8月16日に放送された『モーニングCROSS』(MX系)では、大正大学心理社会学部人間科学科准教授の田中俊之氏が出演した。東京医科大の入試問題を筆頭に、男女格差や差別の話題には事欠かないが、田中氏はこれらについて
「官僚の方がセクハラしたり、裏口入学させたり、おじさんが良くないことをしてるなっているのはわかるんです。ただ、危険だなって思っていて」
と、"おじさんを攻撃すれば社会が良くなる"という風潮が蔓延しつつある現状への危機感を口にした。(文:石川祐介)
「本来、女らしさや男らしさを人に強要するのを止めましょうという話だったはず」
田中氏は「本来、男女を巡る問題って『女らしさや男らしさを人に強要するのを止めましょう』っていう話」と指摘。
「医学部の件でも『女性のほうが優秀なんだ』って話出てくるじゃないですか。これって危険で、女性ってものを一塊にして『女性は平和的だ』とか『女性は賢い』ってしてしまうと、そうじゃない女性が『あの人、女なのに勉強できない』とか『女なのに暴力的だよね』とか、既存の女らしさを再生産しちゃう効果があるんですよ」
と、現在の言説に潜む危険性に触れた。
「例えば、企業が『管理職に女性を採用しよう』って言った時に、『女性は細やかな気遣いができるから』とか『女性が入れば平和的になるから』とか、女らしさを再評価されちゃう危険性がある」
男性主導の社会を批判し、「男性が悪い」「女性に社会を任せろ」と叫ぶことは、男性と女性を二項対立的に見ることを前提としていて、本来の目的である「らしさの強要を止める」ことには繋がらないと話した。
「男と女は違う」と言われることも多いが、こうした見方についても「全く違うものじゃないはずなんですよ」と主張。
「勉強も、女性は相対的にできるかもしれないけど、男子でもできる人はいるから、被っている部分もあるんです。にもかかわらず全く違うものであるかのように論じてしまうのは大変危険」
と指摘した。
安易な対立構図で物語化すると事実がこぼれ落ちる
田中氏は「確かに男女不平等であるっていう現実はあるでしょう」と男女差別の存在を認めつつも、「自分達にとって目障りな事象を"おじさん"というカテゴリーに押し込めて、現実を批判しているかのような気になってはいけない」と、ストレスのはけ口としてのおじさん叩きに疑問を呈した。
「おじさんが下駄履いてる。それを脱がせば日本が良くなるってわかりやすいんですけど、物語化すると事実ってこぼれ落ちちゃうんですよね」
今の日本は"おじさんという敵を倒せば全てが解決する"という一種の物語が出来上がってしまっていると指摘。「この日本の社会がどうして男性中心主義的なのかって単純な話じゃない」と、安易な対立構図にせずに事実を見つめていく重要さを説いた。
「これが『日大にもありました』『社会の縮図ですね』みたいな、なんでもこれで説明できるって話が出た時、僕らは警戒しなきゃいけないんじゃないかなって思います」