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こぶしファクトリーとつばきファクトリーが築いてきた“ライバル関係” 対照的な最新作を機に考察

2018年08月12日 10:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 20周年を記念して、多くのOGメンバーが日替わりでゲスト参加したり、「U. S. A. 」が大流行しているDA PUMPがサプライズ出演するなど、今年の夏ハロコン『Hello! Project 20th Anniversary!! Hello! Project 2018 SUMMER ~ALL FOR ONE~/~ONE FOR ALL~』は例年以上に大きな盛り上がりを見せている。そんなハロー!プロジェクト20年目の熱い夏に現最新シングルをリリースした現役グループが、こぶしファクトリーとつばきファクトリーの2組。ともに2015年に結成され、同年3月に無期限活動休止したBerryz工房の精神を継承するべく“ファクトリー=工房”という言葉をグループ名に据えた、良きライバルであり姉妹的な関係性を持ったグループだ。


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 この2組はどちらも研修生内ユニットとして誕生したものの、結成から3年の時を経た今では、キャリアや個性など、様々な点で好対照な存在となっている。その対照性は、彼女達がリリースした最新シングル=こぶしファクトリーの『きっと私は/ナセバナル』(8月8日発売)と、つばきファクトリーの『デートの日は二度くらいシャワーして出かけたい/純情cm/今夜だけ浮かれたかった』(7月18日発売)の2作品にも鮮明に表れている。そこで本稿では、2組が歩んできたキャリアや最新シングルを通して見えてくる、こぶしファクトリーとつばきファクトリーの良きライバル関係について考えてみたい。


 ハロプロ研修生として活動していた藤井梨央、広瀬彩海、野村みな美、小川麗奈、浜浦彩乃、田口夏実、和田桜子、井上玲音の8名によるこぶしファクトリーの結成が発表されたのは、2015年1月2日。つばきファクトリーは同年4月29日に結成され、最初に選出されたメンバーは小片リサ、山岸理子、新沼希空、谷本安美、岸本ゆめの、浅倉樹々の6名だった。結成期間の差はわずか4カ月ほどだが、その後2組が歩んできた3年間のキャリアはとても対照的だった。


 まず順調なスタートを切ったのは、こぶしファクトリー。グループとして最初の楽曲となったインディーズデビューシングル曲「念には念」がハロプロファンの間で人気を博し、2015年9月には『ドスコイ!ケンキョにダイタン/ラーメン大好き小泉さんの唄/念には念(念入りVer.)』で早くもメジャーデビュー。同年末には日本レコード大賞最優秀新人賞を受賞し、全国10カ所を回る単独ライブツアーを行うなど、結成から1年足らずで見事なスタートダッシュを決めた。


 一方、つばきファクトリーは2017年のメジャーデビューまで、長い雌伏の時を経験することになる。2015年から2016年にかけて3枚のインディーズシングルをリリースするも、大きな話題を集めることは少なく、メジャーデビューを待たずしてハロプロ研修生から小野瑞歩、小野田紗栞、秋山眞緒の3人が新たに加入。当初、最初に選ばれた6人には増員に複雑な思いがあったようだが、結果的にはこの新メンバー追加がグループの状況を好転させることになった。


 順風満帆なこぶしファクトリーと辛酸を舐めてきたつばきファクトリーのキャリアに、大きな転換期が訪れたのは、どちらも2017年。つばきファクトリーは2月に『初恋サンライズ/Just Try!/うるわしのカメリア』で待望のメジャーデビューを果たし、オリコンチャート初登場3位の好成績を記録。収録曲の中では、特に「初恋サンライズ」がハロプロファンの間で大きな反響を呼び、2017年のハロプロを代表する楽曲の一つとなった。同年末にはこぶしファクトリーに続いて日本レコード大賞最優秀新人賞を獲得。現在に至るまで不動の9人で順調に活動するつばきファクトリーは、今やハロプロの中でもトップクラスの勢いあるグループとして注目されている。


 かたやこぶしファクトリーは、主演映画『映画版 JKニンジャガールズ』の公開という話題があったにも関わらず、2017年1年の間で3人のメンバーが脱退・卒業することに。現在は広瀬彩海、野村みな美、浜浦彩乃、和田桜子、井上玲音という5人編成での活動となっている。


 2組の最新シングルは、現状の彼女達の立ち位置や、ハロプロ全体の流れなども踏まえた見事に対照的な作品に仕上がっている。まず、今年2月にリリースされた3rdシングル『低温火傷/春恋歌/I Need You ~夜空の観覧車~』に続き、2作連続のオリコンチャート2位となった、つばきファクトリーの『デートの日は二度くらいシャワーして出かけたい/純情cm/今夜だけ浮かれたかった』。


 近年のつんく♂楽曲の王道路線を行くアンニュイなエレクトロニックチューン「デートの日は二度くらいシャワーして出かけたい」、「低温火傷」に続いて気鋭の女性ソングライター・大橋莉子が作詞作曲を手掛けた「純情cm」、つんく♂以外では最もファンに信頼されている作家の中島卓偉が児玉雨子とタッグを組んだ「今夜だけ浮かれたかった」と、2015年以降のハロプロとつばきファクトリーの方向性をそれぞれに推し進めた3曲だ。メジャーデビュー以降、順調な歩みを続けるつばきファクトリーの勢いを感じさせる、“今”のハロプロの王道的なシングル作品と言えるだろう。


 それに対して、こぶしファクトリーの『きっと私は/ナセバナル』は、“古き良き”ハロプロに回帰したような2曲に仕上がっている。こぶしファクトリーにとっては初めてのつんく♂提供曲となった「きっと私は」は、2000年代のハロプロ楽曲を彷彿とさせる、明るくポジティブなミドルナンバー。メンバーの脱退を経た、今のこぶしファクトリーの心情を若い女子の恋愛感情に投影させたカジュアルな言葉遣いの歌詞には、つんく♂ならではの手腕が光る。また、つんく♂楽曲のラップアレンジを通してハロプロに多大な貢献をしてきた功労者・U.M.E.D.Y.(昨年末に46歳の若さで逝去)がクレジットされている点においても、ハロプロファンにとっては感涙必至の一曲と言えるだろう。


 もう一つの「ナセバナル」は、Wink「淋しい熱帯魚」や高橋洋子「残酷な天使のテーゼ」などで知られる大御所作詞家・及川眠子が作詞を担当。作曲は近年のハロプロで最多の提供曲を誇る星部ショウで、壮大なパワーバラードとなっている。昨年3名脱退の憂き目にあったこぶしファクトリーだが、結果的に残った5人はいずれも高い歌唱力を誇るメンバー。この曲を聴くと、彼女達のアイドルらしからぬ拳の効いた歌唱は、こぶしファクトリーにとって唯一無二の魅力であり、最大の武器だということが分かる。


 “現”ハロプロの王道を進むつばきファクトリーと、“古き良き”ハロプロの魅力を復権させたこぶしファクトリー。その2組には、当初からハロプロキッズを出自に持つBerryz工房と℃-uteのような関係性の構築が期待されていたのは間違いないだろう。結成時は押し付けられているだけといった印象もあったが、それから3年を経て、彼女達のライバル関係はようやく実体を伴ったものになりつつある。今後、こぶしファクトリーとつばきファクトリーには、Berryz工房と℃-uteのように互いを高め合いながら、ハロプロとアイドルシーンを長く牽引していくようなグループに成長していってもらいたい。(青山晃大)