■パリ初のデジタルアートミュージアムでクリムトの作品世界に入り込む
今年で没後100周年を迎える画家グスタフ・クリムト。
ウィーン分離派を代表するアーティストとして世界中で愛されているアーティストだが、2019年には4月23日から東京・上野の東京都美術館で『クリムト展 ウィーンと日本 1900』、翌日4月24日から六本木の国立新美術館で『ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道』が開催されるなど日本でも話題を集めそうだ。
クリムトといえば、『接吻』に代表される金箔を使った作品群だろう。そんなクリムトの華やかな作品世界の中に入り込める展覧会が、フランス・パリ初のデジタルアートミュージアムとして今年4月に開館した「ラトリエ・デ・リュミエール(L'Atelier des Lumières)」のオープニング記念展として行なわれている。
■19世紀の鋳造工場を改築した美術館。140のプロジェクターが没入空間を作り出す
「光のアトリエ」という名前を持つラトリエ・デ・リュミエールはパリ11区に建つ。かつて鉄の鋳造工場だった、1835年に建設された建物を改築した施設だが、19世紀の工場をまるごと作り変えるのではなく、煙突や貯水タンクなど建物の歴史を感じさせる要素も残されている。
展示空間はメインのホールと小規模なスタジオという大小2つのスペースで構成。作品の実物を目にすることはできないが、3300平方メートルにおよぶ表面積に、140のプロジェクターを使って作品の映像を投映し、四方の壁と床を絵画のイメージで囲まれた没入空間を作り出す。
キュレーターのブリューノ・モニエは同館のオープンに際し、「(デジタル技術を)クリエイティブな目的に用いることで、時代と時代の繋がりを作り出すことができるほか、アーティストの表現にダイナミズムを与え、感情を増幅させ、可能な限り多くの人々に届けることができる」と現代の展覧会におけるデジタル技術の重要性についてコメントしている。
■デジタル技術で新たな鑑賞体験を。見慣れた作品にも新たな視点
メインホールで11月11日まで行なわれているのが、クリムト、そして同じくウィーン分離派を代表するアーティストのエゴン・シーレという同時代に生きた2人の偉大な作家にフォーカスするプログラムだ。
ラトリエ・デ・リュミエールのアーティスティックディレクターであるジャンフランコ・イアヌッツィは同展のねらいについて「『接吻』はウィーンの芸術的復興のシンボルであり、誰もが知ってる作品です。私たちはクリムトの作品の違う側面を追究したいと考えました。19世末ウィーンの宮廷にあった作品や、彼が夏の間、自然に囲まれて過ごした時に屋外に作った精巧で繊細な植物のタペストリー、女性像に描かれた洋服や装飾の細部などです」と明かす。
約30分間のこのプログラムは6つのパートから構成されており、金箔を用いた「黄金の時代」の作品群だけでなく、クリムトが手掛けた天井画や風景画、女性像、そしてウィーン分離派の作家たちのとの関わり、クリムトに影響を受けたシーレのポートレート作品群までを網羅。あわせてオーストリアの芸術家フリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサーのショートプログラムも上映している。
会場ではマスターピースの数々をデジタルアートとして表現することで、天井画など近くで見ることのできない作品も拡大され、細部までじっくり見ることができるなど、今まで見たことのある作品にも違う視点や鑑賞体験を提供してくれる。また最先端のデジタル技術を用いてクラシックな名画に新たな命を吹き込む本展は、アートになじみのない若者にとってもアクセスしやすい展覧会となるだろう。新進アーティストの作品などを紹介する小ホールでは、8月31日までAIを使ったデジタルインスタレーションも展示されている。
■開館3か月超で40万人が来場。2018年末には韓国にも
The Guardianの取材によれば、ラトリエ・デ・リュミエールは開館から3か月で40万人超の観客を記録。運営元のフランスの組織Culturespacesは、同様のデジタルアートセンターを2018年末に韓国のチェジュ島に開館するほか、2019年にはアメリカにも施設をオープンさせる予定だという。
日本でも6月に開館したチームラボのデジタルアートミュージアムが話題を呼んでいる。壁に飾ってある絵を順番に見ていくのではなく、作品そのものの中に観客が入り込むという鑑賞体験ができる「21世紀のエキシビション」を見据えたラトリエ・デ・リュミエールは、芸術の都・パリの新名所になりそうだ。