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東京医大・女性差別「驚きはないです」、女性医師が語る「働き方改革」の厳しい現実

2018年08月14日 10:12  弁護士ドットコム

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東京医大が女子と多浪の受験生の得点を不正操作し、合格者の数を抑えていた問題。背景には「女性は年齢を重ねると、医師としてのアクティビティ(活動性)が下がる」との認識があったとされる。つまり、出産・育児により女性医師は医療現場の労働についていけなくなるという発想で、「女性差別だ」と波紋を呼んでいる。


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現場で働く女性医師は東京医大の問題をどう捉えているか。「独身アラサー世代」で、現在は東京都内のある大学病院で働く女性医師(麻酔科)に話を聞いた。


●「やっぱりねという印象」

ーー東京医大で明らかになった入試得点の操作について、どう感じましたか


「やっぱりねという印象であまり驚きはありませんでした。受験生時代にも予備校講師から、女子は入りにくいという話を聞いたことがあります。また、女子への得点操作の他に、(文科省前局長の息子を含め)2年間に19人への個人的な得点操作があったと聞き、そちらのほうが個人的なインパクトは大きかったです。


ですが、大学入試が就職活動に近かった時代と異なり、初期臨床研修制度ができて久しいこのご時世、女子への得点操作とは感覚が古いと感じます。私立ということで、ブラックボックス的なところはあるのかもしれません」(※初期臨床研修制度=診療に従事しようとする医師は2年以上の臨床研修を受けなければならない。結果的に、医師は母校の大学病院ではなく臨床研修先の医療機関を勤務先として選ぶこともしやすくなった)


ーー得点操作の理由のひとつに「女性は年齢を重ねるとアクティビティが下がる」との認識があったようです。この点についてはどう思いますか


「確かに、女性は出産・育児でキャリアの中でどこかでブランクができてしまう可能性があります。私も、例えば今の仕事を1年間休んだとして、命に関わる仕事である以上、復帰した時にどこかで怖さを感じることは容易に想像できます。復帰後、一時的にアクティビティが下がることは否定できません。しかし、一度復帰した後を考えれば、男性も加齢により体力は衰えますし、アクティビティが下がるのは女性に限ったことではありません」


●上司の「理解」にもかかっている

ーー女性医師が働きやすくするため、どのような環境が整っているといいでしょうか


「小さい子どもがいるなら、子供を預ける環境が整っていることは大事です。現在の状況では身内の助けを借りることができるかどうかで仕事のアクティビティは大きく異なると思います。私がいま所属しているところは、子どもの有無に関わらず仕事がやりたければやらせてくれるところなので、恵まれていると思っています。


特に入院患者をもつ勤務医で、周りの理解がないと『早く帰ります』とは言い出しにくく、『帰りたいのに帰れない』という話はよく聞きます。仕事を割り振る立場にある上司が、どのように理解してくれるかにも寄ると思います」


ーーいまの勤務先での平均的な1日の過ごし方を教えてください


「通常は、朝8時頃に集合しカンファレンスを行い、その日に担当する手術でどのような麻酔をするか確認し合います。その後準備をして麻酔を始め、9時頃には外科の先生が手術を始められるよう整えます。手術が終われば患者に起きてもらって、手術や麻酔による影響をできるだけ小さくしたうえで手術室から病棟へ送り出します。


小さい手術なら1日に2件から3件、大がかりな手術なら1日1件程度担当します。17時頃から当直帯へ切り替わるので、仮にその時に手術が終わっていなくても当直の先生と交代して、何もなければ帰宅します。自主的な居残りや、緊急手術の際には、帰りが20時を過ぎることもあります」


●現場の運用で医師の負担まだ減らせる

ーー当直勤務はどれくらいの頻度で入るのですか


「基本的には月に4ー5回入ります。始まりは同じで朝8時頃からですが、比較的負担が軽い仕事が割り振られます。『17時からの当直で頑張ってね』ということです。当直の時間帯に何もなければ、朝まで寝ます。当直明けの日は昼頃には帰って、次の勤務に備えます」


ーー友人の医師から厳しい勤務実態を聞くことはありますか


「はい。当直明けで帰れなくて、朝9時から働いて帰れたのは翌日の夜であるとかはよくあるようです。手術時間が24時間に及んだとか、月の当直が14回もあったなんて話も聞いたことがあります」


ーー出産・育児があっても女性医師が働きやすいよう、時短勤務を積極的に導入すべきという指摘もあります。どう思いますか


「気持ちとしてはわかるのですが、時短にすると総量としての労働力が減って、男性医師、未婚や子どもがいない女性医師にしわ寄せがいってしまいます。


まずは、本来は医師がやらなくてもいい仕事をしている現状を変えるべきです。転院先の病院への手紙をイチから書いたり、転院先を探すのに医師が電話したりする必要があるのかは疑問です。他の職種の方が書いたものの最終チェックをするなどの対応にするだけで、負担は軽くなります。医師法を変えなくても、現場の運用でできることはまだあると感じています。


そうした見直しをしないうちに、時短勤務だけ導入しても、本当の意味で医師の業務負担の軽減にはつながらないのではないかと思います」


(取材:弁護士ドットコムニュース記者 下山祐治)早稲田大卒。国家公務員1種試験合格(法律職)。2007年、農林水産省入省。2010年に朝日新聞社に移り、記者として経済部や富山総局、高松総局で勤務。2017年12月、弁護士ドットコム株式会社に入社。twitter : @Yuji_Shimoyama


(弁護士ドットコムニュース)