で、オーディエンスを楽しませるためのコントロールが必要だと。とても難しいことのような気がします。


湯毛:そうなんです。そして、一番心が折れるのは、そういうことを考えても、本質的にはどうでもいいことだったりするんですよね。でも、そこで抜いちゃうと、自分が見てたら面白くないな、と思っちゃう。


ーーそれでは、音楽面での目標は?


湯毛:例えば、「“ゲーム実況者わくわくバンド”って何だよ。どうせわけのわからない音楽をやってるんだろうな」と思って、聴いてもらえていない人もいると思うんですよ。そこで一歩踏み出して曲を聴いてみようとなったときに、絶対に曲がちゃんとしていないとあかんなと。「思ってたよりいいやん!」と感じてもらえるように。


フジ:それは作戦成功ですよね。


湯毛:バンド名がバンド名なだけに、ジャンプの幅がめっちゃ大きいから。音楽では、そういうところを目指したいですね。


ーーここまで、楽曲の質という面では十分、目標が果たせていると思います。さて、12月の熊本まで『9thコンサート ~わくわく道中2018~』が続くので、あらためて意気込みを。


湯毛:郡山、広島と行ったことがない場所が続くし、普段ネットで見ているだけの人もたくさん来てくれると思うので、全力で楽しんでもらえるようにしたいですね。


せらみかる:8月の浜松では想像以上に盛り上がってくれて、ありがたい驚きがあったので、お客さんの元気に負けないようにしなきゃと。


フジ:そういう意味で、ゲーム実況パートが大事だと思うんです。曲は決められたことを全力でやる部分が多いけれど、実況は予想もつかないことも起こるので。


ーー盛り上がりに天井がない。


せらみかる:ライブ中のゲーム実況だから録画するわけでも配信するわけでもなくて、その場でしか見られないものだけれど、たまに映像に残しておけばよかった! と思うことが起きますからね。


湯毛:浜松が、まさにそうでした。その上で演奏もめっちゃいい、というのが最高だと思うので、そういうライブを目指していきたいですね。(橋川良寛)