2018年08月15日 10:12 弁護士ドットコム
「ボランティアはTOKYO 2020を動かす力だ」――。こんなキャッチコピーのもと、2020年東京五輪・パラリンピックのボランティア募集が9月中旬から始まる。会場案内や移動サポートなど8万人を見込んでいる。
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過去の五輪でも、ボランティアは活用されており、大会HPには「ボランティアはすごく楽しい」など体験者の声も掲載されている。多くの市民が直接大会にかかわることは、盛り上がりにも影響するだろう。
一方で、一部交通費は出るものの、通訳や医療などの専門的スキルを「無償」で活用しようとする点を批判する声もある。
募集内容によると、ボランティアは「休憩・待機時間を含み、1日8時間程度」だという。面談(オリエンテーション)を通して、具体的な役割・活動場所が決まり、研修を受けなければならない。
労働基準法の規定は「強行法規」といって、両者間の合意があっても違反する部分は無効になる。東京五輪のボランティアは、労働者にはならないのだろうか。あるいは、労働者にならないために、運用上どんな注意が必要になるのだろうか。岩井羊一弁護士に聞いた。
ーーボランティアと労働者の違いはどこで判断されるんですか?
一般に労働者に該当するのは、(1)使用者の指揮監督下において労務の提供をする者であること、(2)労務に対する対償を支払われる者である、という2つの要件を充足する者とされています。この2つを「使用従属性」の要件といいます。
この要件を満たす場合には、労働基準法上の労働者ということになり、最低賃金法がありますので、使用者は賃金を支払わなければなりません。
ボランティアとは、「自発的な意志に基づき他人や社会に貢献する行為」といわれています。自発的な意思で行われる行為であり、「使用者」から指揮、監督を受けない行為である必要があります。
ーー「有償ボランティア」というのもありますが、基本的には手当も払えないわけですね。具体的にはどういう部分で区別するのでしょうか?
労働者に該当するか否かは、活動日、活動時間、活動内容を指示されても断ることができるかどうかなどを総合して「使用従属性」があるかないかで判断することになります。
「ボランティア」という名称であっても、労働者に該当するのに無償であれば違法ということになります。また、有償だったときも、最低賃金法を上回るお金が支払われていなければ、やはり違法です。労働者に該当する場合には労働保険への加入も必要となります。
ーー大勢が訪れる五輪ボランティアは、指揮・監督を受けるのでは?
HPによるとボランティアが行う活動は「サポート」だと記載されています。たとえば、次のような記述があります。
「競技が行われる会場や選手の生活ベースとなる選手村、その他大会関連施設等で、観客サービスや競技運営のサポート、メディアのサポート等、大会運営に直接携わる活動をします」(東京2020ボランティアホームページ)。
「サポート」であれば、自発的な意志に基づいて行うことを尊重し、活動を断る自由も尊重することもできそうです。
場所や時間の拘束や活動内容の指示について、ボランティアの自主性を尊重することができるよう配慮されていれば、労働者にならないと考えられます。
ーーボランティアがあれこれ指図を受けるような形ではダメということですね。運用実態が大事になりそうです。しかし、それで大会が運営できるのでしょうか?
多くの人が集まるオリンピックを運営するためには、指示に従って動いてもらう必要があります。そうでなければ、選手や観客に不都合が生じてしまうかも知れません。
オリンピック運営に不可欠な活動については、ボランティアではなく、労働者として使用者の指揮監督に従ってもらえる人に担ってもらう必要があります。
ーー東京五輪に人材派遣会社などが関与している背景には、こういう事情もあるわけですね。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
岩井 羊一(いわい・よういち)弁護士
過労死弁護団全国連絡会議幹事、日弁連刑事弁護センター副委員長 愛知県弁護士会刑事弁護委員会 副委員長
事務所名:岩井羊一法律事務所
事務所URL:http://www.iwai-law.jp/