2018年08月25日 08:52 弁護士ドットコム
ふるさと納税で、都市部から地方へ税収が流出していると言われている。総務省がまとめた2018年度の市区町村別「流出額」順位では、横浜市(流出額103億円)、名古屋市(同60億円)、大阪市(同55億円)、川崎市(同42億円)、東京都世田谷区(同40億円)と上位にずらりと大都市が並んだ。
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特に、財政が健全で国から地方交付税をもらっていない東京23区や川崎市などの「不交付団体」に対しては、ふるさと納税で税収が減っても、のちの交付税による補てんがないため危機感は強い。(交付団体は赤字額の75%を国から補てんしてもらえる)
交付税による補てんを考えると、実質上、2018年度に最も影響を受けるのは川崎市(人口151万人)と言える。タワーマンションが建つ人気の街・武蔵小杉などを抱え人口増が続くとはいえ、川崎市はふるさと納税による税収減をどう捉えているのか。財政局の担当者(石田明子庶務課長、林正充財政課課長補佐、西牟田康也庶務課調査担当係長)に話を聞いた。
ーーふるさと納税による税収減について、どう捉えていますか
「42億円という額は、こちらが想定していたより大きかったです。ふるさと納税自体の認知度が高まっていて、市外に寄付する方が多くなっているという印象です」(減収額は2015年度が1億円、2016年度が12億円、2017年度が29億円だった)
ーー行政サービスに影響は出そうでしょうか
「現時点では影響が出ないように、やりくりしています。具体的には、減債基金から一時的に借り入れをしてしのいでいます。今後、法人市民税が国税化されることに伴い、川崎市では大きな税収減も見込まれます。ふるさと納税の減収分と足せば、単年度で100億円を超える規模です。市長も危機感を抱いています」(ここでいう減債基金とは、市債の返済を計画的に行うために設けた基金)
ーーその危機感は市民に伝わっているでしょうか
「厳しいという状態が伝わりにくいことが問題だと思っています。川崎はタワーマンションが建ち並び、人口が増えていることもあって、世間的には理解しにくいのだと思います。扶助費(高齢者や児童福祉などにあてる費用)は増えていくなか、ふるさと納税による税収減が続くと、川崎市として推進したい分野に予算をつけにくい状況になってしまいます」
ーーふるさと納税はどのような制度であるべきだと考えますか
「控除の上限が平成27(2015)年度税制改正で、住民税の所得割額の20%へと拡充(それまでは10%)されたのが、ふるさと納税がここまで盛り上がっている理由として大きかったと思います。これがなければ減収は今ほどではなかったでしょう。
また、現行制度上は、寄付する額と自治体数に上限がありません。そのため高額所得者の優遇になりすぎていないかという問題意識があります。総務省に対してはこうしたことを伝えています。
ふるさと納税は、もともと自分が育った地方へのお礼の気持ちということだったはずです。今や節税対策みたいになってしまっています。控除の上限を住民税の所得割額の10%に戻し、年間の寄付上限額を設けるべきでしょう」
ーー危機感があるなら、川崎市も返礼品をもっと増やして対応すればいいという声もあるかもしれません
「あくまでも寄付金の魅力的な使い道を示し、応援してくださる方を大切にしたいと思っています。返礼品競争に加わるつもりはありません。市内外を問わず、寄付してくださった方には、市内の岡本太郎美術館への招待券などの記念品をお渡ししています」(川崎市ふるさと納税サイト:http://www.city.kawasaki.jp/shisei/category/47-2-0-0-0-0-0-0-0-0.html{target=_blank} )
ーー同じ不交付団体でも、東京23区と川崎市では危機感に違いはあると感じますか
「まず川崎市は、政令指定都市の中で唯一の不交付団体です。川崎市として感じる問題を提起しても、政令市全体の動きになりにくいところがあります。
また、東京23区は(財源不足に備えて財源に余裕がある年に積み立てる)財政調整基金がしっかりあるのに対し、川崎市は交付団体と不交付団体を行ったり来たりしていたこともあって、十分な基金が積めていないのです。現状は残高が50億円くらいしかなく、減収への対応力が弱いのです」
(取材:弁護士ドットコムニュース記者 下山祐治)早稲田大卒。国家公務員1種試験合格(法律職)。2007年、農林水産省入省。2010年に朝日新聞社に移り、記者として経済部や富山総局、高松総局で勤務。2017年12月、弁護士ドットコム株式会社に入社。twitter : @Yuji_Shimoyama
(弁護士ドットコムニュース)