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シンカリオンに「適合率」が高いのはなぜか小学男児、記者が親目線で労働環境を調べてみた

2018年08月10日 10:52  弁護士ドットコム

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2018年の夏。日本中の子どもたちが夢中になっているのが、テレビアニメ「新幹線変形ロボ シンカリオン」(TBS系列)だ。8月11日放送の31話では、人気アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」とコラボしてシンジくんも登場する予定で、大きなお友達も巻き込んで盛り上がっている。


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シンカリオンとは、日本の乗客と路線とダイヤを守ってきた新幹線が、新たに平和を守るという使命のもと、最先端テクノロジーによって変形するロボット。その運転士(パイロット)には、シンカリオンと高い「適合率」を持つ子どもたちが選ばれ、謎の敵「巨大怪物体」と戦いながら成長していく。新幹線とロボットというみんなの大好物を、がっちり連結させた王道物語だ。


実は、メインで活躍する運転士3人はまだ11歳の小学5年男児。一緒に視聴している保護者を気にしてか、シンカリオンを開発する新幹線超進化研究所では当初、子どもを危険な任務に従事させることに葛藤していた。それでも、「親の許諾は?」「何時から何時までならシンカリオンに乗ってOK?」など気がかりは少なくない。もしも、「俺、シンカリオンに乗りたい!」と我が子が言い出した時に、親として知っておくべき法的問題を調べてみた。 (監修協力:松本常広弁護士、文章:弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)


(編集部注:以下、ネタバレを含みますので、未視聴の方はご注意ください)


●原則、小学生は働くことが禁止されている。ただし例外は?

まず、1人目の運転士に選ばれたのは、新幹線が大好きな小学5年生、速杉ハヤト(11歳)。冬休み中、鉄道博物館の職員である父、ホクトと一緒に新幹線に乗ったところ、ホクトが急に職場から呼び出された。実はホクトは、鉄道博物館の地下にある新幹線超進化研究所東日本司令室の指導長として、シンカリオンを開発していた。ハヤトは忘れものをしたホクトを追いかけ、研究所に迷い込む。そこでは、謎の巨大怪物体に襲撃されているホクトたちがいた。危機が迫る中、ハヤトとシンカリオンの適合率が96.5%という非常に高い数値であることがわかる。


研究所のメンバーは「ちょっと待ってください。彼はまだ子どもですよ!?」と止めるが、ハヤト自身が「お父さんを助ける力が本当にあるんだったら、俺、お父さんの役に立ちたい!」と言って、シンカリオンの運転士を志願。ホクトは苦渋の決断の末、ハヤトを運転士として、「シンカリオン E5はやぶさ」を発車させた。


この場合、「ハヤトは11歳の小学生」「シンカリオンを操縦して戦うことは仕事」ということを前提として、ハヤトがシンカリオンの運転士になることは可能なのだろうか。子どもの労働については、労働基準法56条1項2項で次のように決まっている。


・原則、小・中学生を働かせることはできない。


・ただし、13歳未満であっても、例外的に映画や演劇の仕事については働かせることができる。


つまり、実際には小学生がシンカリオンの運転士になるのは相当、ハードルが高いようだ。「平和を守るため」という超法規的措置か、「シンカリオン」というアクションSF超大作の戦闘シーン撮影という形で戦うなどの工夫が必要だろう(作中でも、同級生・上田アズサの動画において、シンカリオンは「いまどきのCG」扱い)。ちなみに、高校生だったとしても、「一定の危険有害な業務」については禁止されているので(労基法62条)、やはり現実には難しいと考えられる。


●子どもが同意していても、労働契約を親が締結することはできない

では、仮に無理やりシンカリオンの仕事を13歳未満の映画撮影として認めた場合にも、制限はある。


・勉強に差し支えないことを証明する学校長の証明書や、親の同意書などを労働基準監督署長に提出、許可を得なければならない(労基法56条2項、年少者労働基準規則1条)。


ハヤトの初戦後、大人たちの間では、シンカリオンに小学生を乗せて良いのか、議論が始まる。指導長と父親、ふたつの立場で板挟みになったホクトは悩むが、「大人が子どもを守るのは当然です。でも今は、大人と子どもが一緒に未来を守っていかなければいけない時なのかも」という部下の言葉に心を動かされ、ハヤトを運転士とすることを決断。後日、ハヤトの母親である妻のサクラにも、許しを得ている。


ここで大事なのは、親の同意も必要だが、ハヤト本人の意志だ。


・親が未成年者に代って労働契約を締結することは、未成年者本人の同意を得ていてもできない。あくまでも労働契約は本人が締結する必要がある(労基法58条1項)。


確かに、ハヤトに続いて、シンカリオンの適合率が高かった少年2人、男鹿アキタと大門山ツラヌキも、当初は運転士になることを拒絶していたが、ハヤトの説得などを経て、同意のもとに運転士となっている。このあたりのプロセスはとても丁寧に描かれていて、親としては安心して見ていられるポイントだ。


●絶妙のタイミングで敵来襲、ダイヤも労基法も読めるとしか思えない

子ども本人、そして保護者の同意があり、いざシンカリオンの運転士となって働くことになった場合、労基署の許可が必要なことはすでに述べた。もし、許可が得られた場合はどうなるのだろうか。


・許可が得られれば、学校の時間以外に働かせることになる(労基法56条2項)。


・ただし、13歳未満の場合は午後8時から午前5時(厚生労働大臣が必要と認める場合は午後9時から午前6時)までの就労は禁止(労基法61条5項)。


・労働時間は、学校の時間と合わせて1日7時間、週40時間以内(労基法60条2項)。


まだ小学生だから仕方ないものの、シンカリオンの運転士は突然襲ってくる「巨大怪物体」に対応しなければならず、「定められた時間外にも勤務は及ぶのでは…?」と心配になった。ところが、注意深くみていると、まだ小学生が運転士になる前は、「午前3時18分」に出現している。これは、始発である「午前4時37分」前であり、敵もダイヤに配慮していると推測された。


ハヤトたちがシンカリオンに乗るようになると、今度は昼間に出現するようになるが、決まって長期休暇や週末、あるいは放課後。学校にいる間、呼び出しを受けることはないようだ。敵はダイヤだけでなく、労基法も読めるとしか思えない。もちろん、日々の運転士としての訓練も、放課後に行われ、夕方6時過ぎにはもう帰宅している。時折、温泉や海水浴など慰安旅行にも連れて行ってもらえる。仕事内容はハードだが、職場は案外、ホワイト企業なのかもしれない。


さらに子どもにとって重要なのは、運転士として得た給与だ。


・親が代わりに子どもの賃金を受け取ってはならない(労基法59条)。


憧れの新幹線やロボットに乗ることができ、お小遣いも増えるとなれば、シンカリオンの運転士になりたいと思う子どもはますます増えそうだ。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
松本 常広(まつもと・ときひろ)弁護士
東京弁護士会所属。武蔵小山法律事務所代表弁護士。「新世紀エヴァンゲリオン」の庵野秀明監督は高校のOB。高校での講演会で「社会人になると利害関係が生じてなかなか難しいから学生のうちに真の友達を作っておいた方が良い」といったことを話されていたのが印象的。でも思春期こじらせて友達できなかったんだよなぁ、高校時代。ごめんなさい監督。「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」2025年くらいまで待ってます。
事務所名:武蔵小山法律事務所
事務所URL:http://musakolaw.com/