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精神科入院中「エコノミー症候群」で死亡、遺族が「違法な身体拘束」と病院を提訴

2018年08月28日 16:22  弁護士ドットコム

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石川県にある精神科病院の男性(当時40歳)が入院中に亡くなったのは、違法な身体拘束を受けたことが原因だとして、男性の遺族が8月27日、病院を運営する社会福祉法人を相手取り、約8630万円の損害賠償を求めて金沢地裁に提訴した。


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提訴翌日の28日、東京・霞が関の司法記者クラブで、男性の遺族は氏名と顔を公表して会見を開いた。亡くなった大畠一也さんの父・正晴さんは「名前を隠してもいられない。この世から身体拘束がなくなれば本望。家族の思いが世に伝われば、あの子の思いも晴れるのではないか」と訴えた。


●拘束を外された直後に亡くなる

訴状によると、一也さんは25歳の頃に統合失調症の診断を受けた。2016年12月、それまでにも通院や入院歴があった被告の病院に入院。14日から「前日にスタッフへの暴力行為あり」として手足と胴体を拘束され、20日午前10時ごろ拘束を外された直後に亡くなった。当初病院側からは「死因は心不全」と説明を受けたが、司法解剖の結果、死因は肺血栓塞栓症と判明した。


肺血栓塞栓症は、肺動脈に血栓(血液の塊)が詰まる病気。その血栓の9割以上は脚の静脈内にでき、それが肺動脈に運ばれることで起こる。エコノミークラス症候群とも呼ばれる。


精神保健福祉法にもとづく基準(厚生労働省告示)では、身体拘束の対象となる患者は(1)自殺や自傷行為が著しく切迫している場合、(2)多動または不穏が顕著、(3)放置すれば患者の生命にまで危険が及ぶおそれがある場合ーーの3要件と示されている。


身体拘束問題に取り組む長谷川利夫・杏林大学保健学部教授は、会見で、一也さんはこれらの3要件に当てはまらず、身体拘束は要件に当てはまらない違法なものであると指摘。


また、「医療事故調査制度」に基づき行われた院内事故調査では9人の委員のうち5人が被告の病院の職員だったことについて「このような委員構成を認めている制度自体がおかしい。人を死なせても不問に付すという制度は変えなければいけない」と制度の不備を訴えた。


●病院側は身体拘束について説明せず

遺族は一也さんの入院中、一度も面会を許されず、亡くなった20日に突然病院から「一也さんが亡くなりました」と電話を受けた。9月上旬には、院長から「壁とベッドの間に挟まれて亡くなった」と説明を受け、身体拘束については全く聞かされなかった。身体拘束の事実は、裁判所を通じた証拠保全で入手したカルテで判明した。


正晴さんは「(亡くなる前)洗濯物やおやつを持って病院に足を運んだけど、顔すら見せてもらえませんでした。病院からの最初で最後の電話が『息子さんが亡くなりました』でした。息子の口から『お父さんこんなのやだ』と言われたら、病院変えることもできたはず。いまだに生きて帰ってきてくれるもんやと思っています」と話した。


(弁護士ドットコムニュース)