2018年08月26日 08:42 弁護士ドットコム
「お土産を配ることで、夏休みが終わったってことがみんなに伝わるんだよ」。夏休みの海外旅行から帰ってきた会社員リナさん(20代)は、上司のこんな言葉を聞いて、ショックを受けた。
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リナさんの職場では、夏休みなどの長期休暇で旅行をした際には、お土産を部署全員に配ることが慣習になっている。ただ、リナさんは、旅行の日程が慌ただしかったこともあり、「まあいいや」と思って、職場向けのお土産を買ってこなかった結果、散々嫌味を言われる羽目になってしまった。次回からはどういう事情であれ、購入せざるをえない状況に追い込まれてしまった。
ただ、リナさんは、「そもそもお土産の配布は自発的なもののはず。自腹だし、強制はおかしいのではないか」と考えている。上司がお土産を強制することはパワハラではないのだろうか。(法律監修:大山弘通弁護士)
厚生労働省によれば、パワハラは「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義されている。
リナさんの上司は、「上司」という優位な立場をもちいて、部下であるリナさんに対してお土産を強制していることから、これは「職場内での優位性」を背景にしているといえる。また、お土産の強制は業務上必要な指示や注意・指導であるとは到底いえず、「業務の適正な範囲」を超えている。そして、なによりリナさんは精神的苦痛を被っている。すると、上司によるお土産の強制は、このパワハラの定義にあてはまるといえるだろう。
パワハラは大きく6つの類型に分けることができる。
(1)身体的な攻撃
暴行・傷害など
(2)精神的な攻撃
脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言など
(3)人間関係からの切り離し
隔離・仲間外し・無視
(4)過大な要求
業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
(5)過小な要求
業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
(6)個の侵害
私的なことに過度に立ち入ること
(厚生労働省「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」参照)
リナさんの旅行は「私的なこと」だ。リナさんがお土産について「まあいいや」と思ったことも、結果的にお土産を買わなかったことも、すべてリナさんの自由なのだ。このような「私的なこと」について、買うことを強制するかのように過度に立ち入ることは、「個の侵害」型パワハラに該当する可能性がある。
もし、パワハラに該当するとなれば、民法上の不法行為として損害賠償の対象になりうることを忘れてはならない。今回のことが即座に損害賠償の対象になるというわけではないが、同様なことが繰り返されたり、エスカレートしたり、これを発端にいわれのない攻撃をされるようだと損害賠償の対象となることもある。
たとえ旅行をした際にお土産を配ることが慣習になっていたとしても、それを部下に強制することは控えた方が良いだろう。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
大山 弘通(おおやま・ひろみつ)弁護士
労働者側の労働事件を特に重点的に取り扱っている。労働組合を通じての依頼も、個人からの相談も多い。労働事件は、早期の処理が大事であり、早い段階からの相談が特に望まれる。大阪労働者弁護団に所属。
事務所名:大山・中島法律事務所
事務所URL:http://on-law.jp/