人手不足や好景気などを背景に、転職市場の活況ぶりが報じられている。管理職経験者や専門スキルの有無などに関わらず、多くの年代や職種で転職者が増加。中小企業から大手企業の正社員に、といった転職例なども伝え聞かれる。
20代のうちの転職はもはや当たり前。入社3年未満という比較的短期間のうちに転職を繰り返す若者も少なくないようだ。そこで当記事では大学卒業後、4年半の間に2回の転職を経験した女性の転職事例をご紹介する。
テナント料が月100万円なのに売上16万円という店舗
河合沙織(仮名・27歳・埼玉県出身)さんは2014年春に青山学院大学を卒業。他大の服飾系のデザインサークルに入り、学生時代の4年間古着屋でバイトしていた。新卒では銀座の百貨店などにも出店する200人規模のアパレル企業に販売スタッフとして入社する。
1社目の求人票の内容は年間休日100日にも満たなかったが、給与は額面19万で、休日手当、年2回の賞与有りというもの。入社後、同期の2人と百貨店の店舗で2か月ほどの簡単なOJTを終え、銀座の一等地にある直営店に配属された。
「就活にはそれほど熱心になれず、アパレル企業を3社ほど受けた程度です。新卒で就職した会社は体調不良で最終面接に行けなかったんですけど、快くリスケしてもらえて、3社の中で最初に内定をくれたからくらいの理由で、あまり深く考えず入社しました。でも、その配属先の直営店というのが毎日暇すぎて。テナント料だけで月100万円とかするのに売上16万円、5点しか売れてない月もありました。自爆営業をする隙すらなかったですね。暇すぎて勤務中に誰が一番多く折り鶴を折れるか競ったりして、捉えようによっては超ホワイトかも……と思いましたが、いざ続けているとかなり苦痛でした。学生時代の友人は新しい会社で四苦八苦しているのに、1日中バックヤードで鶴折っているだけってやばくないですか(笑)。流石に将来性ないなと思い、入社して1年経った頃にはもう転職を考えはじめていましたね」
その会社は、就活時に示された待遇も嘘ばかりだったという。
「休日手当なんて当然のように出ないし、有休も『風邪が引いた時のためだから使わないように』とのことでした。最初のボーナスも『飲み代』レベルで、2回目以降も3万円とか。『2回目以降のボーナス最低でも1か月分出る、と言われていたんですけど、これは今期厳しいってことですか? 年次が浅いからですか?』と聞いても、誰も1か月分もらえたことなんてないらしく、話が全然違う。でも店も儲かってないし文句も言えなかったですよね」
加えて赤字だらけの店舗運営に対し、本社からのプレッシャーを受けていた直属の店長が、徐々にサイコパス化したのも転職に踏み切る要因となったらしい。
「店長はもともと癇癪持ちの気質で、すぐバレる嘘を平気でついたり、支離滅裂な指示をすることが徐々に増えていったんです。ディスプレイ方法の指示が一晩で180度変わったり、自分のミスを部下のせいにして上に報告したり……。一緒に直営店に配属されていた同期の男性がまずメンタルやられて辞めて、私が転職した直後にその店長も休職したそうです」
前年比の倍近いノルマに苦しめられ2度目の転職へ
結局2年半ほど勤め、河合さんは現在の勤め先であるヨーロッパ某国に本社を置く、高級革ブランドの日本法人に就職する。卸から販売まで手掛ける会社だそうで従業員の9割は女性。社員は50人ほどと会社の規模は小さくなったが、給与は年収で約60万円アップした。
「百貨店の店舗ということもあり前職よりも忙しくなりましたが、百貨店の営業時間があるので残業とかも基本ないです。残っても30分くらいで、有休も比較的取りやすいですね」
しかし、河合さんは10月に控える入籍にかこつけ、この会社にもすでに退職の意思を告げている。また2年ほどでの転職となったわけだが、2度目の転職を決意させたのは、入籍ではなく河合さんが"女帝"と呼ぶ40代女社長の存在だ。
「女性の多い職場は人間関係がドロドロ……みたいな話、あまり信じてなかったんですけど、いまの職場の人間関係はマジで最悪です(笑)。特に店長同士の仲が悪くて。社長のひと声で全てが決まる典型的なワンマン経営なので、女帝と仲のいい店長はノルマなどを優遇される一方、気に入られていない店長やスタッフは徹底的にイジメられてしまうんですよ」
河合さんによればアパレル業界では前年より上の売上ノルマを課されるのが常らしいが、河合さん直属の店長は、その女帝なる女社長と相性が相当悪いらしく、他の店舗が10%程度増しで課されているところを、前年比の倍近いノルマをなんの根拠もなく課されるといった、様々な面で冷遇を受けているそうだ。
当然、販売スタッフである河合さんたちの働き方にも、そうした厳しいノルマなどのシワ寄せは及んでいる。
「ノルマがキツイと一人当たりの業務量も増えるし、店長は結婚前の苗字違うクレカで60万円のバックを切って、1か月後に返品するという自爆営業まがいの裏技で、売上を一時的に誤魔化したりしています。他店舗への在庫確認ひとつとってもうちの店舗は冷たく対応されます」
また、取り扱っている商品は超のつく高級ブランドにも関わらず、その品質は河合さんが入社してからどんどん下がっており、クレーム対応も非常に多いという。
「本社も含めブランド自体あんま儲かってないから、新シーズン用なのに去年と同じモデルが追加で入ってきたりします。一足10万円もするレザースニーカーの靴紐を通すためのパンチングの穴が空いてなくて、スタッフ総出で安全ピン使って穴を空ける作業をしたこともありました」
現在、河合さんは2度目の転職活動も早々と終え、この秋からは大手カジュアル衣料チェーンの契約社員として働き始めることになっている。
「契約社員でもいいから大手で働きたくなりました。できればこれからもずっとアパレル業界で働きたいですけど、人間関係が平和で求人通りの待遇なら、もうなんの文句も言いません……」