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『オーケストラ・クラス』ラシド・ハミ監督が語る、デプレシャンやケシシュから学んだ演出術

2018年08月17日 10:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 『コーラス』『幸せはシャンソニア劇場から』のプロデューサーが贈る映画『オーケストラ・クラス』が8月18日より公開される。フランスで2,000人以上が体験した実在の音楽教育プロジェクトにインスピレーションを得て製作された本作は、音楽家として行き詰まり、挫折したバイオリニストのシモンが、音楽教育プログラムの講師としてバイオリンを教えることになった生徒たちと、フィルハーモニー・ド・パリでの演奏会を目指し奮闘していく模様を描いた物語だ。


参考:子供たちと負け犬音楽家を引き寄せる“音楽”の力 『オーケストラ・クラス』は生々しいドラマを描く


 今回リアルサウンド映画部では、メガホンを取ったラシド・ハミ監督にインタビューを行い、本作について話を聞いた。役者として作品に出演した、アブデラティフ・ケシシュやアルノー・デプレシャンといったフランスの名監督たちから学んだこととはーー。


ーー今回、フジロックフェステイバルに参加するためプライベートで来日したそうですね。


ラシド・ハミ(以下、ハミ):そうなんだ。3日間参加したんだけど、大変だったね。なんせ台風を体験するのは初めてだったから(笑)。でもすごくいい音楽に出会えたし、いい時間を過ごせたよ。


ーーそんな監督の音楽好きなところが今回の作品にも反映されているように感じました。


ハミ:音楽というのは人生そのものだと思うんだ。人は音楽なしでは生きていけないんじゃないかな。普段はあまり喋らない人でも、どういう音楽をやっているか、あるいはどういう音楽を聞いているのかで、その人のことが少し分かる気がする。音楽はその人の魂を映し出すようなところがあると思っているよ。


ーー今回の作品は“デモス”というフランスで実際に行われている音楽教育プロジェクトが基になっているそうですが、これはフランスでは誰もが知っているようなプロジェクトなのでしょうか?


ハミ:デモスはフランスにおいてとても重要な意味合いを持っているプロジェクトなんだけど、国内でもあまり知られていないんだ。だから、この作品はデモスのプロモーション的な役割を担っているところもあるんだ。人種や家庭環境が異なる子供たちが、音楽を通して近づいていくことを目的としたこのプロジェクトは、今のフランス社会においてすごく大切なことだと思ったからね。


ーー監督自身はこのプロジェクトのことは前から知っていたんですか?


ハミ:僕ももともと知ってはいたんだけど、この作品を撮るきっかけになったのは、一緒に脚本を執筆したギィ・ローランだった。彼が「映画の題材としてすごくいいものがある」と僕に連絡をしてきて、そこからより深く知っていったという流れだったね。現実に基づいた話にしたかったから、脚本を書き上げるのに2年もかかったんだ。


ーークラスのメンバーには音楽経験がほぼない子供たちをオーディションで選んだそうですね。


ハミ:今回はゼロから何かが生まれていく様子をカメラに収めたかったんだ。子供たちの中に音楽が生まれていく瞬間をね。それによって、観客の納得の度合いも変わってくると思ったんだ。ただ、やっぱりあの年頃の子供たちはやんちゃで、なかなか大変なことも多かったから、またすぐに子供が中心の映画を撮ろうという気にはならないね(笑)。


ーー移民問題や家庭内の問題に触れつつも、物語の展開としては、挫折したバイオリニストと異なる境遇の子供たちが大きな目標に向かってひとつになっていくという、非常にシンプルな作りになっていることが印象的でした。


ハミ:こういう話は大抵、演出過剰になったりドラマチックになったりしがちなんだけど、僕はとても“ピュア”なものにしたかったんだ。演出によってごちゃごちゃさせるのではなく、無駄なものを排除して自然な形で物語を紡ぐことを意識したよ。とはいえ、演出をしていないわけではないんだ。演出はしているんだけれど、演出していないように見せるというデリケートな作業に力を入れている。僕がすごく偉大な監督だと思っているアルノー・デプレシャンも言っていたことなんだけど、本当に素晴らしい演出というのは目に見えないんだよね。


ーーアルノー・デプレシャン監督の『キングス&クイーン』やアブデラティフ・ケシシュ監督の『身をかわして』には役者として出演されていましたが、映画監督として彼らから受けた影響も大きいんですか?


ハミ:映画制作において師を持つことは重要だし、自分には師匠がいるということを認知して、彼らに敬意を表することはとても大事だと思うんだ。今回の『オーケストラ・クラス』でいえば、ケシシュの最初の作品である『身をかわして』とオーバラップするところがある。“ゲットー”と“演劇”というのが『身をかわして』の要素だとすると、今回の作品ではその要素が“貧しい地区”と“音楽”と言えるんだ。映画監督としてはデプレシャンから学んだことが多くて、彼は僕にとってのメンター的な存在でもあるんだ。映画は伝達するものだと思うんだけれど、それは決して同じように模倣することではない。デプレシャンは映画でいろんな問いかけをする監督で、その答えは僕らがそれぞれ見つけていかなければいけない。彼が投げかけた質問に対して、どう答えるか。そうやって自分の道を見つけ出していくんだ。


ーー役者としてキャリアをスタートさせたあなたですが、監督業にはもともと興味があったんですか?


ハミ:僕はもともと役者ではなく監督になりたかったんだ。16歳の頃、あるきっかけで知り合ったケシシュに「将来監督になりたいからスタッフとして作品に参加させてくれ」と言ったら、「監督として役者に演技指導するためには、役者の気持ちがわかっていないとダメだから、まずは役者になれ」と言われて、『身をかわして』に出ることになったんだ。その後も役者としていくつかの作品に出演しているけれど、それはお金を稼げるから(笑)。役者として稼いだお金で自分のやりたい作品を作るという流れで、僕自身本当にやりたいのは監督なんだよね。


ーーそうだったんですね。ケシシュ監督の提案が功を奏したとも言えますね。


ハミ:確かにそうだね。役者は監督から「もうちょっと笑って」とか「もうちょっと悲しい顔をして」と言われても、そう簡単にできるものではない。自分が役者になってみてよく分かったよ。その気持ちや感情を役者が自然に出せるようなプロセスを作り出すのが、監督の仕事の醍醐味だと思うね。(取材・文・写真=宮川翔)