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“バクチク現象”は今も続いているーー『BUCK-TICK 2018 TOUR No.0』追加公演を見て

2018年08月10日 17:32  リアルサウンド

リアルサウンド

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 BUCK-TICKの通算21枚目に当たるオリジナルアルバム『No.0』はオリコンアルバムチャートの週間ランキング(2018年3月26日付)で2位を記録。メジャーデビュー31年目にして改めてバンドの底力を見せつけた。不動の5人で激動のシーンをサバイブし続け、BUCK-TICKというジャンルを築き上げたことも偉業だが、23年ぶりにアルバムがチャートのトップ3にランクインしたという事実にも驚かされる。これは彼らの存在や音楽がコアとなるリスナーのみならず、若い世代にも知られ、聴き継がれていることの証明だろう。“バクチク現象”は今も続いているのである。


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 最高傑作と評されている『No.0』を携えて今年の3月からスタートした全国ツアー『BUCK-TICK 2018 TOUR No.0』の追加公演として東京・国際フォーラム ホールAで開催されたライブで感じたのは、手塩にかけた最新の楽曲たちをツアーで磨き上げ、最高の状態で届けるという濁りのないアティチュードだった。


 プロジェクションマッピングでネジやスパナが宙を飛び交い、組み上げられていく映像が映し出され、ステージに据えられた4つの白い布で覆われた謎の物体に照明が当たり、今井寿(Gt)、星野英彦(Gt)、樋口豊(Ba)、ヤガミ・トール(Dr)のシルエットが浮かんでは砕け散るというワクワクする演出の中、ライブはアルバムのオープニングを飾る「零式13型「愛」」で幕を開けた。布の中からメンバーが姿を表し、ステージ後方から軍帽にマント姿の櫻井敦司(Vo)が登場すると大歓声。打ち鳴らされるヤガミの力強いドラムはまるで鼓動のよう。スクリーンには胎児が映し出され、ドラマティックで重厚なナンバーが“愛”の誕生を祝福する。


 インダストリアルでグラマラスな「美醜LOVE」は結成当初からビート感を打ち出していたBUCK-TICKの進化形とも言えるロックナンバー。今井と星野が上手と下手に分かれ、櫻井がエロティックなボーカルで魅了する。間合いが絶妙なヤガミと樋口のビートが絡み合い、小気味いいギターのストロークが快感を加速させていく。誰が欠けてもこのムードは醸し出すことができないだろう。挑戦を続けながら、軸をぶらすことがなかったBUCK-TICKのバンド魂を前半にして見る思いがした。


 そして、いくらでも深読みができる楽曲を生み出しながら、初めて見る人をもその世界に引きずりこんでしまうポップセンスを持ち合わせているのも、彼らならではのバランス感覚。


 星野作曲による透き通ったイントロで始まる甘美なメロディの「Ophelia」では、スクリーンに水面に浮かぶオフィーリアの姿を描いたミレーの美しい絵画がーー。そのロマンティシズム溢れる世界を櫻井がみごとに表現した。


 そこから一変、今井のノイジーでエキゾティックなギターと身体を揺らさずにはいられないグルーヴに国際フォーラムが揺れた「光の帝国」では櫻井もダンス。〈闇の螺旋で遊んでたのに/いつもそうなんだ青空が邪魔をする〉と繰り返されるフレーズに心がザワついたかと思うとアバンギャルド精神炸裂の「ノスタルジア – ヰタ メカニカリス -」へと移行。炎が上がる派手な演出の中、櫻井と今井のボーカルの掛け合いも聴きどころの「IGNITER」が投下される頃にはBUCK-TICKワールドにどっぷり浸かっている。


 愛、宇宙、生と死、反戦などのテーマを含んだアルバム『No.0』は決して軽いタッチなものではない。後半にいくにつれ、ライブはシリアスさを増し、シングルとしてリリースされた「BABEL」は人間のエゴイズムや欲望を浮き彫りにした重厚でダークな世界観。〈我はBABEL〉と歌う櫻井は威嚇するのではなく、崩れ落ちるような人間の脆さを表現していたのが印象的だったし、スクリーンに映し出されたサンドアートと共に披露されたバラード「ゲルニカの夜」はその切なさや痛みが増幅するような演奏だった。本編を締めくくったナンバーは「胎内回帰」。ラスト2曲には絶えない争いへのメッセージが込められており、歌からも紡がれる音からも真摯な想いが伝わってきた。


 30周年のツアーと言えども過去の代表曲を織り混ぜて観せるのではなく、あくまで最新作をライブで立体的に届けることに焦点を絞り、旧曲もその世界観に沿ったもので構築したBUCK-TICK。深遠でありながら、同時にロックバンドとしての不埒さや遊び心も感じさせる構成とパフォーマンスで見る者を釘付けにした。


 アンコールでは櫻井の猫愛が溢れ出したナンバー「GUSTAVE」が披露され、今井が猫じゃらしを口にくわえてパフォーマンス。星野や樋口も猫の真似をし、会場も猫ポーズで盛り上がるなど、お茶目な一面で沸かせる場面も。ダブルアンコールの最後の曲が〈ある日 君と出会って/ある日 愛を知る〉、〈ある日 夢が終って/ある日 目を閉じる〉と歌う8年前にリリースされた楽曲「Solaris」だったのもこのツアーにふさわしすぎるエンディングだった。


 人間の切なさも愚かさも儚さも愛おしさもすべてを受け入れ、最終的に生命の輝きを浮かび上がらせるようなライブ。10月からスタートする『TOUR No.0 -Guernican Moon- 』ではどんな景色を見せてくれるのだろうか。


■山本弘子
音楽ライター。10代の時にパンクロック、グラムロック、ブルースに衝撃を受け、いまに至る。音楽がないと充電切れ状態に陥る。現在、Webサイト、音楽雑誌などで執筆中。