■全米1位獲得から3か月で届けられたニューアルバム
BTSの最新アルバム『LOVE YOURSELF 結 'Answer'』が8月24日にリリースされた。
5月にアメリカの週間アルバムチャート「ビルボード200」で、韓国人アーティストとして史上初めて1位を獲得した彼ら。歴史に名を残した作品『LOVE YOURSELF 轉 'Tear'』からわずか3か月で届けられた本作は、昨年から続く『LOVE YOURSELF』シリーズの最終章に位置づけられる。
彼らは2017年8月に『LOVE YOURSELF Highlight Reel』と題された映像を公開し、『LOVE YOURSELF』シリーズの幕開けを予告した。翌9月にシリーズ最初のアルバム『LOVE YOURSELF 承 'Her'』が発表された。そして今年4月に公開された『Euphoria : Theme of LOVE YOURSELF 起 Wonder』のビデオに続いて5月に発表されたのが、全米1位に輝いた前作『LOVE YOURSELF 轉 'Tear'』だ。
BTSの作品世界はこうした複雑なコンセプトに基づいて展開している。一連の映像作品やビジュアルの中には、続く作品への様々なヒントが散りばめられていて、複数の作品を通して壮大な伏線回収が行なわれているのだ。彼らが作品を通して紡ぐ物語の謎解き要素もまた、ファンを惹きつける大きな魅力の1つになっている。
■「自分自身を愛すること」に辿り着いた『LOVE YOURSELF』最終章
これまでのBTSの作品は大きく、「学校三部作」「青春三部作」「WINGS」「LOVE YOURSELF」に分類されている。10代の葛藤や不安を歌ったデビュー当時(学校三部作)から、やがて愛や友情の喜び、喪失の痛みを知る青春時代(青春三部作)、そして「誘惑」を知って苦悩した時期(「WINGS」)を経て、現在進行形の「LOVE YOURSELF」へと繋がっていく。
『LOVE YOURSELF』シリーズで展開される「起承轉結」の締めくくりとなる『LOVE YOURSELF 結 'Answer'』は、正規のフルアルバムではなく既存の作品に新曲を数曲加えて再編集した「リパッケージアルバム」の形で発表された。16曲を収めたディスク1、9曲を収めたディスク2の全25曲2枚組で構成される本作は、『LOVE YOURSELF 承 'Her'』『LOVE YOURSELF 轉 'Tear'』の収録曲を中心に7曲の新曲が収録された。
ディスク1は1曲目から最後までが「起承轉結」で区切られており、この作品1つでこれまでの『LOVE YOURSELF』の物語を追体験できるような構成になっている。新曲はそれぞれ“Trivia 起 : Just Dance”“Trivia 承 : Love”“Trivia 轉 : Seesaw”と題された、「トリビア」としてこれまでの物語を補完するようなラッパー陣3人のソロ曲と、全体を締めくくる「結」のパートを担う“Epiphany”“I'm Fine”“IDOL”“Answer : Love Myself”に大きく分かれる。
前作のリードトラック“FAKE LOVE”に代表されるように、『轉 'Tear'』では偽りの愛や偽りの自分自身に対する苦悩が歌われてきた。これまで紡がれてきた、ある若者の愛と自己の探求の物語が、「結」のパートで<自分は大丈夫>と歌う14曲目の“I'm Fine”(「青春三部作」の最終作である2016年のアルバム『花様年華 Young Forever』の収録曲“Save Me”と対になっている)、<誰も俺自身を愛することを止められない>と宣言する“IDOL”を経て、<君が僕自身を愛する理由を教えてくれた>と歌うクロージングトラック“Answer : Love Myself”へと変化していく様は感動的ですらある。
■韓服で踊り、伝統音楽の要素も取り入れた新曲“IDOL”
7曲の新曲の中でも特筆すべきは、リードトラック“IDOL”だろう。
サウンド面では、南アフリカ発のハウスミュージック「Gqom」風のビートとホイッスルの音が印象的なトラックに、韓国の伝統音楽であるパンソリで用いられるはやしことばが合わさり、またビジュアル面でもPVでメンバーが韓服を身に着けて踊るなど、韓国という自分たちのルーツを祝福するムードに満ちている。
■BTSは「アイドル」という肩書を自分たちのものにした
そして見過ごすことができないのは「IDOL」という直球のタイトルだ。歌詞は<You can call me artist, You can call me idol ほかのどんな呼び名でも I don't care>というRMのバースで幕を開け、<I'm proud of it, 俺は自由>とJ-HOPEが繋ぐ。
メンバーが楽曲制作に積極的に参加し、時には振付も作るK-POPグループのメンバーにとって「アイドル」か「アーティスト」かという問いは内外からつきまとう。BTSもこうしたラべリングへの葛藤がなかったはずはなく、たとえばラッパーのSUGAがAgust D名義で2016年に発表したフリーのミックステープの表題曲では<K-POPなんてカテゴリーにいれるには俺はサイズが違い過ぎる><ラッパーたち 俺がアイドルってことに感謝しろ>といった強い言葉が並んでいた(特にラッパーは「アイドルラップ」と揶揄されがちなことも無関係ではないだろう)。
だが全米1位を経て発表された新作で彼らは自ら「アイドル」をリード曲のタイトルに掲げ、その肩書を自分のものにしてみせた。それはアイドルだろうが、アーティストだろうが、どんなラベルを付けられても自分たちは揺らがないというマニフェストであり、それこそが『LOVE YOURSELF』シリーズで辿り着いた彼らの「self love(自己愛)」なのではないだろうか。
事実、“IDOL”では<You can't stop me lovin myself(誰も俺自身を愛することを止められない)>というフレーズが繰り返される。韓国の伝統文化を取り入れたこともまた自分たちのアイデンティティーの祝福であり、プライドの表れだろう。この曲に続くディスク1のクロージングトラックは“Answer:Love Myself”だ。自己と向き合い葛藤し続けた少年たちは、「起承轉」の3つのフェーズを経て「自分自身を愛する」という答えを導き出した。
■ニッキー・ミナージュとコラボが実現。初の北米スタジアムライブも控える
リーダーのRMは『LOVE YOURSELF』シリーズ最初の作品である『LOVE YOURSELF 承 'Her'』のリリース時に、「これは僕たちの第2章の始まりだ」と発言している。韓国での人気を不動のものにして突入した『LOVE YOURSELF』シリーズは、まさに彼らが韓国の人気グループから世界のポップスターへと進化していく過程でもあった。
先述の“IDOL”には、アルバムのデジタル版にだけ収録されている別バージョンがある。ここにフィーチャーされているのはニッキー・ミナージュだ。全米1位、世界的なセレブリティ―の交流やコラボレーションと、彼らは次々にそのフィールドを拡大している。
今後BTSは本作を引っ提げて16の地域を巡るワールドツアーを行なう。先日行なわれたソウルでの単独コンサートを皮切りに、アメリカ、カナダ、イギリス、フランスなどを巡り、日本でも初の東京ドーム公演を含むドームツアーを控える。このツアーではアメリカ本土でスタジアムライブを行なう初の韓国アーティストとなり、約4万枚のチケットを20分で完売させたという。また“IDOL”のPVは8月24日の公開から24時間で4500万回再生を突破し、YouTubeでの24時間以内の動画再生回数記録を更新した。彼らはこれからも韓国やアジアのアーティストが持つ記録を塗り替えていくだろう。
自己を探求し、自分自身の肯定に到達した『LOVE YOURSELF』シリーズはおそらくこのツアーをもって幕を閉じる。このアルバムを携えて世界を巡ったその先には何があるのか――。全く新たなコンセプトで届けられるであろう次なる一手にも期待が募る。アジアの小さな国から世界に飛び出した7人の少年の物語からは今後も目が離せない。