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山下智久のポジションは“憧れ”から“仲間”へ 『劇場版コード・ブルー』絆によって手に入れた“強さ”

2018年08月22日 10:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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 『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(以下、『劇場版コード・ブルー』)が、公開から24日間で累計観客動員538万人、興行収入69億円を突破。今月17日からはアトラクション型シアターMX4D・4DXでの上映もスタートしており、ますます注目度を高めている。今作の舞台は、2017年にフジテレビ系で放送されていた同3rd seasonから3カ月後。レジデントとしてトロント大へ渡ることになった藍沢耕作(山下智久)が、一時帰国している間のエピソードが描かれている。


 『コード・ブルー』シリーズの放送開始は、2008年7月。当初の藍沢は、初めてドクターヘリで駆けつけた事故現場で行った腕の切断を「楽しかった」と言い放ち、「ここでワンミッションでも多くヘリに乗って、たくさんの症例をこなす。そして誰よりも早く、俺は名医になる」と、生き急ぐように技術を身につけようとしていた。


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 その理由は、藍沢の育て親である祖母・絹江(島かおり)が救急搬送されてきたことを機に、少しずつ明らかになっていく。幼い頃に母親は他界し、父親は失踪。2nd seasonでは、両親がいないことを自分のせいだと感じ、「僕はいい子?」を口癖に幼少期を過ごしてきたことが明かされる。そして彼は “自分が優秀でなければ必要とされない”と思い込み、必死で勉強して奨学金で医学部に進学。そうして生まれたのが、孤高の医師・藍沢耕作だった。


 その後、母親の死は自殺が原因であることが判明。突如姿を現した父・誠次(リリー・ フランキー)との不和もあったが、「この(器用な)手だけはあなたに似たのだと思います」と恨み続けてきた父親、そして自分自身の過去を受け入れる。どんな状況であれ、自分のことを一番に考えて育ててくれた祖母への感謝の念、そして、時を経て救命チームとの関係を深めていった藍沢は、1st seasonと比べ人間らしさに満ちていくのだった。


 だが、そんな“人間くささ”は時に外科医にとって邪魔になる。事実、3rd seasonで天才ピアニスト・天野奏(田鍋梨々花)の後遺症に思い悩む姿は、患者に感情移入しない過去の藍沢であればあり得ないことだった。そんなウジウジとした藍沢には違和感すら覚えたが、第9話で白石(新垣結衣)が「藍沢先生ってそんなだった? 9年前のあなたは違った。誰よりもいい医者になる、そのためなら周りとの摩擦も厭わない。そこに私たちは憧れた」と、救命チームのみならず、視聴者の思いをも代弁。その言葉に藍沢はトロント大行きを決意し、再び前を向くことになる。


 さらに3rd season最終話で藍沢は「9年前、ここに来た理由は、難しい症例が集まるからだった。あの頃の俺は、自分のために医者をやっていた。今は、誰かのために医者でありたいと思う。俺はそれを、お前たちから教わった」と、自身の成長は仲間のおかげだとまっすぐに語る。孤独であることから生まれる“強さ”を失った藍沢だったが、仲間との絆によって、それ以上の“強さ”を手に入れたのだ。


 一方で、先の白石の言葉は「藍沢先生がいなくたって、私たちはちゃんとやれる。違う……あなたがいない分、強くなろうとする」と続く。9年の間に、救命チームでの藍沢のポジションもまた、“憧れ”から“仲間”へと大きく変わっていた。自分にも周囲にも厳しい藍沢だが、その裏には、いつだって優しさが溢れている。現場での頼れる言動はもちろん、電車で泣いている白石をさりげなくかばったり(2nd season)、冴島(比嘉愛未)の流産に落ち込む藤川(浅利陽介)に「人は幸せになるために結婚するんじゃない。辛い毎日を2人で乗り越えるために結婚するんだ」と寄り添ったり(3rd season)、根底にある温かさは人を惹きつける。そして、それを知る仲間たちが、彼を慕わないはずもない。


 『劇場版コード・ブルー』では、前シーズンまでに描かれてきたエピソードが大きく意味を成しており、藍沢のバックボーンもまた物語の重要なカギを握る。そして、その過去を乗り越えた彼が放つ言葉には重みがあり、仲間たちが表情で魅せる“藍沢への思い”には、セリフ以上の感動が押し寄せる。加えて、フライトドクター出身である自分に誇りを持つ藍沢の姿は、『コード・ブルー』や共演者を誇りに思う役者・山下智久と重なり、より一層、観る者の心を熱くする。


 救命チームの絆を包み隠さず映すことで、自然と“過去”を回顧する本作は、キャストのみならず、ファンそれぞれが作り上げる10年の集大成といえそう。未曾有の事故を壮大なスケールで描写する一方、1stシーズンから一貫して変わらぬ藍沢の“強さと優しさ”を細やかに描く『劇場版コード・ブルー』。思い思いの感情を胸に、スクリーンに刻まれる藍沢らしい“芯のある温かさ”に、改めて触れてみてほしい。


(nakamura omame)