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本格アクションから菅田将暉いじりまで 『銀魂2』支離滅裂も恐れぬ福田雄一のセンスに脱帽

2018年08月26日 12:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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 福田雄一は一体何を考えているんだと、『銀魂』が実写映画化されると聞いた時に思ったのは言うまでもないことだが、いざ完成した作品を観てみれば、アニメ版で観ていた紅桜篇のカッコ良さを存分に出しながら、おなじみの福田節が炸裂した見事な構成で、130分にも及ぶ壮大な力技に思わず屈してしまわざるを得なかった。案の定上映が終わると、得体の知れない疲労感がどっと押し寄せたのだけれど、その時にはまさかわずか1年で続編が作られるなんて思ってもみなかったわけだ。


参考:『銀魂2』小栗旬×柳楽優弥撮り下ろしショット【写真】


 もはや“調子に乗った”のか“勢いに乗った”のかは良しとして、『銀魂2 掟は破るためにこそある』で描かれるのは将軍接待篇と真選組動乱篇。もしかすると前作を超えるのではないかと淡い期待をしていたが、かなりギリギリまで制作していたというのを聞けば否が応でも不安要素は大きくなっていく。しかしながら、当初の予想が見事に的中。切迫した時間によって詰め込まれた荒削りさが、物語のごちゃついた感じを見事にすくい取り、かえって功を奏しているではないか。


 もちろん荒削りなりの問題点はある。映画前半にはどうしようもないほどのギャグを連発し、後半には本格的なアクションに持っていくという前作同様の構成。たしかに勝地涼演じる“将ちゃん”の存在が映画全体のキーになってくるとはいえ、前半のギャグのくだりはびっくりするほど冗長で、収拾がつかなくなっている。とはいえ、長澤まさみと今回新たに登場した夏菜の出番はこの前半部のみ。この2人を出すためであったと考えれば、もう受け入れずにはいられないだろう。


 そう油断していたら、後半に本格的なストーリーが始動するやいなや、主人公であるはずの銀時をはじめとした万事屋3人がすっかり脇役へと徹し、柳楽優弥演じる土方十四郎が主人公となった真選組のアツい物語が展開。たちまちとんでもない傑作へと様変わりする。余計なものを余計だと感じさせないというか、一本の映画の中で前半の冗長さを完全に忘れさせてくれる、まさに豪傑のような映画だ。大胆不敵な編集とストーリーテリングで、あっという間に畳み込まれてしまうのだ。


 真選組入隊から短期間で参謀まで上り詰めた三浦春馬演じる伊東鴨太郎と、鬼の副長と呼ばれた土方とのちょっとした諍いから、土方の性格が正反対に乗っ取られる謎のチップ、そして真選組を二分する陰謀へと発展していくというのが本作のおおまかな筋だろう。前作ではあまり目立ったシーンが多くなかった吉沢亮演じる沖田総悟の見事な立ち回りといい、三浦の放つインテリな表情と存在感に、柳楽の二面的な演技のギャップがいい塩梅で絡み合う。そして戸塚純貴が相変わらずの三枚目芝居をしたと思えば、そこに堂々と登場する窪田正孝。もちろん小栗旬と岡田将生、中村勘九郎と堂本剛も合流したとなれば、さながら同じ時期に公開しているハリウッドの女優オールスター映画をも軽く凌駕するとんでもないキャストアンサンブルが完成する。


 そして『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を彷彿とさせる大暴走シーンをはじめとしたパロディ(もちろんエンディングの『踊る大捜査線』は小栗自身が出演していただけに見逃せない)を炸裂させてわかりやすく映画ファンの心を掴むだけでなく、冒頭からワーナーロゴ3連発に、静止画の中で万事屋3人が菅田将暉の『あゝ、荒野』での日本アカデミー賞受賞をいじり倒す雑談。


 そして何と言っても魅力的な列車という閉ざされた空間を舞台に、奥行きも横幅もフルに使い切った大立ち回りと、同時進行で別の場所で展開されるアクションがクロスカッティングされる編集の妙。しかもこのそれぞれの空間が完全同時進行ではなく、わずかな時間の差が生じていることをうかがわせる堤真一からの無線のシーンにはたまげたものだ。クロスカッティングを行う必要性を強いる、ある種の映画の時系列の整合性よりも、ノリとテンポを重視し、面白さを追求したということだろう。


 極めてナンセンスなギャグで突っ走り、支離滅裂さも恐れずに凡庸さと斬新さをひとつの映画の中で収め、あたかも2本か3本もの映画を一気に観させられたかのような錯覚に陥ってしまうほど濃密な福田雄一のコメディセンス、もといエンターテインメントセンスは恐ろしすぎる。もはや脱帽するほかない。(久保田和馬)