2018年08月15日 10:12 弁護士ドットコム
大阪北部地震で大阪府高槻市の小学校でブロック塀が倒れ、女児が亡くなった事故を受け、各自治体の調査によって、危険なブロック塀が次々とみつかっている。神奈川新聞の報道(7月30日)によれば、横浜市の通学路上には建築基準法違反の疑いがある塀が少なくとも1146カ所あることがわかり、所有者に改善を促しているという。
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ところが、一筋縄ではいかない地域もあるようだ。ある地域には、事故が起きる何年も前から行政に指導を受けていたのに修繕をせず、今回の事故を受けても「何度言われても絶対に修繕はしない!」と断固拒否する住人がいる。町内会は「強制的にブロック塀を修繕できないだろうか」と頑固すぎる住人への対応に悩んでいる。
住人は数年前、建築基準法違反であることを知りながら、倒壊の危険があるブロック塀を建設した。行政からの指導はあったが、いつまでも塀が修繕されないため、町内会が何度も住人に修繕を依頼していた。女児が亡くなった事故の後、近隣小学校も修繕を依頼したが、住人は断固拒否。現在は通学路が変更になり、土木事務所によって塀の前はパネルで覆われている。
事故があってからでは遅い。多くの人に迷惑をかけている住人のブロック塀を強制的に修繕したり、撤去したりすることはできないのか。湯川二朗弁護士に聞いた。
行政指導に従わない住人に対して、罰則はあるのだろうか。
「行政指導は任意の協力を求めるものですので、指導に従わなかったとしても罰則はありません。
しかし、建築基準法違反があるときは、当該建築物の所有者等に対して、当該建築物の除却や修繕等の措置をとるよう命ずることができます。建築基準法違反が特定できない場合でも、著しく保安上危険があると認める場合は、同じような措置命令を出す事ができます。そのために必要な限度で、行政は検査、試験、質問をすることができるとされています」
もし、住人が措置命令にも従わなかった場合は?
「そのときは、行政が代わって強制的に措置命令を執行し、除却や修繕等ができます。
それとは別に、当該建築物の所有者等が措置命令に違反したときは、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金が科されますし、検査等を拒否したときも、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます」
行政が代わりに措置命令を執行してくれるのはありがたい制度だが、実際におこなわれることはあるのか。
「実は、これまで、建築基準法違反の建物に対して措置命令や代執行がなされた例が少ないのが現状です」
では、行政が対応してくれない場合、地域でできることはないのか。
「この場合、地域の人たちは行政に対して、当該建築物の所有者等に対して、当該建築物の除却や修繕等の措置命令をとるように申し立てることができます(行政手続法36条の3)。
裁判所に対して義務付けの訴え(行政訴訟)を提起することもできます。しかし、行政訴訟の場合は、原告適格があるかとか、措置命令がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないといえるのかという訴訟上の問題があります。しかし、処分等の申立てをする場合はそのような要件は必要とされていませんので、まずは行政に対する処分等の申立てをしてみることをお薦めします。
処分等の申立てがあると、行政としても、むげに拒否したり無視したりできず、必要な調査を行い、その結果に基づき必要があると認めるときは、当該処分又は行政指導をしなければならないとされています」
行政に対する申立てや行政訴訟以外の方法で、地域の人たちができることはあるだろうか。
「通行通学に危険があるときは、行政を頼らずに、直接、当該建築物の所有者に対して危険防止のための措置をとるように民事訴訟を提起することもできます。大阪北部地震の経験もありますので、以前と比べて裁判所も慎重に審理してくれるのではないでしょうか」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
湯川 二朗(ゆかわ・じろう)弁護士
京都出身。東京で弁護士を開業した後、福井に移り、さらに京都に戻って地元で弁護士をやっています。土地区画整理法、廃棄物処理法関係等行政訴訟を多く扱っています。全国各地からご相談ご依頼を受けて、県外に行くことが多いです。
事務所名:湯川法律事務所
事務所URL:https://www.bengo4.com/kyoto/a_26100/g_26104/l_123648/