2018年08月19日 09:52 弁護士ドットコム
パワハラに悩んでいるという方から、「裁判と示談、どちらの解決方法が有効なのか」という趣旨の相談が、弁護士ドットコムに複数寄せられている。
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ある相談者は、経営者から「恫喝、暴言、拳を振り上げ殴る真似、土下座強要」などのパワハラを受けている。訴訟を起こすため、「時系列にそったそこそこ細かいパワハラノート、恫喝の録音」を用意。その他、パワハラによる心身の被害の証拠として、診断書(鬱傾向、神経性胃炎診断書)もあるという。
証拠は十分に揃っているように思いますが、「これで勝てるのでしょうか」と心配そうな様子。裁判にするよりも、示談金の方が金額が多くなるとも考えているようだ。
このようなパワハラの慰謝料を請求する場合、どのような証拠があれば裁判で勝つことができるのか。また、裁判をせずに、示談による慰謝料請求の方が高額になるのだろうか。加藤寛崇弁護士に聞いた。
「今回の相談者が用意している『恫喝の録音』は、相当有力な証拠ではあるので、その恫喝をもって違法なパワハラに当たると認定されれば、その恫喝行為による慰謝料は認められるでしょう。
一方で、パワハラの状況を記載したノートは、客観的なデータとは言えず、一般的には証拠価値として録音には劣ります。手書きで日々記録していたかどうか、どれだけ具体的な事実が記載されているか、他の客観的な記録と整合しているか、などとあわせて判断し、パワハラの証明に役立つ可能性はあります」
診断書については、どうだろうか。
「鬱傾向及び神経性胃炎との診断書があるとのことですが、診断書は最終的な結論しか書いていないのが通常です。また、患者の話に基づいて作成される面が強いので、診断書だけでは証拠価値は強くありません。
むしろ、医師の診察を継続的に受けてパワハラの被害を述べていたなら、診療録(カルテ)を取り寄せて、診察の経過を裏づける方が証拠として意味があります」
相談者は、裁判よりも示談にした方が慰謝料を多くもらえると考えている。加藤弁護士はこの点について、どう考えるだろうか。
「パワハラも示談で解決することはあります。裁判になれば類似事案などを考慮した『相場』で決まりますが、示談については一概には言えません。
確かに、会社側が表沙汰にしたくないなどの理由で、示談において相対的に高めの額で解決することはあります。逆に、労働者が裁判までは負担が大きいと考え、相対的に安めの額で甘んじることもあります。
しばしば相談者の中には『裁判に持ち込まれれば会社にとって悪い評判になるので、高めの示談に応じてくるはずだ』という発想をお持ちの方もいます。
しかし、一般的には、裁判になっただけでは大して悪い評判になるとは限りません。小規模な会社ならニュースにならず、世間の関心も向かわないことが多いので、その見込みは外れることが多いという印象です」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
加藤 寛崇(かとう・ひろたか)弁護士
東大法学部卒。労働事件、家事事件など、多様な事件を扱う。不倫絡みの事件は、地裁・高裁で結論が逆になった事件など、ユニークな事例もある。
事務所名:三重合同法律事務所
事務所URL:http://miegodo.com/