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「さんぽ」「となりのトトロ」……30年の時を超えて愛され続けるジブリ名作“歌の力”

2018年08月17日 10:31  リアルサウンド

リアルサウンド

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 1988年に『となりのトトロ』が公開されて今年で30周年を迎えた。小学生のさつきと妹のめいが母の病気療養のために田舎の古びた一軒家に引っ越してきたところから始まるこの物語は、黒い綿毛のような、まっくろくろすけの登場から、トトロやねこバスなどの不思議な生き物たちとの出会いと、姉妹の心の成長を促す体験へと発展していく名作ファンタジーだ。


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 活き活きと描かれたキャラクターや、物語が持つテーマの強度が、今尚も沢山の人々の心を掴んで離さないのは、最早語るのも野暮というレベルではあるが、オープニング曲「さんぽ」、エンディング曲「となりのトトロ」のキャッチーなメロディとシンプルな言葉で、子どもたちを夢中にさせていることも、長年にわたり人気を獲得し続けている理由ではないかと思う。


・実は最初はイメージソングだった「となりのトトロ」
 エンディングでかかり、主題歌でもある「となりのトトロ」は、実は公開の半年も前に一度イメージソングとして発売され、公開直前に主題歌に改められたという経緯がある。イメージソング時のc/wは『天空の城ラピュタ』の主題歌「君をのせて」で、主題歌として再発売された時のc/wは「さんぽ」。どういう理由でイメージソングから主題歌に決定したかは不明だが、いずれにせよ、当時としても今となっても、この楽曲が主題歌に落ち着いたことが、映画と曲のイメージをひとつにして観客に訴求できた大きな要因ではないだろうか。曲を聴けば、トトロが脳裏に思い浮かぶし、トトロを見れば曲を歌いたくなる。数多くあるキャラクターソングの中でも、群を抜いた一体感を持っている。


・「さんぽ」の持つ高揚感


 「さんぽ」は幼稚園、保育園で合唱する定番曲だ。不思議と「となりのトトロ」よりこちらの方がよく歌われている印象だが、恐らく散歩の時間にお友だちと手をつないで楽しくお出かけできるからではないかと思う。車や自転車に気をつけながら、横断歩道をきちんと渡るために全員で団結を必要とする、未就学児の行進曲でもあるのだ。イントロのバグパイプの音が高揚感と外界の冒険へ出発する誇らしさを刺激する。目線は斜め45度上。坂道、トンネル、草っ原、一本橋もでこぼこ砂利道だって、この歌があれば歩いていけるという気持ちが胸いっぱいに広がってくる。


・井上あずみの歌声なしでは成し得ない、圧倒的表現力


 井上あずみによる瑞々しくも透き通った歌声が、この2曲に生命を与えている決定的な要素だと言えるだろう。単語ごとのイメージを鮮明に浮かび上がらせるだけでなく、歌詞全体のストーリーを、絵本を読むように歌いかけてくるので、子どもたちも自然と耳を傾ける。ほとんどの人がこれらの曲を思い出す時に、歌声まで明瞭に思い出せるという意味では、母親の子守唄や寝つかせ時の絵本朗読のような、幼少期の原体験で触れる温かさと優しさだ。


・主題歌として、童謡としての立ち位置


 作曲はどちらも久石譲だが、楽曲が徹底してシンプルな音階の上がり下がりで制作されており、歌詞も一音につき一言と振られているので、音を捕らえやすく、歌いやすい。宮崎駿監督が作詞を手がけた「となりのトトロ」は映画主題歌としての完璧なまでの存在感を誇っているが、『ぐりとぐら』などで知られる児童文学作家の中川李枝子作詞の「さんぽ」は、すでに作品から切り離されて童謡という捉え方をしている人も多いと感じる。作品の世界観と子どもたちの目線。通常であればひとつにまとめて訴求するところを、あえて分断してそれぞれを特化したからこそ、30年経っても尚、日本中の心を引きつけて離さないのではないだろうか。


 余談ではあるが、「三鷹の森ジブリ美術館」では『となりのトトロ』の続編「めいとこねこバス」(原作・脚本・監督は宮崎駿)が上映されており、その作品ではトトロやねこバスがどういった存在なのかがわかるような描写もあるので、一度観てあれこれ考えを巡らせるのもいいかもしれない。色褪せないだけでなく、まだまだ語ることが多い作品だ。(石川雅文)