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堕ちていく姿まで美しい 『高嶺の花』石原さとみの“狂気の演技”に思わず息をのむ

2018年08月30日 15:52  リアルサウンド

リアルサウンド

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 月島家の次期家元を決めるため、もも(石原さとみ)となな(芳根京子)が直接対決することとなった『高嶺の花』。8月29日に放送された第8話では、2人の技量を見極める“俎上”の日が訪れる。前回の放送で、母・ルリ子(戸田菜穂)と龍一(千葉雄大)の媾合を目の当たりにしたななは、これまでの“いい子”を封印し、全ての怒りや恨みを花にぶつけた。


参考:石原さとみと直接対決へ 『高嶺の花』血まみれの芳根京子が魅せるダークサイドへの覚醒


 次期家元は、師範6人と市松(小日向文世)による投票で決まる。2人が花を生ける様子は非公開とされ、2つの作品のみが並んだ壇上に、菊の花の票を投じる。どちらがどの花を生けたのか明かされない状態だったが、ななが生けた左の花は、彼女が足繁く通っていた宇都宮龍彗会の公演のテイストを混ぜたもの。負のエネルギーの中に、龍一への未練が垣間見えており、視聴者からは一目瞭然だったろう。


 市松も「内から滲む悲鳴のような憤りが点在」していたとななの花を評価し、次期家元はななになることに決まった。市松に呼び出され、結果を聞かされるももとなな、そしてルリ子。家柄、容姿、そして才能すべてを持ち合わせたももが、市松から「抗えぬ衰退を感じる」とななとルリ子の前で酷評されるのは、どれほど屈辱的なことか。凛と正座していたももは、次第に呼吸が荒くなり、それから唇を小刻みに震わす。


 これまで健気に何事も乗り越える明るいキャラクターを多く演じてきた石原が、壊れていく姿は新鮮に映った。内に燃えたぎる自尊心を他者に破壊されるとき、心の中には羞恥がドロドロのマグマのような液体となりゆっくりと流れ込んでいく。心の盾となっていた揺るぎない自信が剥がされ、傷を付けられていることにようやく気付く。そのわずかな遅延さえも、石原は巧みに表現している。


 また、“もう1人の自分が見えない”と狂ったように花を活けるももを、ななが心配して見に来る場面は、第8話の中でも息が詰まるシーンだったろう。次期家元に決まったななは、第7話の姿から一転し、元の“いい子”に戻っていた。そんな姿を見てももは、心優しいななに対して、言葉のナイフを容赦なく振りかざす。「ルリ子さんへの嫉妬も憎しみも、中途半端。『許さない』っていうのも所詮口だけのこと」


 ももの言葉を受け、座り込んでしまったななだったが、それでも姉をなんとか救おうと直人(峯田和伸)に助けを求めに行く。恋心はまさかの母に破られ、大好きな姉を自分のせいで壊し、さらに罵倒される。こんな不憫な人生あっていいのだろうか。“格差恋愛”を描いているはずなのに、姉妹の歪んだ愛情があまりにも美しすぎて、本題そっちのけで釘付けにされてしまう。


 ここ何年も書店では、石原が表紙を飾る雑誌を見ない日はないほど、彼女は女性の憧れとして君臨し続けていた。しかし、『アンナチュラル』でもそうだったように、今年の石原からは可愛いだけじゃない、一歩その先への進化を感じ取れる。また、役柄に応じて自分でメイクを考えていることで有名な石原だが、数年前の血色メイクに比べ、本作や最近のファッション誌で見せているチークを控えた表情からは、大人の気品が醸し出されている。


 それが功を奏したのか、第8話は、前半の狂気の演技から、直人に助けられた時に見せた子供のように無邪気な表情まで、石原の幅広い魅力が凝縮された回だったように思える。早いことにラスト2回となった『高嶺の花』。その整った容姿ゆえに、 “可愛い”の部分にスポットライトが当たりがちな石原と芳根の、真の実力を照らし出した本作の功績は大きい。(阿部桜子)