■女性だけの新生オーシャンズに抜擢されたアジア系アメリカ人キャスト
「Who the fuck is Awkwafina?(Awkwafinaって何者だ?)」――Awkwafina(読みは「オークワフィナ 」)の新作EPのオープニングを飾るスキットで、ある人物が彼女に向かってそう言い放つ。映画『オーシャンズ8』を見て同じフレーズが頭に浮かんだ人も少なくないのではないだろうか。
サンドラ・ブロック、ケイト・ブランシェット、アン・ハサウェイ、Rihannaらと並んで女性だけの新生オーシャンズに抜擢されたアジア系アメリカ人Awkwafina。30歳の新進スターは、デビー(サンドラ・ブロック)やルー(ケイト・ブランシェット)の大胆な泥棒計画の実行犯として重要な役割を果たすスリのコンスタンスを演じた。
これまでもラッパーや役者として幅広い活動を行なってきた彼女だが、今年は『オーシャンズ8』、そして先日に本国でプレミア上映されたばかりの『クレイジー・リッチ!』(原題『Crazy Rich Asians』、9月28日に日本公開)と、ハリウッド映画に立て続けに出演し、飛躍の予感を感じさせる。
■女性器をネタにした“My Vag”で一躍有名に
Awkwafinaことノラ・ラムは中国系アメリカ人の父親と韓国系移民の母親の間に生まれた。出身は、『オーシャンズ8』で彼女が演じたコンスタンスと同じニューヨークのクイーンズ。ロバート・デ・ニーロやアル・パチーノ、マーティン・スコセッシ、ティモシー・シャラメ、ニッキー・ミナージュらも通った名門ラガーディア高校を卒業している。
彼女の名を一躍有名にしたのは2012年にYouTubeに投稿された“My Vag”のPVだ。女性器をネタにしたユーモラスなビデオは250万回再生のバイラルヒットを記録。彼女はこの作品によって当時働いていた職場をクビになったそうだが、それ以上にその名が様々なメディアで取り上げられることとなった。
ラッパーとしては2014年にアルバム『Yellow Ranger』を発表。その後は、セス・ローゲン製作・主演のコメディー『ネイバーズ2』で2016年に長編映画デビューを飾ると、同年公開のアニメ映画『コウノトリ大作戦!』にも声優として参加。『オーシャンズ8』の脚本家の1人オリビア・ミルチの初監督作『エンド・オブ・ハイスクール』(Netflixで配信中)にも出演するなど俳優業を多くこなし、今年1月には渡辺直美の起用で日本でも注目を集めたGAPの広告「Gap Logo Remix」のモデルにもSZAらと並んで選出された。
そして今年6月、『オーシャンズ8』の全米公開日と同日に4年ぶりの新作EP『In Fina We Trust』をリリースしている。
■『オーシャンズ8』全米公開日に新作EPを発表
冒頭の「Who the fuck is Awkwafina?」は、『In Fina We Trust』のオープニングトラックに登場するセリフだが、このスキットではAwkwafinaと彼女のことを認識しつつも誰だか思い出せない人物とのかみ合わない会話がコミカルに展開される。
その中でAwkwafinaは様々なアジア系スターに間違えられる。名前が登場するのは『X-MEN』シリーズに出演したファン・ビンビン、ドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』のソーソー役で知られるキミコ・グレン、『クレイジー・リッチ!』で主演を務めるコンスタンス・ウーら。『オーシャンズ8』と『クレイジー・リッチ!』への出演は、Awkwafinaを彼女たちと並ぶスターに押し上げるかもしれない。
■ハリウッドでのアジア系キャスト起用が十分でない現状
8月15日に全米公開される『クレイジー・リッチ!』はシンガポール生まれのケビン・クワンのベストセラー小説を原作に、中国系アメリカ人の女性とシンガポールの富豪である恋人の恋愛模様を描いた作品。
『オーシャンズ8』ではメインキャストの8人全員が女性で構成されるのに対し、『クレイジー・リッチ!』のメインキャストは全てアジア出身もしくはアジア系の俳優からなる。メインのキャラクターをアジア系キャストのみが演じるハリウッドのスタジオ映画としては約25年ぶりとされており、主要キャストのほとんどを黒人が占める『ブラック・パンサー』と比較する声もある。アジア系の人々をナードや武道の達人のようなステレオタイプに押し込めず、魅力的で自立したキャラクターとして描いている点も重要だ。
最近の調査では、2017年のトップ100映画のうちセリフのあるアジア系のキャラクターが登場するのはわずか4.8%で、およそ3分の2の作品にはアジア出身もしくはアジア系アメリカ人の女性のキャラクターが登場しないという結果が報告されている。アジア系俳優の活躍の場が限られている現状の中で『クレイジー・リッチ!』のような作品が生まれることの意義は大きい(だからこそ邦題で原題にある「アジアンズ」がなくなってしまったのは残念だ)。
■「自分のコミュニティーに影響を与えたい」
Awkwafina自身もエンターテイメント業界のこのような状況には意識的で、アジア系の俳優やアーティストがメインストリームで活躍することの重要性にたびたび言及する一方、ラッパーとしても欧米社会でアジア系の人々が抱かれるステレオタイプへの痛烈な皮肉を作品に込めている。
『オーシャンズ8』全米公開時に行なわれたMTVのインタビューでは幼少期にマーガレット・チョーの姿を見て大きなインスピレーションを得たことを明かし、「アジア系アメリカ人の若い世代にとって、自分たちと同じような人々をスクリーンの中に見ることは非常に重要」と話す。
さらに「私は自分のコミュニティーに影響とインパクトを与えたい」「私だけが目立つこともないくらい、もっと多くの(アジア系の)人々がいてほしい」と語っている。
Awkwafinaの活躍はこの2作に留まらず、公開待機作としてアリス・ワディントン監督のSFスリラー『Paradise Hills(原題)』がある。この作品ではエマ・ロバーツ、ミラ・ジョヴォヴィッチらと共演。さらに現在アメリカのケーブルチャンネル「コメディ・セントラル」と共に自身が主演するシリーズの開発に取り組んでいるというから、今後も多方面でその才能を発揮しそうだ。
『オーシャンズ8』は8月10日から全国で公開。『クレイジー・リッチ!』は9月28日から公開される。