カレンダー屈指のパワーセンシティビティを誇るF1第13戦ベルギーGPスパ-フランコルシャンで、苦戦が予想されたトロロッソ・ホンダは予選でピエール・ガスリーが11番手・ブレンドン・ハートレーは12番手を獲得。
決勝でもガスリーがフェラーリ製パワーユニットを搭載するハースやザウバーと互角の走りを見せ、スタート直後の混乱に巻き込まれて順位を下げてしまったハートレーもピットストップ直後のガスリーに援護射撃を行いチーム全体で9位入賞を掴み取った。
ルノーのニコ・ヒュルケンベルグを発端とする多重クラッシュで、ガスリーは10番グリッドから8番手に浮上。ハートレーは前後ウイングが壊れ加速が鈍いダニエル・リカルド(レッドブル)に引っかかってマーカス・エリクソン(ザウバー)とウイリアムズ勢に抜かれてしまった。
GAS(ガスリー)←STR(トロロッソ)「ターン1でクラッシュだ。SC(セーフティカー)が入る。SCについてピットレーンを通過しろ。今P8、後ろはERI(マーカス・エリクソン)、SIR(セルゲイ・シロトキン)。前はMAG(ケビン・マグヌッセン)とGRO(ロマン・グロージャン)だ」
HAR(ハートレー)→STR「ターン1はムチャクチャだった。前に引っかかって……」
HAR←STR「了解、チャージオン、バックグラウンドではモード3をキープしろ。前のWIL(ウイリアムズ)はできるだけ早くクリアする必要があるぞ。今P13だ」
HAR→STR「あぁ、分かっている」
HAR←STR「前のクルマをクリアするためにオーバーテイクボタンを使え」
HAR→STR「了解」
セーフティカー先導による走行が4周続き、これで燃費の心配はなくなった。あとは全開でプッシュするだけだ。
GAS←STR「燃料はOK。燃費セーブは不要だ」
HAR←STR「後ろはSAIでミディアムタイヤ。燃料をセーブする必要はなくなった」
5周目にレースは再開。ガスリーは前のマグヌッセンについていき、後ろのエリクソンに抜かれるような様子もない。一方のハートレーは予選Q2最後のアタックでスピンを喫したように、リヤロックの症状に苦しんでセッティングやドライビングを調整しながら慎重な走りを強いられてペースが上げられないでいた。
HAR←STR「ターン1のブレーキングでリヤアクセルが限界ギリギリだったぞ」
HAR←STR「(ブレーキバランスの)オフセットを+1クリック前へ。最終コーナーとターン1でリヤがロックしすぎている」
HAR←STR「マルチ・ノック3。以前のバランスに戻す。VAN(ストフェル・バンドーン)が3.5秒後ろに迫ってきている。前走車のDRSを使えるように追い付いていけ」
HAR←STR「GASは1分51秒2、君は1分52秒4だ」
HAR←STR「GASと較べてターン12とターン15でタイムロスしている。最終コーナーのブレーキングもだ」
■ガスリーを援護するためハートレーにチームオーダー
ガスリーには「オーバーテイクボタンを5秒使っても良いぞ」と指示が飛ぶが、マグヌッセンもDRSが使える1秒以内には寄せ付けず、なかなか攻略はできない。後方から追い上げてきたメルセデスのバルテリ・ボッタスに対しては「彼を先行させろ」と争わず、周回遅れとなっていたレッドブルのダニエル・リカルドも同様に先行させた。
他車がなかなかピットインしないため、ガスリーは当初の予定よりも第1スティントを伸ばして走り続け、25周目にピットイン。ちょうどハートレーの後方でコースに戻ることになった。
ハートレーにはすかさずガスリーを先行させるよう指示が飛ぶ。
HAR←STR「ピット出口でGASと交錯することになる。戦略が違うから彼を前に行かせてくれ。できるだけ早くだ」
ガスリーはまだ3秒以上後方だったが、ケメルストレートで大幅にスローダウンして先行させるようハートレーに指示した。非情なオーダーにも聞こえるが、新品タイヤを履くガスリーがセクター2で引っかかってタイムロスを喫することがないよう万全を期したのだ。シーズン序盤にポジションスワップで交錯する場面があっただけに、ケメルストレートで譲れと明確に伝えた。
HAR←STR「ターン5の手前で行かせるんだ、今すぐだ」
HAR→STR「無理だ、まだ彼は全然追い付いていない!」
HAR←STR「今すぐだ、この周のターン5の手前で行かせろ」
最初は戸惑ったハートレーだが、自身のポイント獲得のチャンスはスタート直後に終わっていたというだけに納得した。
HAR←STR「OK、ありがとうブレンドン。モード8、ERIと戦っている。プッシュ、プッシュ」
ここでパワー優先のモードに切り替え、今度はガスリーの翌周にピットインしたエリクソンを可能な限り抑えてガスリーを援護射撃するよう指示が飛ぶ。
HAR←STR「(ERIに抜かれ)良い仕事だった、ブレンドン。モード6に戻せ。オーバーテイクボタンは使えるぞ」
これでエリクソンに対して7秒のマージンを持ったガスリーは、さらにエリクソンを引き離していく。しかし前のハース勢を追いかけるほどの速さはなかった。
GAS→STR「GROはどこ?」
GAS←STR「MAGの前、20秒前方。ピットインしてソフトタイヤを履いている」
GAS→STR「もうピットインを済ませている?」
GAS←STR「そうだ、彼はピットインを終えている」
レース終盤は膠着状態でひとり旅。タイヤも特に問題はなく、後ろのエリクソンのペースにだけ気をつけながらプッシュを続けるレースが続いた。
GAS→STR「タイヤはOK?」
GAS←STR「データを見る限りでは全て問題ないよ」
GAS→STR「OK」
ガスリーへの援護射撃でのタイムロスもあってハートレーはウイリアムズ勢から大幅に遅れ、32周目にピットイン。終盤はストフェル・バンドーンを引き離して14位でフィニッシュするのが精一杯だった。
HAR←STR「モード8だ。残り11周、全て予選ラップの走りが必要だ」
ガスリーは最後までプッシュし続けて危なげなく9位でチェッカードフラッグを受けた。ハンガリーGPのように喜びを爆発させるでもなく、ただ冷静にこのパフォーマンスを評価した。
GAS←STR「P9だ、グッジョブ、ピエール!」
GAS→STR「みんなありがとう。クルマはとても良かったよ。夏休み明けにこうしてまた2ポイント獲れたのは良かったね!」
GAS←STR「あぁ、良いレースだったよ」
冷静に当たり前のように入賞圏での戦いを展開する。トロロッソ・ホンダのシーズン後半戦は毎戦がこうでなければならない。さらなる進化に向けて、まずは上々の後半戦スタートを切ったと言えそうだ。