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評論家・西部邁さん、自殺は犯罪じゃないのに「手助けしたら有罪」どうして?

2018年08月18日 11:02  弁護士ドットコム

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評論家・西部邁さん(当時78)の自殺を手助けしたとして、自殺幇助の罪に問われていた知人の男性会社員に(56)に対し、東京地裁は7月30日、懲役2年、執行猶予3年の有罪判決を言い渡した。


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報道によると、男性は今年1月21日、同罪で公判中の別の男性会社員(41)と共謀し、西部さんを車で運ぶなどして、多摩川で入水自殺するのを手助けしたと認定された。41歳の男性についても8月17日、検察が懲役2年を求刑して結審。9月14日に判決が言い渡される。


たとえば、殺人幇助罪なら、殺人を犯した人も裁かれる。一方、自殺の場合、亡くなった本人は罪に問われず、処分をされるのは手助けをした人だけだ。


誰に迷惑をかけたわけではないのに、どうして自殺幇助は犯罪なのだろうか。どういう目的で置かれた刑罰なのか、松岡義久弁護士に聞いた。


●自殺幇助は「他人の生命の否定」という発想

ーー自殺幇助はどうして犯罪なんでしょうか?


自殺幇助とは、既に「自殺の決意を有する者」に対して、自殺行為を援助して自殺を遂行させることです。たとえば、自殺の方法を指示する、器具を提供するなどがあります。西部邁さんの事件はまさにこれにあたります。


自殺行為自体は、犯罪ではありません。一方で、自殺幇助については、6カ月以上7年以下の懲役または禁錮に処せられます(刑法第202条前段)。


これは、一般的には、生きる希望を失った者が自ら生命を絶つ行為については刑法上、不問に付してもよいが、自殺に関与する行為は他人の生命を否定する行為の一種であり、違法で罰せられるべきであるとの考えに基づくものと言われています。


ーー自分はともかく、他人の生命の否定はダメということなんですね。自殺幇助罪が規定された刑法202条には、自殺教唆罪や同意殺人罪(嘱託殺人罪・承諾殺人罪)もあります。どんな違いがあるんでしょうか?


自殺教唆罪は、「自殺の決意を有しない者」に対して自殺を決意させ、自殺を遂行させる罪です。


嘱託殺人罪は、殺された人(被殺者)の嘱託(依頼)を受け、その者を殺害する犯罪、承諾殺人罪は被殺者の承諾を得て、その者を殺害する犯罪です。どちらが持ちかけたかで変わります。


法律上はいずれも刑は6カ月以上7年以下の懲役又は禁錮ですが、自殺幇助、教唆と違い自ら殺害行為をしているということなどから同意殺人罪の方が刑は重い傾向にあると思われます。


なお、合意によって心中をした場合には、その態様に応じて上記犯罪のいずれかが成立することになります。一方、いわゆる無理心中は、同意などがない以上、通常の殺人罪としてより重い刑罰が科されます。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
松岡 義久(まつおか・よしひさ)弁護士
横須賀市内(京急横須賀中央駅徒歩5分、裁判所徒歩2分)で事務所を共同経営するパートナー弁護士。京都大学法学部卒、警察庁(国家Ⅰ種)を退職後、2回目で司法試験合格。相続、交通事故、債務、離婚、中小企業、行政のトラブル、顧問など幅広い分野を専門に扱う。
事務所名:宮島綜合法律事務所
事務所URL:http://www.miyajimasougou.com/