F1第13戦ベルギーGPでフェラーリのセバスチャン・ベッテルに完敗したメルセデスのルイス・ハミルトンは、レース後の会見で 「われわれはフェラーリの『トリック』に対抗しなければならない」とコメントした。
『トリック』という言葉を『騙し』と受け取ったハミルトンの母国のイギリス人記者たちが、一斉に「トリックとは、何かルール違反をやっているということなのか?」、「フェラーリはレギュレーションの範囲内でルールの盲点を突いているのか?」などと突っ込みを入れた。
これに対して、ハミルトンは「僕のマシンにもトリックはある。トリックというのは違法という意味で使ったのではなく、特別な『何か』という意味だ」と答えた。
そして、こう付け加えた。「それが何なのかはわからないけど」
フェラーリのトリックを最初に報じたのは、ドイツのアウト・モーター・ウント・シュポルト誌だ。
それは、「メルセデスがフェラーリのバッテリーに違法ないかどうかをFIAに抗議する予定だ」というものだった。
その後、FIAはフェラーリのバッテリーに違法性はないと発表。するとカナダGP以降のパワーサーキットで、フェラーリがメルセデスを上回るパフォーンスを見せはじめた。
アウト・モーター・ウント・シュポルト誌によれば、「フェラーリは許容されている4メガジュール以上のエネルギーをバッテリーから得ている疑いがある」とし、「そのエネルギーはセンサーをすり抜ける形で供給され、約20馬力相当のパワーを得ている」と報じている。
では、合法的に4メガジュール以上のエネルギーを得ることができるのか。最初に疑われたのは、2つ目のバッテリーだ。しかし、もし通常のバッテリー(エナジーストア)以外にバッテリーを用意しても、センサーによって4メガジュールという上限をチェックされている。どうすれば、合法的に4メガジュールを超えるエネルギーをパワーアシストとして使用できるのか。
■ライバルが疑うフェラーリPUの電子制御装置の抜け道
そこで考えられているのが、電子制御装置だ。現在のF1マシンには3つの電子制御装置が搭載されている。
1つは車体の制御を行うECU(エレクトロニックコントロールユニット)、2つ目がエンジンの制御を行うECU(エンジンコントロールユニット)、そして3つ目がMGU-H(熱エネルギー回生システム)とMGU-K(運動エネルギー回生システム)によって得られたエネルギーを貯蔵するCE(コントロールエレクトロニクス)である。
車体とエンジンの制御を行うECUは、マクラーレン・アプライド・テクノロジーズ(MAT)製で、標準ECUとして全チームに供給されている。高圧の電力を出し入れするCEはPU(パワーユニット/エンジン)マニュファラクチャーが準備している。
あるエンジニアに聞くと、4メガジュールを測定しているのは高圧系のCEだけなので、フェラーリはCEとECUを使い分けているのではないかという。つまり、2つ目のバッテリーはエンジン側のECUによって、出し入れされているのではないか。
では、なぜそこまでわかっているのに、ほかのPUマニュファラクチャーは追随しないのか? 問題は2つ目のバッテリーにどうやってエネルギーを貯めるのかだ。
ホンダの田辺豊治F1テクニカルディレクターも「単純に乾電池をくっつけて、速くするというわけにはいかない」と、眉間にしわを寄せる。
したがって、2018年シーズン中の導入は難しいとしても、「それで速くなっているのであれば、みんな使うでしょう」(田辺TD)と、2019年シーズンに向けて、この分野の開発が急務となる。
あるレース関係者は言う。
「通常のパワーユニットは4メガジュールしか使えないため、最も効果的にエネルギーを使用できるようデプロイ(エネルギーの配分)を行なっているが、フェラーリはどこでも好きなときにエネルギーを使うことができている」
これが本当なら、イタリアGPはフェラーリの独壇場となる可能性が高い。