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柴咲コウと橋本愛の切なく愛おしい愛の形 『dele』第5話は“生”を感じさせる回に

2018年08月25日 13:32  リアルサウンド

リアルサウンド

 8月24日に『dele』(テレビ朝日系)第5話が放送された。このドラマは、死後に不都合なデジタル記録「デジタル遺品」をテーマに、1話完結型で多彩な人間ドラマを描いた作品だ。クライアントが遺したデジタル遺品からは、故人の人生や隠された真実が浮かび上がってくる。第5話は、主人公・坂上圭司(山田孝之)と元恋人・沢渡明奈(柴咲コウ)、真柴祐太郎(菅田将暉)が向き合うことになるクライアントの人生が物語の主軸となった。


参考:山田孝之と野田洋次郎の不思議なつながり 『dele』が投げかけた“2度目の死”


 今までの話とは違い、圭司や祐太郎の表情がクローズアップされることは少ない。彼らを物語の中心としない演出によって、「デジタル遺品を介さなければ、クライアントを取り巻く人たちと彼らが出会うことはない」ということに気づかされる。彼らはあくまで職務を全うしているだけなのだ。


 また今回、故人にも焦点は当てられない。第5話の主人公は、圭司の元恋人・明奈含め、今を生きる人たちだ。彼らがそれぞれに抱く愛の形が、切なくも愛おしかった。


 「dele.LIFE」にデータ削除を依頼していた天利聡史(朝比奈秀樹)のパソコンが、72時間以上操作されていないことが分かる。祐太郎は死亡確認に行った先で、聡史の幼なじみ・楠瀬百合子(橋本愛)と出会い、クライアントが3日前に事故に遭い、意識不明だということを知る。


 第5話は、百合子と祐太郎の距離感と圭司と明奈のもどかしい距離感との対比が印象的だった。百合子は「聡史の婚約者」だと名乗り、聡史との思い出を語る。橋本の明るく“振る舞う”その姿に違和感を持つ視聴者もいたかもしれないが、彼女が“婚約者ではない”という事実で納得がいく。フラれたら、幼なじみにも親友にも戻れなくなることを恐れ、百合子は聡史に想いを伝えられなかった。百合子が聡史に婚約を報告したら、「おめでとう」と言われてしまった。聡史にとって自分が何なのか、それを知りたい百合子は嘘をつき、データ削除依頼の撤回を求めた。彼の意識が戻ることを誰よりも願っているが、想いが届かないもどかしさは抱えたままである。


「今日1人はしんどい」


 そう話す百合子が、自身の悲しみに共鳴する祐太郎と距離を縮め、聡史の思い出を楽しそうに語る姿は切ない。今時の若い女の子らしく笑顔を見せていたと思いきや、涙を浮かべ、それを打ち消すかのようにまた気丈に振る舞う。彼女の恋心が愛おしく苦しい。


 一方で、明奈は1年に1度会う圭司に対して、こう語りかける。


 「怖い? 2人になるの」


 明奈からは圭司を慈しむような優しさが感じられる。「1人きりはしんどい」と話す百合子と「2人になるのが怖い?」と問いかける明奈。彼女たちの発した台詞と感情には違いがあるが、いずれも大切な人を想う愛が感じられる。はじめて圭司の職場を見た明奈は、長年抱えてきたであろう想いを口にする。「もし圭司が病気にならなかったら……」。2人の関係がうまくいっていたのか、それとも出会うことすらなかったのか。柴咲は穏やかな空気を漂わせながらも、圭司と明奈の間にあるもどかしい距離感を表現していた。彼らの間に“別れた恋人”の気まずさはない。ただ、圭司の病気がきっかけで距離が離れ、そのまま縮まることなく今に至っている様子は感じとれる。互いを想う心があるからこそ、距離を埋めることができない。しかし明奈は決心する。


「待ち合わせは今年で終わりにしよう」


 圭司はその言葉に一瞬動揺したように見えたが、明奈の言葉には続きがある。「長くは待たないよ。私からデータ削除の依頼が来たらもう他人だと思って」。柴咲は、凛とした表情でこの台詞を発する。圭司の硬い表情も少し和らいだ。去り際の明奈の表情は清々しい。悪戯に微笑んだ明奈の表情は、今後の2人の進展を体現するかのようだ。圭司もまた、祐太郎に明奈との関係を問われた時、恋人ではないと否定しながらも「今のところは」と呟く。この2人が再び出会う機会は近いだろう。


 聡史の親友・宮田翔を演じた渡辺大知の演技も見事だった。出番は少ないものの、バーで祐太郎に伝えた「楠瀬のためにも、データは削除したほうがいい」という台詞と、意識を取り戻した聡史と手を握り号泣する姿だけで、聡史への愛が伝わってくる。渡辺が登場する数シーンだけで、聡史と百合子と翔の間にあった愛の形が、視聴者の心へ流れ込んできた。その現場を間近で見ていた祐太郎は、依頼されていたデータが愛の証しではないかと推測。第5話ではじめて、削除依頼の取消が成立した。


 今まで故人の人生を描いてきた『dele』だったが、意識不明のクライアントを介して、生きている今だからこそ伝えなければならないことを思い知らされた。それぞれの切なく愛おしい愛の形が描かれたからこそ、“生”を強く感じさせられる回だった。


 また今回、百合子との会話の中で、祐太郎が9年前に14才の妹を亡くしていることが明かされた。回を追うごとに祐太郎の過去が少しずつ明かされていく。このことが今後の展開にどう関係していくのか。(片山香帆)