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綾瀬はるか×上白石萌歌の土下座が美しい 『義母と娘のブルース』に見る親子の姿

2018年08月22日 13:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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「まあ、ふたりは親子ってことじゃないっすかね」


参考:綾瀬はるか、いつまでも無色透明な“特殊性” 『ぎぼむす』亜希子の変化は『逃げ恥』平匡と重なる?


 またもや美しいW土下座が見られるとは――。『義母と娘のブルース』(TBS系)第7話では、母親として奮闘する亜希子(綾瀬はるか)と、その愛に応えたいと悩む娘のみゆき(上白石萌歌)が、すれ違った想いを謝罪し合った。それは、第5話で見せた亜希子と良一(竹野内豊)の夫婦愛に満ちた土下座シーンを思い出させるものだった。


 「血がつながっていようがいまいが、これはどんな親子にも起こり得ることなんだ、と」。親は子にとって良くも悪くもお手本だ。バリバリのキャリアウーマンだった亜希子の完璧なビジネスマナーや、人としてのまっすぐさを見習い、みゆきはすくすくと育った。周囲を和ませる明るくて朗らかな性格も、良一から受け継いだもの。だが一方で「こうなりたい」という野心や、「そのために何をしたらいいのか」という戦略的な部分は不得意だった。


 亜希子が再就職したことによって、自分にはない才能に気づかされたみゆき。思考能力の高さ、手際の良さ、周囲を巻き込むパワフルさ。はじめはそんな亜希子に刺激を受けて、受験勉強に勤しむが、模試の結果は伸び悩む。亜希子の『ベーカリー麦田』再建計画は、すぐに1日の目標売上金額をクリアしたというのに……。亜希子は“仕事をする尊さを教えたい”と一層仕事に打ち込むが、みゆきはそんな親の背中を見て、次第に“期待に応えられていないのではないか”、“もし、亜希子の本当の娘だったらもっと出来がよかったんじゃないか”と、劣等感を募らせていく。


 「バカでごめん。たったひとりの娘が、私みたいなのでホントごめん」。膨らんだ劣等感を亜希子にぶちまけたみゆき。優れたお手本を前にすると、理想が高くなっていく。だが、その理想に追いつけないのは、お手本ではなく自分自身の問題だ。劣等コンプレックスは、ある意味で厳しい現実から自分を守る術でもある。なぜうまくいかないのかを考えると、人は自分ではどうしようもないことを理由にしたくなる。「だから、うまくいかないのか」と安心したくなるのだ。みゆきの場合、どこかで「本当の娘じゃない」という環境のせいにすることで、亜希子のようにいかない自分を納得させようとしていたのかもしれない。


 しかし、本当にその壁を乗り越えたいと思ったときには「なぜ、うまくいかないのか」よりも、「どうやって、うまくいかせるか」を考えることが建設的だ。娘の心の叫びを前にしたときには、言葉を失っていた亜希子だが、すぐに「やめる」と言い出す『ベーカリー麦田』の店長・章(佐藤健)に対しては、明快に諭していた。「お言葉ですが、店長が輝けないのは才能の問題や、場所の問題でもないと思います。“だから、やめる”が、最大の要因かと」と。


 章は、きっとみゆきが辿ったかもしれない未来の姿だ。どうしてもこれがやりたいという確固たるものが見つからず、目の前には超えられない親の背中があり、周りの誰よりも自分と親とを比べて劣っていると感じてしまう。きっと章もみゆきも、自分が“したい”よりも、人を“喜ばせたい”で動くタイプの人なのだろう。亜希子や章の父のように道を切り拓く人がいるなら、その道をより強く舗装する人や、見る人をホッとさせる街路樹を植える人も必要だ。だが、ことキャリアの話になると「自分のやりたいことは何だ」と問われることが多くなる。


 子育てとマネジメントは、よく似ている。目指すべき背中があるうちは、懸命に追いかける。だが、大事なのはその先の自分の良さを活かす方法だ。亜希子が提案する「麦田店長に関する今後の展開案」には、飽きっぽく、めんどくさがりで、敬語が使えずに名前をよく間違えるなど、社会人として弱点と言われる部分も見つめながら「これはやみくもに否定をせず、フレンドリーなキャラクターの名物店長に」と、個性を活かす方法を模索する。同時に「彼の作るパンの特徴として、味は改善の余地を残すがそのフォルムが美しいことは特記に値する」と、強みも見逃さない。優秀な親や上司、あるいは周囲と比べて劣っているのではなく、異なる魅力と個性があるということ。小さな奇跡で見つけた、もうひとりの“宮本みゆき”を見るように。


 それにしても「夜の営み」をWワークと勘違いした亜希子と、「ヒニン」と「ヒナン」を聞き間違えるみゆきは、よく似てきた。亜希子のようにみゆきが壁に頭をぶつけて猛省し、みゆきのように亜希子が屈託なく笑う。血がつながっていてもいなくても、親と子にはなれる。そして違っているからこそ、親と子はお互いに学び合えるのだ。(佐藤結衣)