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『BANANA FISH』アッシュはなぜ女性に支持される? 「#MeToo」運動にも関連する生き方を考察

2018年08月09日 10:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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 漫画家・吉田秋生の画業40周年プロジェクトとして、現在フジテレビのノイタミナで放送中のアニメ『BANANA FISH』。原作コミックスは今から20年以上も前に完結しているにも関わらず、現在でも根強い人気を誇り、その輝きは色褪せない。特に、主人公・アッシュの魅力は格別だ。


 『BANANA FISH』は、筆者が生まれる前から連載されていた作品ということもあり、ほぼ予備知識ゼロの状態で文庫版を読んだ。黒地の装丁で、冒頭からベトナム戦争やマフィアの抗争といった血なまぐさいストーリーが次々と展開されていくものだから、てっきり青年向けコミックスだとばかり思っていた。そのため、途中で『別冊少女コミック』連載の少女向け漫画だったと気付いた際には、とても驚いた。どうりで、『BANANA FISH』には女性ファンが多かったわけだ。


 言われてみれば、原作でも登場人物らはスラリと細身で広い肩幅の逆三角体型。まさに80年代、90年代の少女漫画的だ。アニメでも、ブロンドのアッシュはもちろん、他のキャラクターの作画も想像していたより淡い色合いで、ハードボイルドな世界観の中にもどこか柔らかな印象を受ける。


 そうした作画以外で、本作の持つ少女漫画的要素といえば、主人公の白人少年・アッシュが女性的立場で描かれていることが挙げられる。ニューヨークのストリートキッズグループでボスを務めるアッシュだが、美しく華奢な容姿が原因で、幼い頃から同性の大人たちから性的暴行を繰り返し受けてきた。そうした経験は彼にとってトラウマとして記憶と身体に刻まれており、自分に性的な眼差しを投げかける人々に対しては、嫌悪の感情を向けている。だが、彼の立ち振る舞いからは、同時に“諦め”のようなものも感じられるのだ。


 昨年から、ジャーナリストの伊藤詩織氏やブロガー・作家のはあちゅう氏による「#MeToo」などでの告発を筆頭に、女性へのセクハラや性被害をさらに問題視する動きが高まっている。しかし、彼女たちへはもちろん、一般人の「#MeToo」運動に対しても、いまだに心ない声が数多く寄せられているのも確かだ。女性である筆者がそんな状況を傍目に見ていると、なんだかそれだけでも“諦念”に苛まれてしまう。きっと、多くの女性はこうした“諦め”を抱きながら、日々の生活を送っているのではないだろうか。


 こうした諦めの感覚は、男性にはなかなか理解されにくいものかもしれない。だが、アッシュは男性でありながら、我々女性と同じサイドに立っている。理不尽に性を搾取されることへ嫌悪を示し、それに抗いながらも強くあろうとする彼の姿には、女性だからこそ大いに共感してしまうのだ。


 アッシュは容姿端麗だが、ただ「強くてかっこいい」、「かわいそうな過去があるから応援したくなる」といったタイプの主人公ではない。女性が自分の姿を重ねられるような存在で、さらに、多くの女性が抱えているのと共通した苦悩を背負いながら彼は生きている。そうした類まれな立ち位置にいるからこそ、女性たちはアッシュというキャラクターに惹かれてしまうのだろう。


 余談になるが、文庫本では巻末ごとに著名人によるエッセイが掲載されている。坂本龍一や渡辺えり子など、錚々たる面々でどれも大変秀逸な内容なのだが、盛大なネタバレを含むエッセイもある(筆者は初見でみごとにその地雷を踏んでしまった……)。これから文庫本で原作を読もうと考えている人は、必ず最後まで読破してからエッセイを追うようにしてほしい。(まにょ)