「別れさせ工作」が社会道徳に反しているかどうかが争点になった控訴審の判決が、8月29日に大阪地裁で言い渡される。読売新聞の報道によると、元恋人の女性との復縁を望む男性が、女性の現在の交際相手との別れさせ工作を、大阪市内の業者に依頼したという。しかし、依頼男性と業者が報酬の支払いを巡って対立。業者が、未払い分70万円を払うよう男性を提訴した。
「別れさせ工作」は、依頼者の意中の人に交際相手がいる場合、工作員を使って相手と別れるよう仕向けたりするもの。依頼者が持っている情報の量や種類、実施期間などに応じて料金も上下する。
着手金と成果報酬合わせて50万円~200万円 8か月700万円のコースも
ネット上には「別れさせ工作」を請け負う業者のサイトが多数存在する。「夫・妻を浮気相手と別れさせたい」「既婚者と付き合っているが、配偶者と一向に離婚しないので別れさせたい」というものや、「娘・息子の交際に反対しているので別れさせたい」と、保護者からの依頼を想定しているものもある。
基本的には、ターゲットとなった人物に工作員が接触し、連絡先を交換。友人として信頼関係を作りつつ、別れるよう心理的に働きかけるようだ。
多くの業者では、投入する工作員の人数や実働回数、期間によって、複数のコースを設けている。依頼者は着手金として30万~90万円を支払った後、実際に別れや離婚に結びつけば、成果報酬として10万円~100万円支払うのが主流だ。高いところでは、工作期間8か月で700万円以上かかるところもある。
料金は、ターゲットの難易度によっても変わる。依頼者がターゲットの居住地や連絡先を知っていれば安くなるが、知らない場合、業者がそれらの情報を集めるところから始めなければならず、工数がかかる。相手が特殊な職業に就いている場合も接触が難しくなるため、費用は高めになるようだ。オプションでLINE工作やメール工作を行うと謳うところや、依頼人本人が調査に関われば割引をする業者もあった。
探偵業界は自主規制「依頼者も処罰対象になる可能性ある」
一方で、多くの探偵事務所が加盟する日本調査業協会は2002年、こうした別れさせ工作やそれに準じる案件について自主規制を設け、加盟業者に対し、これらの案件を取り扱わないよう指導している。
協会は、別れさせ工作は公序良俗に反するとし、「調査手法によっては様々な他の法律(刑法・弁護士法・民法等)に抵触する恐れがある」「この事案は依頼を受けた業者のみならず、依頼者も法の処罰対象になりうる可能性がある」と指摘している。
原一探偵事務所には、「別れさせ工作」を請け負う業者に騙されたという相談が、20年ほど前から寄せられているという。依頼者に料金を支払わせても何の調査もせず、お金を騙し取る業者が多かったためだという。同事務所の担当者は、
「現在、別れさせ工作を表向きにやっている探偵業者はごく一部です。吹けば飛ぶような会社だと、一線を超えてもビジネスにつながればいいと割り切った判断で手を出すのだと思いますが、我々としては、別れさせ工作は探偵の業務ではないと考えています。『工作』と言っている時点で、我々探偵事務所が仕事とする『調査』ではありません」
と、別れさせ工作は「公序良俗に反する」という立場を明確にしていた。
そもそも、工作員を使ってターゲットの交際を破綻させたところで、依頼者とターゲットとの関係が良好に戻るかどうかは分からない。担当者は、「人の心のことですから。そういう面から見ても、別れさせ工作は意味がないのではないか」と話していた。
「別れさせ工作」巡る金銭トラブルは2015年にも
「別れさせ工作」が公序良俗に違反するかどうかは、2015年にも争われている。好意を寄せる男性Aが女性Bと交際していることを知った依頼者女性は、大阪市内の業者に工作を依頼。工作員が女性Bの連絡先を交換した時点で着手金90万円、破局に持ち込めれば、成功報酬として45万円を支払う契約だったという。
しかし後に、男性Aと女性Bは、実際には交際していないことが判明する。この時点で業者は女性Bの連絡先を入手していたため、依頼女性に90万円の支払いを請求したが、依頼者が応じなかったため、業者が女性を提訴した。
結果、2審で依頼女性の逆転敗訴が決定した。2審を行った大阪地裁は判決の理由として、男性Aと女性Bが独身で、工作が2人の婚姻関係に不当に干渉するものでないこと、女性Bが心変わりして男性との交際を終わらせるかどうかは女性Bの自由意志に委ねられていて、業者の影響力が小さいことなどを挙げていた。
読売新聞の報道によると、今回の裁判では、依頼男性は「業者は工作員に性的関係を持たせる計画も立てており、行き過ぎだ」と主張していると言う。2015年の判決との大きな違いはここになりそうだ。