8月4~5日に富士スピードウェイで行われたスーパーGT第5戦。今回は500マイルという長距離レースのなかでGT300クラスに起きていたトピックスをいくつかお届けする。
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■変則的ピット戦術で挑んだHOPPY 86 MC。第1戦から成長した坪井の走り
33周を走って1回目のピットに入ったHOPPY 86 MCは、右側2輪のみのタイヤを交換した。富士は1コーナーでのブレーキングで左フロント、100Rで左リヤへの負担が大きく、2輪交換の場合は左側を交換するのがセオリーとなる。つまり、観る者には奇策に映った。
当初、スタンダードプランとして立てていたのは4回のピットを無交換、4輪交換、無交換、4輪交換でつなぐことだったという。しかし、第1スティントを担当した坪井から「左コーナーが速く走れない」という無線が届く。
そこで土屋武士監督兼エンジニアは、用意していた“右側2輪交換”プランを敢行し、その後を左側2輪、無交換、4輪交換へと変更。ポールポジションを獲得してはいたが、決勝になるとマザーシャシー(MC)はストレートスピードに勝るFIA-GT3勢に対して厳しい戦いを強いられる。勝ちを狙うには、ピット時間を少しでも削るしかなかったのだ。
坪井は右側のみ交換になったと聞くと、左側タイヤの温存に努めた。通常、アクセルをパーシャルで駆け抜ける100Rでは、アクセルを全オフし、ときにはブレーキも使った。バトンを受けた松井孝允は、左側のタイヤを63周無交換で走ったことになるが、「坪井選手のマネージメントのおかげで、まったく問題なく走れた」という。
今度は無交換で第4スティントを担当した坪井は、100Rでスピンする場面もあった。これに対して「MCはギリギリの領域で走らないと勝てない。タイヤ無交換でいけば、さらにシビアになる。だからあれはミスではない」と松井。
坪井は「悔しい」と振り返りながらも表情は明るかった。それは第1スティントでのタイヤマネージメントに自信を深めたからだ。坪井は開幕戦岡山で第1スティントを担当し、タイヤ無交換作戦と知りながら、レーシングドライバーとして“誰よりも速く”という性を抑えきれなかった。
しかし、今回はそこを我慢できた。MCにとって苦手な富士で5位、ポールポジションの1ポイントも貴重な加点となったが、一番の収穫は坪井の成長だった。
■不運続くHitotsuyama Audi R8 LMS。レース前のお祓いの効果は……
前戦タイでトップを走行中にGT500のクラッシュに巻き込まれてリタイア。Hitotsuyama Audi R8 LMSは、今季ここまで不運の連続だった。そこでチームは第5戦富士前に、スタッフ全員でお祓いに行ったという。
酷暑のなか護摩焚きした御利益は予選ですぐに効果が現れた。Q1タイムは15番手だったが、88号車のタイム抹消により繰り上げでQ2に進出、5番グリッドを得る。しかし決勝では残りわずかとなった159周目、6番手に上がった直後に左リヤタイヤがパンク。ノーポイントに終わった。
実力的にはタイトルも狙える。足りないのは運だけ。残り3戦はR8が得意とするサーキットだが、果たして──。
■谷口信輝、ドリンク飲まずに500マイルを戦い抜く。「みんなはちゃんと水を飲んでね!」
グッドスマイル 初音ミク AMGをドライブする谷口信輝はレース中にドリンクを飲まないという。「集中していると欲しいと思わないし、1回水を飲むと気持ちがダレちゃうから」と谷口。
しかし、酷暑のなかでの500マイルでは「チームに迷惑をかけたくない」と、万が一に備えてドリンクを装備してスティントに臨んだ。
では、レース中、そのドリンクは飲んだのか?
「ちょっぴり口を潤したけど全然飲んでない。やっぱり飲み慣れてないからね。でも、自分でこれが間違っているのは分かっている。みんなはちゃんと水を飲んでね!」