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the GazettE、アルバム『NINTH』がライブに与えた衝撃 ツアーに凝縮された深化したバンドの姿

2018年08月09日 19:52  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ラウドに鳴り響く無機質なビート……不穏な空気を呼び起こすようなSE「99.999」に合わせて、真紅の光の筋がステージ後方の柱を照らすと、そのまま『NINTH』の印象的なロゴを描いていく。それが5つ並ぶと下手から現れたメンバーがゆっくりと持ち場についた。地響きのような轟音と猛り狂う獣の咆哮、いや、RUKI(Vo)のグロウルが轟く。がっしりとした低い重心と、アタックの深く切れ込むようなメリハリの効いたアンサンブルが襲い掛かってくる。オープニングナンバー「Falling」で『the GazettE Live Tour18 THE NINTH / PHASE #01-PHENOMENON-』は幕を開けた。


参考:the GazettEが語る、9thアルバムで提示した独自の美学 「“名を残せるバンド”でありたい」


 7月19日、埼玉県三郷市文化会館 大ホール。「サイタマァァァァーー!!」RUKIの叫びに全力で応えていくオーディエンス。アルバムを引っ提げてのツアーは実に3年ぶり。座席のあるホールでのライブも久しぶりだ。スタンディングやアリーナ会場とはまた違う雰囲気と景色が広がる。それはステージ上からのメンバーが見る視界も同じようで、膂力を大きく振りかぶりながらアンサンブルを司る戒(Dr)は時折、満悦な表情を隠せない様子で客席を眺め、体勢とともに腰を落としたグルーヴを弾き出すREITA(Ba)は、オーディエンスを挑発するようにカッと目を見開きながら舌を出す。クールにキメ込む麗(Gt)も葵(Gt)も、この場を愉しんでいるように見えた。


「基本『NINTH』っていう新曲ばかりなんだけど、どうやって動いていいかわからないよね? それは俺らも同じなわけ(笑)」


 黒を纏ったメンバーの中、臙脂色のベロアの上下で身を固めたRUKIが口開く。予定調和を嫌うライブバンドらしい言葉だ。


「俺が引っ張って行くから、オマエらついて来いよ!」


 『NINTH』は非常に刺激的なアルバムだ。タイトル通りの“9枚目”であることを色濃く打ち出した楽曲群。彼らの貪欲なこれまでの音楽探求を踏襲しつつ、より深化した現在のバンドの姿が凝縮されている。猟奇的でありながら妖艶で蠱惑的な魅力を持つthe GazettEというバンドをわかりやすく表しているといえるだろう。そんなライブ映えする楽曲が矢継ぎ早に強襲してくるのだ。息つく暇などない。


 パンキッシュな「裏切る舌」でこれでもかというほど狂気のアンサンブルを魅せつけ、静寂の中、不意に鼓動を衝くように叩き弾かれるREITAのベースにドキッとしながら始まった「THE MORTAL」の次々と変わっていく楽曲の表情に思わず目と耳が奪われていく。和情緒と疾走感がドラマチックに交錯していく「虚 蜩」。そして、葵の弾く美しい旋律にはじまり、優々たる麗のギターと艶かしいRUKIの歌声が見事なまでに絡み合っていく「その声は脆く」。REITAは己の右手をギュッと握り、じっと見つめてから左胸にそっと押し当てる。最後は優しくベースを抱きしめ、ゆっくりとつまみをオフにした。


 初めて生で聴く『NINTH』の楽曲は、要所要所音源とは異なるライブアレンジと、その瞬間ごとに生み出される情景によって、良い意味で印象が変わった楽曲が多かった。そして、この先ツアーで何度も演奏されていくたびに、ファンにとってもバンドにとっても、その印象と想いは上書きされていくのだろう。


「ツアー回ってるといつからかノリが固定されていくんだけど、誰が決めるんだろうね? 俺たちはこう(ヘドバン折りたたみ)やってるのに、みんなはこう!(ヘドバン横振り)」


 いつになく饒舌なRUKIが会場を沸かす。前作『DOGMA』ツアーの初日、作品の手応えを基に意気揚々と臨んだものの、幕が開くと想像とはまったく違ったノリの光景が広がっていて、終わったあとに泣いた(?)こと。今回のツアーはみんなの顔をゆっくり見ながらやろうと思っていたけど、いざ始まってみたらそんな余裕はなかったこと。ここで手を叩けばみんなも叩いてくれるかなと考えてたけど、実際マイクを持ちながら歌っているからうまく手が叩けなかったこと……などなど、笑いを誘っていく。


「初日ってさ……いや、初日じゃないや。1日目? んー、あ、バージン! 『NINTH』バージン!!」(RUKI)


 研ぎ澄ました攻撃性を持つ音楽と妖艶に作り上げられたバンドの美学を持ちながらも、こうしたゆるい側面を持つのも彼らならでは。いつになくエッジを効かせたサウンドを持つアルバムのツアーでもあり、レーザーを駆使したインダストリアルな照明演出を駆使したライブにも関わらず、だ。そして、バンドとオーディエンスの探り合い、ツアー初日にありがちな緊迫感もなく、終始アットホームな雰囲気に包まれていた。


 RUKIが真っ赤なワイヤードマイクを鞭のように操りながら、腰をくねらせながらの「BABYLON’S TABOO」。デジタルなシーケンスに合わせて、巻き起こるオーディエンスの掛け声「UNTIL DIE!」とRUKIのシャウト「BREAK! BREAK!」が重なりがらの「ATTITUDE」で混沌としたラストスパートへ。現在進行形のthe GazettE流ラウドロックの真骨頂というべき「TWO OF A KIND」、インダストリアルメタルなアプローチ「ABHOR GOD」の反復するリフが堪らない。ラストは「UNFINISHED」。音源よりビート感が増すスリリングさが心地よい。ラウドロックの印象が強いthe GazettEであるが、やはり泣きメロと早いビートのロックが根底にあるのだと再認識させられた。


 気がつけば、『NINTH』からは全曲披露された。それだけライブ映えのする楽曲揃い、自信のある楽曲ばかりだということだ。ツアー初日のライブレポートといえば、一般的にネタバレ回避のため、セットリストを中心に制約があることが多い。しかしながら今回は「本編一切制約なし」とのことだった。なぜなら「毎回セットリストを変えるから」とのこと。二度と同じライブはやらないという、ライブバンドとしての確固たる自信である。


 反面で厳しい見方をすれば、まだやり慣れていない粗削りなところがあったのも事実。しかしながら、本ツアーでそれは強靭なモノとなっていくことは言わずもがなだ。『NINTH』リリース時のインタビューでRUKIは、ツアータイトルに含まれている“PHASE #01”を一層目と語っていたが、二層目に当たる『the GazettE Live Tour18 THE NINTH / PHASE #02-ENHANCEMENT-』の開催も終演後に発表された。こちらは今回とは違った趣のスタンディングツアー。そして、配布されたフライヤーにはテープに隠されたさらなる展開を予感させるものもあった。今後ますます、the GazettEから目が離せなくなりそうだ。(冬将軍)