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SCREEN modeがアニソンと向き合いたどり着いた“自分たちらしさ”「ここからが本当のスタート」

2018年08月29日 10:31  リアルサウンド

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 声優の林勇(勇-YOU-/Vo)、 サウンドプロデューサーの太田雅友(雅友/Gt)によるバンド、SCREEN modeがニューシングル『GIFTED』をリリース。TVアニメ『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』(BSスカパー!、アニマックス)のオープニング(OP)主題歌として制作された表題曲は、ヘヴィネスと解放感を併せ持ったサウンド、エモーショナルなボーカルがひとつになったロックチューンに仕上がっている。本作の制作プロセスを軸にしながら、5周年を迎えた現在のSCREEN modeについて、勇-YOU-、雅友に語ってもらった。(森朋之)


(関連:SCREEN modeが手に入れた“等身大の音楽性” 『Funky Star』ツアーを振り返る


■ボーカルとギター、それぞれの挑戦


ーーニューシングル曲「GIFTED」はTVアニメ『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』OP主題歌。どんなイメージで制作されたのでしょうか?


雅友:アニメサイドからは「“ダークヒーローもの”として(主題歌を)作ってください」という依頼があったんですよ。原作を読ませてもらうと、決してダークなだけの作品ではなかったので、楽曲には希望も感じられるようにしたいなと思って。


勇-YOU-:シリアスな雰囲気で始まって、サビには疾走感があって。1曲のなかにいろいろなテイストが感じられる楽曲だと思いますね。この曲、いままで出したことのない高さのキーに設定されているんですよ。それは新しいチャレンジでしたね。


ーーいままでの中で最高に高い音域ということですか?


勇-YOU-:そうみたいです。自分の音域がどこからどこまでかよくわかっていないんですけど(笑)、いちばん高い音を使ってるみたいで。


雅友:うん。しかも、その音を使ってる区間がけっこう長いんですよ。


勇-YOU-:最初はちょっとビビってましたけどね(笑)。レコーディングの前にボイトレの回数を増やしたんですよ。スポーツと同じで身体を慣らすことが必要だし、すぐに身に付くものではないんですけど、集中してトレーニングしたことで、高い音の“当て方”がわかってきて。前回のツアー『SCREEN mode LIVE TOUR 2018 -Funky Star-』のファイナル公演で「GIFTED」を初披露させていただいたのですが、ライブの終盤にも関わらず何とか歌い切ることができたんですよね。そのときに実感したのが、「GIFTED」を歌ったことで、他の楽曲が以前よりラクに歌えるようになったということで。雅友さんに高いキーに挑戦させてもらったことが、自分にとってプラスに働いたんだと思います。今後に歌に活かせそうだなという期待もありますね。


ーー高いキーに設定したのは、何か理由があるんですか?


雅友:作曲家としては本来は “ここからここまで”という音域の範囲で曲を作るのがセオリーなんですが、「もしかしたら、もっとイケるんじゃないか」という感じもあったし、優しいハードルを設定することで、その可能性を狭めているかもしれないと思ったことがあって。それは5年間やってきたからこそ感じられたことなんですけどね。


勇-YOU-:そんなに無謀なキーではないですからね。デモ作りの段階で「ここまでは出そうだね」とお互いに確認していたし、そのうえで「いける」という判断をしたので。過信するのも良くないですけどね。「この高さまで出せる! 気持ちいい!」って感じで調子に乗って歌って、喉を痛めてしまったら元も子もないので。


ーーエモーショナルなギターリフ、速弾きのギターソロも印象的でした。


雅友:もともとそういうギターが好きだし、ダークヒーローものだから、それくらいやってもいいかなと(笑)。あとは高崎晃(LOUDNESS)さんへのリスペクトですね。以前、『ランティス祭り』で共演した際にご挨拶させてもらったんですけど、勝手にDNAを引き継がせてもらいました(笑)。


■「アニソン以外の部分で何をやれるか?」が重要


ーー素晴らしい。お互いの表現の幅が広がることで、当然、曲作りにも良い影響が出てきますよね。


雅友:そうですね。5年間のなかでいろいろなバリエ—ションの曲を作ってきたし、自然と「いままでは違うことをやってみよう」ということになるので。SCREEN modeとしての個性が明確になってきたと思うんですよ、いろんな意味で。僕らの場合、シングルはほとんどがアニメのタイアップで、アニメ作品の世界を表現することがもっとも重要なんですね。カップリングに関しては、パズルみたいな感じというか、足りないピースを埋めていくような感じで作っていたんです。たとえばデビュー曲(TVアニメ『ぎんぎつね』ED主題歌「月光STORY」)はバラードだったから、「まずは速い曲を作ろう」とか。あとは「アニソンのトレンドを使わず、アニソンらしいものを作りたい」という気持ちもあったんですが、その感じで何年か過ぎて、最近は「アニメという枠を外したときに残るものは何だろう?」と考えるようになって。その挑戦はいまも続いてますね。


ーーSCREEN modeとしてのアイデンティティを確立する時期になったというか。


雅友:そうですね。アニメソングって、増え続けてるじゃないですか。制作されるアニメの本数もすごく多いし、その分、アニメに関する楽曲もどんどん増えていて。僕らも“アニソン・アーティスト”という括りに入ると思うんだけど、全曲アニソンというわけではないですからね。そうなるとやっぱり、「アニソン以外の部分で何をやれるか?」が重要になってくると思うんです。たとえば楽曲の強度だったり、パフォーマンスだったり、歌唱力だったり。もちろん「林勇というシンガーにどんな曲を歌わせるべきか?」ということもすごく考えます。歌の上手さだけを競うとスポーツみたいになってしまうけど、僕たちがやっているのはアートだし、勇にしか歌えない、SCREEN modeにしか表現できない曲を追求したいなと。


ーー勇さんも同じ意識を共有している?


勇-YOU-:そうですね。アニソンの場合は、アニメのイメージや世界観を軸にしながら、そこに自分たちの思いを乗せるという感じになることが多くて。そういうバランスのなかでいろいろな楽曲を歌わせてもらってきたんですけど、やっぱり「自分たちにしかできないことって何だろう?」と考えるようになって。まずは熱い気持ちを届けること、聴いてくれるみなさんの背中を押すような歌を歌うことだと思っているんです。そこに関しては負けないという自負があるというか。今回の「GIFTED」もそうですけど、熱い気持ちを伝えるということをもっと突き詰めたいですね。


ーー一発で“SCREEN modeだ”とわかるような、音楽的な個性も必要になってきそうですね。


雅友:うーん、どうですかね。僕も勇も、あまり個性的なことをやるキャラじゃないと思うんですよ。いきなりゲスの極み乙女。みたいな曲をやるとビックリされるだろうし(笑)、基本的には王道路線というか、アニメでいうとオープニングテーマ、主役の気持ちを代弁するような楽曲をやっていきたいので。そのなかで何を表現するか? というところですね、大事なのは。


ーー前向きなパワーに満ちたアッパーチューンであるカップリング曲「Make New STORY!」にも、いまSCREEN modeがやるべきことが反映されている?


雅友:「GIFTED」の制作過程で、いままでよりも高い音が使えることが判明して。それを踏まえて作ったのが「Make New STORY!」なんですよね。


勇-YOU-:(音域が)かなり高いです(笑)。「歌えるもんなんだな」って。


雅友:(笑)ファルセットも使ってるからね。これまでの曲と差別化したかったし、「発展し続けているんだな」というところを見せたいという気持ちもありました。あとはやっぱり「勇にしか歌えない曲」ということですよね。最近、水樹奈々さんのレコーディングに立ち合わせていただく機会が何度かあったんですけど、彼女も「自分にしか歌えない曲」ということを大切にしていて。スタジオで聴いていると、「これは確かに水樹さんにしか歌えないな」と感じる瞬間があるんですよ。


勇-YOU-:それは音域のことですか? それとも表現のこと?


雅友:両方。もちろん楽曲のテイストもあるし、水樹さんの声の高さ、表現を含めて、ちょうどいい均衡が取れたときに相乗効果が生まれるというか。それをSCREEN modeでもやりたいんですよね。勇の歌と楽曲が呼び合って、さらに大きくなっていくような……。


ーーその最初の一歩が、今回のシングルなのかも。


雅友:そうですね。「GIFTED」で新しい扉が開いた感覚があったし、それが「Make New STORY!」につながったので。ライブで盛り上がれる曲にしたいという気持ちもあったんですよね。


勇-YOU-:〈Wow-wo!〉っていっぱい歌ってますからね。


雅友:一緒に歌える箇所がいっぱいったら、おもしろいかなと思って(笑)。間奏にも入ってますから。


勇-YOU-:確かに(笑)。歌詞は松井洋平さんにお願いしたんですが、さっき言った“熱い気持ちを伝える”という部分を強調してくれていて。自分のアーティスト性みたいなものを理解してくれてるんだなと改めて感じましたね。“まだまだ前に突き進んでいきたい”という気持ちも入れてくれて。


雅友:SCREE modeは今年で5周年なんですが、一区切りとは捉えたくなくて、ひとつの通過点だと考えているんです。そのことを踏まえて、「新しいことはいつからでも、どこからでもはじめられる」という歌詞にしてほしいということを松井さんに伝えたんですよね。あと、勇が仮歌のときに歌っていた英語の感じも活かしてもらって。


勇-YOU-:適当な英語で歌ってたんですけど、その響きを活かしてくれて。〈新風到来〉〈絶対感動〉〈順風逆風〉もそうですけど、発音したときに気持ちいいフレーズが多いんですよね。音が乗りやすいし、歌っていてすごく楽しかったです。


■誰とでも組めるとしても、結局は勇と組むだろうな。


ーーいま話に出た“5周年”についても聞かせてください。この5年間におけるSCREEN modeの変化をどう捉えていますか?


雅友:「ぎんぎつね」のエンディング曲を歌うという企画ありきで始まっているので、普通のバンドのようにインディーズ活動をしていたわけでもなく、本当に0からのスタートだったんですよね。「もう5年も経ったのか」という感じですけど、ようやく最近、何を目指さなくちゃいけないかがわかってきて。


ーーそれが“アニソンの枠を外したときに何ができるか?”というテーマだった?


雅友:そうですね。逆に“アニソンという枠があるから、自由にやれる”という部分もあると思っていて。そういう型がないと、軟体生物みたいに(笑)、踏ん張れないような気がするんですよね。アニソンという枠があることで、自分たちの音楽を具現化しやすくなるというか。それも5年やってきたからこそ気付いたことですけどね。


勇-YOU-:やってみないとわからないですからね。


雅友:うん。ちょっと時間がかかっちゃいましたけど、ここからが本当のスタートというか。


勇-YOU-:そうですね。「GIFTED」の制作を通して、ボーカリストとしてひと皮むけた感じもあって。新しい自分の可能性にも期待しているし、カップリング曲のタイトル(「Make New STORY!」)通り、ここからさらに進んでいきたいと思っています。6年目は、自分たちらしい音楽、自分たちらしい表現をもっともっと示せる年にしなくちゃいけないなと。


ーー12月には5周年を記念したライブ『SCREEN mode 5th Anniversary LIVE』も開催。ライブについても、この5年間で大きく変化してますよね?


勇-YOU-:そうですね。ライブ全体の構成、空気感もそうだし、自分自身の長所、短所も少しずつわかってきて。ライブの質を高めて、お客さんに求めてもらえるようになるために、もっともっと追求したいし、12月のライブでもその成果を出せたらいいなと思ってます。


雅友:まあ“バグ出し”みたいな作業は終わりつつあるし、自分たちらしいライブがやれるようになってきてますけどね。あとは「何のためにやってるのか」というのがしっかり見えるようにしたいと思っています。アニメソングの場合は、アニメ作品の印象とか、「あのキャラクター、カッコ良かったな」みたいなことを思いながら聴くわけじゃないですか。それを取っ払ったときに「この人たちは何をやってるのか」がハッキリわかるライブをやりたいので。


ーー以前、雅友さんは「SCREEN modeの軸にあるのはメロディ」と言ってましたが、それはいまも変わらないですか?


雅友:そうですね。やっぱりメロディが大切だし、それだけで曲の良さが伝わるようにしたいので。EDM、ダブみたいな音楽もいいなと思いますが、僕らの場合はギター1本とメロディが軸になっているんですよね、やっぱり。そこに勇の説得力のある歌が乗るというのが、自分たちの根底にある形だと思いますね。SCREEN modeの曲って、“ながら”では聴けないと思ってるんですよ。もっと聴き手に入り込んでいくというか。


勇-YOU-:主張が強いっていう(笑)。


ーー最後に、この5年におけるターニングポイントを教えてもらえますか?


雅友:去年リリースしたミニアルバム『SOUL』は大きかったと思いますね。ノンタイアップの楽曲だけを収録した作品なんですが、さっきから話している“アニソンという枠を取ったときに何ができるか?”ということを考えるきっかけになったので。たとえばシングルを制作するときも“表題曲に対して、カップリングはどうするか”という発想をやめて、すべて0から作るようになったり。いま思うと、アニメの世界を曲で表現することに捉われすぎていたのかもしれないですね、以前は。


勇-YOU-:僕も『SOUL』ですね。僕はもともとブラックミュージックやR&Bが好きで、『SOUL』のときはそういうジャンルに特化した楽曲も歌わせてもらって。その経験によって、歌に対する姿勢がはっきりしてきたんですよ。「歌そのものが好きなんだな」と気付いたし、ロックでもR&Bでも、その曲を表現するということにおいては大きな違いはないなって。「SCREEN modeにおいては、雅友さんが作る曲をどう表現するかに重きをおけばいい」ということも実感したし、SCREEN modeの曲を歌うことがさらに好きになりました。


ーー雅友さん、勇さんの距離も近づいてるんでしょうね。


雅友:そうかもしれないですね。他の声優さんと仕事をする機会もありますが、仮に“誰とでも組める権利”を与えられたとしても、結局は勇と組むだろうなと思うので。(森朋之)