トップへ

DracoVirgoが表現する“スチームパンク”は世界へーー海外エンジニアのリミックスに感じる独自性

2018年08月23日 17:51  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 1980年代の始め頃に誕生したと言われ、「歴史と未来」、「夢と現実」、「光と陰」など、相反する世界を独特の手法で表現するSFのサブジャンル「スチームパンク」(蒸気機関が広く使われていた産業革命期のレトロな雰囲気が全体に流れているので、そう呼ばれるようになったそうだ)。その表現世界は、あらゆるカルチャーに影響を与え、音楽の世界においても、クラシックやジャズ、ロックからヒップホップ、エレクトロニックまで、あらゆる手法を取り入れながら、進化を遂げている。特に日本においては、80年代中盤頃からその世界に通じる表現方法を取り入れた、その後のヴィジュアル系に連結していくバンドなどが注目されはじめ、そこから独自の美的センス(ロマンティシズム)を構築するように。結果、現在では他の国にはない崇高さを放ち、熱狂的に支持、陶酔するリスナーが多い。


参考:DracoVirgo×毛蟹が語る『Fate/Grand Order』の魅力と「清廉なるHeretics」制作秘話


 そんな日本「スチームパンク」の世界において、現在注目されているのが、DracoVirgoである。MAAKIII (Vo)、mACKAz (Ba)、SASSY(Dr)からなるバンドプロジェクト。2018年、1stオリジナルソング「KAIBUTSU」の配信限定リリースをきっかけに、本格的に活動を開始。そこからスタートしたライブツアーにおいては、美しさやしなやかさの中に狂気がはらむような圧倒的なボーカル、疾走感とともに重厚感を響かせるスリリングなバンドサウンドに加え、ステージだけでなくフロア全体にも凝った演出を施し、夢と現実、過去と未来が交錯するパラレルワールドを構築。多くの観客が、その世界に飲み込まれ、熱狂を引き起こしたのである。


 その後、7月には2ndソング「hanaichimonme」を発表。日本人なら、誰もが耳にし、口ずさんだことのある童謡をモチーフに、現代に溢れる孤独感を救済する思いを、ダンサブルに表現している楽曲に仕上げた。また同月には、3rdソング「阿弥陀の糸」をリリース。森羅万象のすべてを司ると言われる仏=阿弥陀から与えられた運命の糸、それに操られることなく自分の決めた道をひたすら進み続けたい、走り続けたいという真摯な思いをラウドな音にのせて表現しているナンバー。どちらも、バンドの今の衝動を閉じ込めていると同時に、驚くべきスピードで進化し続ける日常が放つ鮮烈な「色彩」(これは東京の放つ光なのかもしれない)を柔軟に取り入れ、崇高なイメージの「スチームパンク」に、新たな魅力や可能性、リアリティを吹き込んでいる印象で、発表直後から幅広いリスナーから大きな反響を呼んでいるのだ。


 彼らはこの「スチームパンク」を、日本だけではなく世界にも精力的に発信。オフィシャルサイトにおいては、英訳した歌詞を掲載するなど(プロフィールは、中国、フランス、韓国語もある)、楽曲同様に枠を設定せず、多くの人々が世界観を共有しやすくなるような活動を追求している。ゆえに、海外とのミュージシャンとのコラボレーションにも積極的で、今回発表された2曲のリミックス「hanaichimonme – Bri-Bri-Boo MIX -」と「阿弥陀の糸- Bri-Bri-Boo MIX -」は、ともにニューヨーク在住のエンジニアで、これまでパティ・スミス、オジー・オズボーン、ホイットニー・ヒューストンなどそうそうたるミュージシャンを手がけている、Brian Sperberによるものである。「hanaichimonme」においてはホーンを、そして「阿弥陀の糸」ではストリングスの音などを加え、より彩りが豊かで、スケールの大きな「スチームパンク」を構築。どちらも、日々さまざまな国や概念を持った人が行き交うニューヨークの喧騒が伝わってくると同時に、楽曲そのものが持つ洗練性、そして強烈なビートの奥にある流麗な旋律が、原曲とは異なる角度から轟く仕上がりになっていると思う。


 DracoVirgoが繰り広げる、洗練と崇高を絡めあわせた「スチームパンク」は、時間や場所などあらゆる概念を取り込んで柔軟に変化しながらも、根底にある鮮烈や美しさは、どんな音色を加えようが変化することはないことを、今回のリミックスを耳にして感じることができた。ゆえに彼らの音楽は、日本の音楽という枠を超えて、地球規模で熱狂を呼ぶことになるに違いない。(松永尚久)