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『荒木飛呂彦原画展』いよいよ開幕。国立新美術館で「ジョジョの祭典」

2018年08月21日 19:21  CINRA.NET

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新作『裏切り者は常にいる』の前に立つ荒木飛呂彦 ©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
『荒木飛呂彦原画展 JOJO 冒険の波紋』が8月24日に東京・六本木の国立新美術館で開幕する。

1987年から連載を開始し、昨年に30周年を迎えた漫画『ジョジョの奇妙な冒険』。本展は初公開を含む豊富な原画や関連資料が一堂に会す「JOJOの祭典」だ。

国立美術館で漫画家の個展が開催されるのは、手塚治虫以来28年ぶり2人目。現役の漫画としては初となる。一般公開に先駆けて、本日8月21日にプレス内覧会が行なわれた。『ジョジョ』の魅力を存分に味わえる本展の会場内を一足早くレポートする。

■荒木飛呂彦による完全新作の大型原画『裏切り者は常にいる』

会場内は「ジョジョクロニクル」「宿命の星 因縁の血」「スタンド使いはひかれ合う」「JOJO's Design」「ハイ・ヴォルテージ」「映像展示『AURA』」「新作大型原画ゾーン」「ジョジョリロン」の8パートから構成。一番の見どころは、荒木飛呂彦がこの展覧会のために描き下ろした完全新作の大型原画『裏切り者は常にいる』だ。

2メートル×1.2メートルの全12枚の絵画が並ぶ本作には、時空を超えて同じ空間に登場したキャラクターたちが等身大の大きさで描かれている。作品はコの字型に展示され、DIOや空条承太郎といったキャラクターと同じ目線の高さに立ってその圧倒的な存在感を感じることができる。

内覧会に参加した荒木飛呂彦は「作品を見ている私たちの現実世界と、キャラクターの世界を一体化させて、同じ空間に存在させること」が本作の目的だったと話す。作品を一列でなく、鑑賞者を囲むようにコの字型に展示したのもそういったねらいによるものだという。

■こだわりは「消失点」。漫画の世界と現実世界を一体化を目指す

現実世界の鑑賞者と漫画の世界のキャラクターの一体感を出すために一番こだわったのは「視点」。「自分の目線の高さに消失点を持ってくること。それによって足の着地点も決まってくる。そこが普通の漫画を描くのとは違ってくる」と明かした。

描かれている12人のキャラクターは、読者の人気キャラというわけではなく、シルエットや髪型、ファッションなどがかぶらないように、という思いで構成されたが、「承太郎とDIOは象徴的な人物なのでこの2人は最初に入れました」「カーズの半分ヌードっていうのは自分で描いてて良かったです」と話す。

またこのような大型の作品に取り組んだのは初めてだったという荒木が「DIOの背景が色がちょっと濃かったかなと思った。本当は直したかった」と打ち明ける一幕もあり、会場は笑いに包まれた。

展覧会の最後の展示室ではこの新作大型原画のメイキング映像が上映されており、荒木の言葉と共に制作工程を辿ることができる。また制作時に使われた道具や下描き、構想ドローイングなども展示されている。

■150体のスタンドが集結する展示空間やバトルシーンの原画も

そのほか会場内には1980年代からの漫画原稿や原画が多数展示。主人公とライバルを白と黒で対比させた「宿命の星 因縁の血」の展示では、各キャラクターの名言が描かれたバナーが天井が吊るされているほか、各部の主人公とライバルの原画が向き合うような構成になっている。

「スタンド使いはひかれ合う」の章は、原作漫画の『ジョジョリオン』最新刊までに登場した150体のスタンドとスタンド使いが集結した空間に。『ジョジョ』の特徴的なポージングや構図、色使い、ファッションなどの観点から選び抜かれた原画を展示する「JOJO's Design」では展示壁にもキャラクターやカラフルな幾何学模様が描かれた。

また第7部までの主人公とライバルたちの「最高潮のバトルシーン」を一挙展示する「ハイ・ヴォルテージ」では、連続する原画展示によって原作の醍醐味である対決シーンを追体験することができるほか、上部の壁面にはイラストや擬音が揺れ動くプロジェクションマッピングが登場している。

■「JOJO派」作家のコラボ作にも注目。小谷元彦はスタンドが出現する瞬間を現実世界に展開

本展で荒木の新作大型原画と並んで注目したいのが、「JOJO派」のアーティストとして参加している作家たちによるコラボ作品だ。参加しているのは美術家・彫刻家の小谷元彦、ファッションブランド「ANREALAGE」のデザイナーである森永邦彦、ビジュアルデザインスタジオのWOWの3組となる。

小谷元彦は「スタンド使いはひかれ合う」の展示室で、「異形態」を意味する『Morph』と題された彫刻作品5点を発表。5点は全て人物像になっており、小谷自身の顔を他者と融合・変形させている。

内覧会に参加した小谷は「スタンドが本人と一体化して出現している瞬間を目に見える形で実体化させたら面白いかなと思ったので、それを意図的に作り上げた」と解説。

展覧会にあたって『ジョジョ』を読み直し、「彫刻」というジャンルから参照したであろうポージングや設定をピックアップする作業から始めたという小谷は、なかでも「『瀕死の状態からスタンドが出現する』という状態、これはミケランジェロの『瀕死の奴隷』(ルーヴル美術館に収蔵されているミケランジェロの彫刻作品)だと感じ、かなり面白いと思った」と明かす。

さらに漫画の中に「肉体の欠損」に関する多くのアプローチがあることに注目し、「切る、溶かす、歪む、穴が開くといった動作が肉体表現に過剰に応用されていることがとても多いことに気がついたが、これは彫刻というジャンルでもよく使われることだと思った。それをなるべく利用して作品を作れないかというところでスタートした」と話した。

■森永邦彦の作品は5体の「ジョジョ立ち」するマネキン

森永邦彦の作品『WEAR THE POSING,WEAR THE STAND』は「JOJO's Design」のコーナーに展示。空条承太郎、DIO、岸辺露伴といった5人のキャラクターが「ジョジョ立ち」したマネキン5体が並ぶ。

「『ジョジョ』における日常と非日常を洋服に置き換えて作品制作をした」と語る森永。通常の洋服は直立した形で作られているが、本作では洋服自体がジョジョ立ちをした形で作られており、この洋服を完璧に着るためには完璧なジョジョ立ちをしなくてはいけない。普通の状態で着ようとするとポージングした造形が人体に反発するため、洋服ではなく人体が服の造形に合わせることを強いられるという作品だ。

また作品はいずれも真っ白のマネキンに見えるが、実際は各キャラクターのスタンドの絵柄が特殊なプリントで施されている。5体のマネキンにはランダムでライトが当たり、光が当たった瞬間だけそのプリントを肉眼でも確認することができる。

これについて森永は「荒木先生の漫画ではスタンドの色が固定されておらず、回ごとに青やピンクなど様々な色で描かれている。今回のプリントの柄も1つのスタンドに対して様々な色で描かれたものをパッチワークのように集めて、ファッションの柄として再構築した」と明かす。

■「スタンドの起源」を解釈したWOWの映像作品

WOWの作品『AURA』は「スタンドの起源」を独自に解釈して表現した3分強の映像作品だ。

原作漫画13巻でスタンドが「幽波紋」という言葉で説明されていたことに着目し、スタンドがスタンドになる前に波紋と同じような生命の源泉があったという仮説に基づいて構想された。音楽は原摩利彦が担当している。

田崎佑樹(WOW)は「生命の泉のようなものからエネルギーが生まれ、実際の形になっていってスタンドになり、スタンドが物語の中でライバルたちと戦っていくという一連の流れを形にした」と説明。

「自然に対する畏怖心や恐怖心も表現したいと思った。映像の中に少し怖いような表現もあったかもしれないが、そういった部分は荒木作品の根底にあると思っているので、そこも含めて楽しんでもらえれば」と呼びかけた。

■音声ガイドには荒木飛呂彦も参加。大阪会場は11月から

なお本展の音声ガイドには荒木飛呂彦も参加。荒木本人の解説も交えながら展示を楽しむことができる。

『荒木飛呂彦原画展 JOJO 冒険の波紋』は8月24日から10月1日まで国立新美術館で開催。8月22日、23日は事前に行なわれた抽選の当選者のみ参加できるプレビューデイとなっている。入場は完全日時指定制で、チケットは現在販売中だ。

また11月25日からは大阪・大阪文化館 天保山に巡回。東京展とは展示原画の一部と、販売されるオリジナルグッズの一部が異なるという。詳細は展覧会の特設サイトをチェックしよう。