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『ハゲタカ』綾野剛は“日本の企業”を救うダークヒーロー? 平成最後の夏に蘇った理由

2018年08月16日 12:52  リアルサウンド

リアルサウンド

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■綾野剛演じる“ハゲタカ”の本当の目的は?


 木曜ドラマ『ハゲタカ』(テレビ朝日系)の第1章が終了し、先週8月9日の放送回より第2章がスタートした。


 第1章の舞台は、1997年~2001年。まず第1章で強烈な印象を残したのは、やはり綾野剛演じる鷲津政彦の、切れ者としての存在感だ。外資系投資ファンド、ホライズンジャパン・パートナーズの代表を務める鷲津は、若くして企業買収や再建処理で実績をあげる一方、手段を選ばないやり方から、“ハゲタカ”と呼ばれ忌み嫌われている。


 鷲津は確かに常に眉間にしわを寄せており、相手を鋭く睨みつけ、時には怒号を飛ばす。立ち行かなくなっている経営を直視せずに解決策を探そうとしない。企業を支えてきた従業員に敬意を払わず不誠実に接する。そういった、自分の保身だけを考え、会社の未来を顧みない経営者に、鷲津は容赦ない。御託を並べる相手に証拠をつきつけ、見事な切り返しで徹底的に食い尽くしてしまうのだ。


 しかし、その一方で鷲津の仕事のやり方は非常に丁寧だ。話術も巧みで、その言葉には曖昧なところがなく理路整然としている。また情報収集もかなり熱心で、他企業が邪な方法で情報を手に入れている傍ら、鷲津は自分の足を動かし、実際に現場に赴くことを信条としている。鷲津は、仕事にベストを尽くす男なのだ。仲間からも絶対的な信頼が置かれ、“ボス”と呼ばれ慕われている。


 鷲津が買収をかけるのは、大手銀行や日本のリーディングカンパニーばかり。しかも、観光地の老舗料亭やホテル、国内有数の寝具メーカー、大手電機メーカーなど、日本ならではの精密な技術やホスピタリティを商売道具としている企業である。鷲津は本当に“外資のハゲタカ”として、利益のためだけに動いているのだろうか。本当の目的とはいったい何なのか。その疑問は、回を重ねるごとに強くなっていく。


■渡部篤郎と沢尻エリカは敵か味方か


 鷲津と相対する関係にあるのが、渡部篤郎演じる芝野である。第1章では大手三葉銀行金融戦略部に勤め、膨大な不良債権が故に実施されたバルクセールで、その責任者を務めた。陰謀家である常務取締役の飯島(小林薫)から圧力をかけられるも、冷静な判断力と洞察力、企業の再生を最優先する誠実さも持ち合わせている。しかし、忙しさのあまりに家庭を顧みずにいたため、第1章で家族崩壊の危機に陥る。妻はアルコール中毒に、ひとり娘は、そんな両親にあきれ返り、まともに口も利こうとしない。


 また、沢尻エリカ演じるのは、老舗ホテル・日光みやびホテルを実家に持つ松平貴子。偶然鷲津と出会い短い会話を交わしたのち、当時働いていたホテルのロビーで再会を遂げる。鷲津相手に騒ぎ立てる客を、他の客に迷惑になるという理由で制する貴子。そのはっきりとした物言いと、相手をまっすぐに見る瞳の力からは、彼女もまた仕事にベストを尽くす女性であることが伝わってきた。その様子を見ていた鷲津も心動かされ、「多くの日本人が忘れてしまった確かな覚悟がある」と、貴子に一目置くことになるのだ。


■仲間の裏切りと新たな敵の登場


 第2章に入るとさらに大きな展開が待ち受けていた。第1章では、鷲津の手により、三葉銀行の隠し口座の存在が明らかになり、それを仕切っていた飯島は失脚する。第2章はそれから時が進むこと9年、2010年代に突入する。


 芝野は三葉銀行を辞め、これまでの経験を生かして企業の再生担当の第一人者として名を馳せていた。様々な企業を再生させる一方で、その容赦ないリストラ措置に“首切り屋”とも揶揄されている。再生担当としての芝野のやり方は、どこか鷲津を彷彿させるところがある。第2章では、総合電機メーカー・あけぼのの再生担当執行役員に就任。あけぼのの買収を計画していた鷲津が芝野を警戒して保留にするなど、芝野も相当な強者としてのし上がってきたのだ。また、三葉銀行を辞めるとともに家族の仲も修復される。娘は社会人として企業で働くようになり、父の仕事にも理解を示し始める。また、芝野の支えもあって、妻もアルコール中毒から抜け出しつつある。


 一方、鷲津は変わらず、ホライズンジャパン・パートナーズの代表を務めていたのだが、第2章では、右腕であったはずのアラン・フジタ(池内博之)の裏切りによって、解雇されてしまう。2人の間では意見の食い違いが起こるも、鷲津は自分の判断を信じて押し通し、アメリカ本社の言いなりにならない。アランはそれに苛立ちと嫉妬心を覚え、第2章より新たに鷲津と敵対するPCメーカー・ファインTD社長・滝本誠一郎(高嶋政伸)と手を組んで、鷲津をビジネスの場からリタイアさせようとする。しかし、転んでもただでは起きない鷲津である。新たなファンドを立ち上げ、ホライズンジャパン・パートナーズの部下ら数人も合流することになった。


 本日放送の第5話では、一度は窮地に陥れられた鷲津がサムライファンドを立ち上げ、反撃をしかける。しかし、当然のごとくアランや滝本は、その行く手を阻もうとする。


 鷲津を陥れホライズンジャパン・パートナーズ現社長となったアランは、これまでに鷲津が手がけてきた企業の株式を次々と売却。また、同じくあけぼのの買収を企てている滝本も、後ろ盾となっているアメリカ大手の軍産ファンド、プラザ・グループと手を組んで動き始める。第2章では、鷲津と滝本の攻防が炸裂していきそうだ。


 『ハゲタカ』は、主演を大森南朋が務め2007年にNHKでドラマ化されている。設定などに違いを取り入れながら今再び新しく作られたのは、“平成最後の夏”という時勢もあってのことだろう。8月30日から始まる第3章では、原作者の真山仁の原案プロットをもとに、2018年を舞台にしたオリジナルストーリーが展開される。『ハゲタカ』は、世界に誇る日本の技術やその未来、そしてそれを守り継承する企業の役割を、あらためて考えるきっかけを与えるドラマである。(文=若田悠希)