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『この世界の片隅に』ではすずの妹役 正統派女優・久保田紗友の影と透明感の魅力

2018年08月19日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 現在放送中の日曜劇場『この世界の片隅に』(TBS系)で、主人公すず(松本穂香)の妹、浦野すみ役に抜擢された今注目の女優・久保田紗友。最近では「お~いお茶 新緑」のCMで、森の中で佇み“ひとり~じゃないのよ”とPERSONZの「DEAR FRIENDS」を唄う美女として話題となるなど、数々のCMやドラマに出演している彼女。女優としてさらなる飛躍が期待される。


参考:村上虹郎の台詞に強いテーマを反映 『この世界の片隅に』が描く狂った戦争の中にある“普通”


 久保田は、北海道札幌出身、2000年生まれの現在18歳。小さい頃から漠然と自分もテレビに出てみたいという理由から、小学4年生の時に地元の芸能スクールに通い、小学6年生11才の2011年に、現在二階堂ふみや土屋太鳳が所属するソニー・ミュージックアーティスツ(SMA)主催の女優発掘オーディション「第1回アクトレース」でファイナリストに選ばれ、同事務所の「劇団ハーベスト」に参加。


 当時から彼女への期待が大きく、2013年にソニーが異例の「女優の広告」というキャンペーンを展開する。それは商品やCDリリースの宣伝ではなく、久保田紗友という人を売り出す広告で、TVスポットでは、地元の北海道の雪の大地に佇み「久保田紗友」という一言がナレーションとして流れるもの。そこには13歳とは思えない武井咲のような凛々しい容姿の美少女の姿があり、各駅に貼られたポスターも将来が期待されるインパクトあるもので、これぞ正統派美少女を絵に描いたような存在であった。


 そして同年にドラマ『神様のイタズラ』(BS-TBS)の主演に抜擢。毎回久保田がいろんな人物と心が入れ替わるというストーリーで、ヤクザ、インコ、憧れの先輩、70歳のおばあちゃんといった極端な役を一生懸命に演じていたのが印象的だった。このスタートダッシュでこれらから主役をガンガンやっていくのかと思いきや、ソニーがじっくり育てていく方針にシフトチェンジしたのか、劇団の公演やドラマの脇役など、地道に演技を経験していき、それが功を奏して、変に色がつかず透明感を保ち、様々な役を演じられる女優となっていく。


 その清楚で美しい容姿からCMに起用されることが多い久保田。2015年のNTTドコモ「iPhone・iPad」のCM「感情のすべて/家族」篇は、駅で家族から見送られ、後ほど送られてきたメールや写真を列車の中で見て涙をこらえるという娘を演じた。今まで実年齢よりも大人っぽく見える役を演じてきた久保田だったが、当時15歳で実際に東京に上京してきた等身大の彼女と重なり、新しい生活への期待と不安、最後の涙の奥に見せる笑顔など実に繊細に演じている。


 一方「感情のすべて/男女」篇はiPhoneで距離を縮めていく男女を演じ、こちらは15歳とは思えない大人っぽい魅力で、どちらもその美少女ぶりが大絶賛されることに。2016年から続くアキュビューのCMでも、等身大の爽やかな女子高生を演じ、毎年青春を描くショートムービーとして、久保田が大人になっていく成長過程を親目線で見ているようで、見るものをキュンとさせた。


 そして世間的にブレイクしたのが、2017年に芳根京子が主演したNHK連続テレビ小説『べっぴんさん』。彼氏と同棲しながらジャズ喫茶で働く五月役を演じ、当時17歳とは思えないクールで大人びた様子で妊娠・出産まで演じるなど、彼女の存在感が話題となった。そして2017年に満を持して長編映画初主演となった『ハローグッバイ』。久保田が演じる役は、一見真面目そうに見えて実は万引きや盗み癖があり、何を考えているのか周りからは分からない孤独な優等生。思春期特有の闇を抱え、認知症のおばあさんに出会うことで孤独だった世界が変わっていく、その繊細の心の変化を見事に演じ、ある意味この作品は久保田の女優第1章の集大成的作品だったように思う。


 そして今年高校を卒業し、劇団を退団したことで、女優業一本で本格的に活動をしてくことになり、『この世界の片隅に』に出演することになる。姉よりもしっかり者の次女という役柄で、今まで暗い役が多かっただけに、明るく活発的な役柄は新境地と言っていいだろう。ただ久保田曰く、「私自身と似ている部分がけっこうあって、役には入りやすい」と語っていて、皆がイメージしているクールで無口なキャラではなく、本来はよくしゃべり笑う性格だそうだ。


 このドラマは戦争が背景にあり、主人公のすずがおっとりしている分、ちょっとしたことで暗いイメージなりがちだからこそ、妹の明るく前向きでしっかり者の存在は、主人公とドラマをサポートする重要なポジション。今まで培ってきた演技力でそれを見事に演じていた。物語はいよいよ呉に空襲がやって来て、戦争の影が日に日に濃くなっていく。すずが嫁ぎ先が舞台の中心になっているので、今後の久保田の出番は少ないと思われるが、まだまだ注目していきたいキャラである。


 美しく、演技力があり、そして影と透明感のある、女優として必要なスペックを全て兼ね備えている久保田は、久しぶりに現れた正統派の女優だ。今までは実年齢よりも大人っぽい役が多かったと思われるが、18歳になった今はようやく年齢が追いつき等身大の役が似合うようになってきた。本人も以前から「振り幅のある女優になりたい」と掲げており、次の作品で久保田がどんな役を選んでいくのか。まだ18歳なので、今後演技の幅がどこまで広がって行くのか、彼女の女優としての可能性は無限大である。(本 手)